Side A
昨夜は一睡も出来ませんでした。
目を閉じても、彩乃様のことばかりが浮かんで…。
ホントにどうなってしまったんでしょう?
そして、今。
彩乃様を起こす為に、先にキスをしなくてはいけないのですが、体が動きません。
また、触れたら熱くなって、おかしくなってしまいそうで…。
はぁ…。
しかし、これは起こす前の彩乃様とのお約束ですから。しっかりしないと。
なんとか顔を近づけて、少し掠るくらいの所まで来たのですが、私にはそれが限界で顔をはなしてしまいました。
それでも、やはり触れた唇は熱くなって、心臓までドキドキして。
また、おかしくなりそうです。
目を覚まされた彩乃様と目が合いそうになり、思わず視線を逸らしてしまったり。
きっと、そんな私を心配されて、撫でて下さろうとしたのに、無意識に足が半歩さがってしまい。
反射的に謝ったのですが…。
「…あたしには触られたくない?」
「っ!いえ!そんなことはありません!」
決してそのようなことは…。出来ることなら触れて欲しいです。でも…。
必死に伝えようとしたから、視線を合わせたことに気付かず、気付いた瞬間に慌てて逸らしてしまい。
「じゃあ、なんでそんなにビクビクしてんの?」
「……分かりません。自分でも…分からないんです。…すみません。」
分かっていたら、こんなに苦しくはないんでしょうか?
彩乃様に、こんな悲しそうなお顔をさせなくて、済むのでしょうか?
「…ぁ、そ。」
一言そう言われて、それから一度も話しては頂けませんでした。
怒ってしまわれたんでしょうか?
自分のことも分からないメイドなんて、必要ないですか?
食事をされてる間。
ずっと、彩乃様の横顔を見つめていたら、視線だけがこちらに向けられて、また慌てて視線を外してしまいました。
ゆっくり、彩乃様が視線を戻されたのを確認してから、自分も元に戻して。
だって、見ているだけで、こんなに心臓が破裂してしまいそうなのに、またあのキレイな瞳を見てしまったら、きっと私は死んでしまうに違いありません。
彩乃様をお送りする時に、一つだけ怒らせてしまったのかどうか、とお聞きしたところ、
怒ってないと言って下さったので、ほっと一安心です。
彩乃様に嫌われたくはありません。
今は何だかおかしいですが、私は彩乃様のお側に居たいのです。
「行ってらっしゃいませ。彩乃様。」
Side N
「お帰りなさいませ。彩乃様。」
家に帰ると、あやちゃんが迎えてくれる。
あたしはとりあえず、何気なくあやちゃんを観察することにした。
鞄を受け取るあやちゃん。
…可愛い。
あたしの前を歩くあやちゃん。
…後姿、可愛い。
部屋の戸を開けて、あたしが入るのを待つあやちゃん。
やっぱり…可愛い。
……。
てぇ…そこじゃないでしょ!自分!
鞄を所定の場所に置いて、お茶の準備をしてくれる。
ここで、普通なら紅茶とかなんだろうけど、あたしの場合は日本茶。
だって、ココ日本でしょ?
「お待たせいたしました。どうぞ。」
と、あやちゃんを確認。
ん〜、おどおどしとる?
湯飲みを受け取り、口に一口含む。
ん?なんか、いつもより渋い?
あたしの一瞬の変化を見逃さないあやちゃん。
「あの、何か、お口に合いませんでしたか?」
「え。あぁ、ちょっといつもより渋いかなって。」
はい。とあやちゃんに湯飲みを差し出す。
あたしの手に触れないように、恐る恐る湯飲みを受け取るあやちゃん。
あやちゃんの顔は…とぉ。なんか、受け取るのに真剣なんですけど…。
受け取ってから、失礼します。と言って一口コクッと飲むあやちゃん。
「あ。…申し訳ありません!すぐに入れ直します!」
渋いのを確認して、そのまま持っていこうとするあやちゃんを呼び止めて。
「待って待ってwあたしそれが良い。」
「しかしぃ…。」
「今日は、それが良い。あやちゃんが入れてくれたの、それが良い。」
顔を背けているあやちゃんの顔が、赤くなった。
え?
マジで?
「分かり、ました。」
そう言って、また湯飲みを渡しに来る。
あたしはわざとあやちゃんの手に触れるように、両手で覆うように湯飲みを受け取りに行く。
しっかり重ねられたあたしの手に驚いて、びくっとして、一瞬ぱっとあたしの顔を見てすぐに湯飲みへ視線を落とす。
そして、さらに赤くなっていくあやちゃんの顔。
ゆかちゃんの言葉を思い出す。
『あやちゃんものっちのこと好きだと思うよ?』
うわぁ。どうしよう?ホンマにホンマ?
あやちゃんが…あたしのコトを?
「すみません…。離して、下さい。」
「あぁ、ごめんごめんw」
一度手を離して、片手で改めて受け取る。
さっと、手を引っ込めるあやちゃん。
これも、ただ恥ずかしいから?
やばw顔がニヤケる。
ぐいっとお茶を飲み干して
「あやちゃん!おかわり!」
「はぃ!只今。」
くはぁw今日のお茶は格別だね!
「お待たせしました。…今度は大丈夫です。」
「ありがとぅw」
どうしよう。顔緩みっぱなしだ。
湯飲みを受け取って、また飲み始める。
ん?ちょっと待てよ?
あたしだけ気付いてても、あんまり意味無いんじゃない?
あやちゃんにも気付いてもらわんと。
でも、どうやって?
『恋なんだって分からないと、分からんよね?』
もう一つのゆかちゃんの言葉を思い出す。
…どうしよ。あやちゃんはたぶん、恋を知らない。
もしかしたら、誰かを好きになるってコト自体初めてなのかも…。
あれ?これってあたしが教えるの?
—つづく—
最終更新:2009年03月30日 20:02