「ただいまー」
「おかえり」
汗だくになったのっちは、「あっつー」なんて言いながら服をパタパタ扇いでいる。
「…あれ?ゆかちゃんは?」
「お手洗い行っとるよ」
「そっか。あ、あ〜ちゃんバニラで良かったっけ?」
「うん、ありがと」
ひんやりとしたカップアイスが、さっきの情事の熱を冷ましてくれる。
そこへ、ゆかちゃんがお手洗いから帰ってきた。
「あ…のっち、帰ってたんじゃね」
「うん、ついさっきね。ゆかちゃんは旨ミルクで良かったよね?」
「ん。ありがと、のっち」
何も知らないのっちは、にこにこしながらゆかちゃんにアイスを渡す。
…でも、知らない方がのっちは幸せなんだ。
それに、少なくとも今の時点でのっちに知られたくない。
「やっぱりアイス最高じゃね」
「のっち、それ一口ちょーだい」
「…しょ、しょうがないなぁ、もぉ…」
ゆかちゃんの上目遣いに、のっちは頬を紅くしてぶつぶつ言いながらアイスをゆかちゃんの口に運ぶ。
…あ、紅い舌が見えた。
それはのっちにも見えたようで、視線がそっと外れたのが分かった。
…のっちは今、何を考えているのだろう。
彼女も今、ゆかちゃんに欲情したのだろうか。
「…はぁ、終わったー」
「はい、お疲れ様」
シャーペンをほっぽり出して、のっちは畳に大の字に寝転んだ。もう勉強はいりません、と顔に出して。
そんな様子にくすくす笑うゆかちゃんを見て、あたしは鞄に手をかけた。
「さてと…じゃあ、あ〜ちゃん帰るね」
「じゃあ、のっちも帰ろっかな…ってちょ、な、何?」
むっくりと体を起こすのっちを押し戻す。
「あんたは残りんさいや。…ゆかちゃんと二人っきりになりたいじゃろ?」
「なっ!」
…あら、顔真っ赤じゃ。
きっとのっちの中で、予想外の展開に驚きと喜びが混じってるんだろう。
純粋に可愛いと思った。
「あとは若い二人でごゆっくり…。じゃあね」
「ば、ばいばい…あ〜ちゃん」
二人は照れながらあたしに手を振った。
…今は、これでいい。
これでいいんだ。
あたしのせいで壊れてしまう前に、のっちに幸せな時間を…。
黒い、黒い感情は、あたしを包み込んで離さない。
ゆらゆら揺れる胸の奥は、依然変わらない勢力のまま存在している。
…逃げられない。戻れない。
そう。
あたしはもう、戻れない。
「二人とも、ごめんね…」
この夏が終わるまでは。
最終更新:2009年03月30日 19:53