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「あ〜ちゃん、帰っちゃったね…」
「うん…」
あたしの体の右側だけ、やたらと熱を持っている。
じんわりとした暑さだけじゃない、熱。
彼女の肩が微かに触れているだけなのに、なんだか眩暈を覚えた。
どこかでひぐらしが鳴いてる声だけが、やけにリアルに伝わる。
「…のっち」
「な、なに?」
「………やっぱりなんでもない」
「へ?あ…そ、そう…」
さっきから胸の奥は痛いくらい高鳴ってるくせに、あたしはただ怯えていた。
…怖いんだ。ゆかちゃんに触れるのも、触れられるのも。
好き過ぎて、臆病になる。
ゆかちゃんの全てに触れたら、あたしはきっとあたしじゃなくなってしまう。
きっと、何かが外れてしまう。
…ゆかちゃんの全部を、支配したくなる。

だからあたしはまだ、彼女を抱いていない。
あ〜ちゃんが来る一ヶ月前にそういう雰囲気になったけど、やっぱり怖くなって途中で彼女の体から離れた。
ゆかちゃんは、いつまでも待つからって、のっちが抱きたいって言うまで待ってるからって言ってくれたけど、でも。

「のっち…」
「ん…?」
「…あの……—す、……ぃ…」
「なに?」


右隣の彼女は、あたしの服の裾をもじもじと弄りながら、ぽそぽそと何か言っている。
「ごめんゆかちゃん。もうちょっと大きい声で言って?」
「だ、だか…ら………—す」
「…す?」
「き、す…した、ぃ…」
「……」
…まいったなぁ。
どうしよう、可愛すぎる。
絶対、今顔赤い。
「えーと……ほんとにいい、の?」
「ん。…だめ?」
「だめ、じゃない…よ」
…でも、ごめんねゆかちゃん。
「…ん」
「……」
ちゅ、と唇が小さく重なった。
しかしそれはほんの数秒。
「……っ」
「くふふ…のっち顔真っ赤…」
「みっ、見なくていいから…!」
「なーんでよ、隠さんくてもいいじゃん」
「あー!あー!やだよ恥ずいよ!」
「にへへっ、のっちかわいー」
「うあー!!」



…ごめん、ごめんねゆかちゃん。

今のあたしには、これが精一杯なんだ。
これ以上はもう…飛び越えられないよ。


ぎゅうっと腕が首に廻されて、甘い匂いに包まれる。
…ああ、だめだ。胸の奥が甘い痛みに蝕まれる。
狂ってしまいそうになるから逃げたいけど、逃げられなくて、逃げたくない。
まるで甘い蜘蛛の糸。


「ゆかちゃん…」
「なに…?」
「好き過ぎて、どうしようもないよ…」

あたしはそんな彼女から、もうずっと抜け出せないでいる。


  • 続-







最終更新:2009年03月30日 19:55