病院に着くと、待合室にあ〜ちゃんが顔面蒼白で座っていた。
あたしは直ぐ駆け寄った。
「あ〜ちゃん!!あ〜ちゃん?」
「・・・のっち」
あ〜ちゃんは震えてて、手は真っ赤に染まってた。袖口にも、服にも赤い血糊が付いていた。
血まみれになったあ〜ちゃんを見て、また血の気が引いた。
こんなに血が出たゆかちゃんは大丈夫?
もしかして、昨日言い争ったコトが原因?
「のっち、、、どうしよ・・・ゆかちゃん、、、死んじゃうの?」
「そ、そんなことないけぇ」
あたしはあ〜ちゃんの震える身体を抱きしめる。
そして、血糊を落とす為トイレへあ〜ちゃんを連れてった。
手に付いた血は落ちたが、服にこびり付いた血は落ちなかった。
あたしは自分が着ていたジャケットをあ〜ちゃんにかけて座らせる。
あ〜ちゃんはこぶしを握り締めてる。
振るえを止めようとしてるけど、止まらないみたいだ。
あたしは震えてるあ〜ちゃんの肩を抱く。
「ゆかちゃん・・・お酒いっぱい飲んで、、、手首をカミソリで切ってたの・・・」
あ〜ちゃんは細々と喋り始めた。
「ゆかちゃんち、行ってチャイムを何度も押したけど、返事がなかったの。ノブを回したら、鍵が開いてたから、入ってみたの・・・」
「・・・うん」
「電気が付いてなくて、変だな・・・って思ったの。洗面所の方で、水が出てる音がしたから行ってみたの」
「・・・うん」
「したら、ゆかちゃんが・・・倒れてて、腕から血が出てて・・・呼んでも返事がなくて・・・」
「あ〜ちゃん、わかったから・・・もういいよ。」
「大丈夫・・・。人って案外丈夫なんよ。か、かっしーは大丈夫じゃけえ」
あたしは根拠のない励ましをする。
あ〜ちゃんの説明を聞いて動揺した・・・。
あたしが、あ〜ちゃんを好きになったから、ゆかちゃんが傷ついた・・・の?
あたしがゆかちゃんを傷つけた・・・の?
「・・・のっち?昨日、ゆかちゃんにあたしたちのコト喋った?」
あ〜ちゃんはあたしを見ずに、床に向かって話しかけた。
「えっ・・・あっ・・・ちょ、直接は言ってないけど・・・知ってた」
「知ってたって?バレてたってこと?」
「あ・・・昨日の朝・・・キス、、、したとこ、見られてたみたい」
「はぁぁぁ・・・」
あ〜ちゃんはため息をついた。
「ごめん・・・。のっち、、、ゆかちゃんこんなにしたの、あ〜ちゃんのせいだ・・・」
「えっ?どういうコト?」
理由を訊こうとした時、急に周りが慌しくなった。
もしかして・・・。
「おい!!輸血用の血液まだか!!」
「A型はさっきの緊急オペで使って、ストックがありません!!」
医者が叫んでる声が聞こえた。
血が足りない!?
あたしとあ〜ちゃんは顔を見合わせる。
あ〜ちゃんが看護師さんを捕まえてこう言った。
「あの、血が足りないならあたしの使ってください。同じA型です」
「ほんとに?助かります。一応検査するんでこちらに来てください」
「あっ、待って!!」
あたしは、あ〜ちゃんを呼び戻す。
「何?急がないとゆかちゃんが危ないんじゃよ!」
「あ〜ちゃん、この前献血の時、出来ないって言われたでしょ・・・あたしがかわりにやるよ」
「どちらでもいいんで、早くお願いします」
あたしはあ〜ちゃんを待合室に置いて、看護師さんと一緒に処置室へ向かう。
血を抜かれている間、以前三人で献血したコトを思い出した。
『三人で一緒に事故った時は、もし血が足りなくなっても安心じゃね』
『のっち、それ変。三人で事故ったら三人とも血が足りんじゃろ?てか、そもそも一緒に事故りたくなんかないしw』
『それに輸血出来るの、のっちだけじゃん。ゆか、のっちの血はいらんよ』
『えっ!?な、なんでのっちの血いらんの?』
『だってのっちの血、輸血されたら遅刻癖がつきそうなんだもん』
本当にゆかちゃんに、輸血するなんて思ってもみなかった。
いらないって言われたけど、あげなきゃ取り返しのつかないコトになるから。
遅刻癖がついたってゆかちゃん怒るかな?
また、三人でふざけ合えるかな?
そもそも、そう願う権利はあたしにあるの?
「終わりました。少しの間、横になってて下さい」
「はい・・・」
あぁ、意識が朦朧としてきた。
「のっち・・・平気?」
あ〜ちゃんが心配してきてくれた。
「あー、なんとか・・・」
あたしは身体をゆっくり起こして、壁に寄りかかった。
「ねぇ、さっき言ってた・・・『あ〜ちゃんのせい』ってどういうこと?」
あたしは朦朧としてる中、気になってたコトを訊いた。
「ゆかちゃんは・・・あ〜ちゃんがいないとダメなの・・・」
あ〜ちゃんは丸椅子に座って、決してあたしと目を合わせずに答えた。
「いないとダメってわかってたけど、ずっと・・・気付かないフリしてたの」
「・・・どういうこと?」
あ〜ちゃんに尋ねても返事はしてくれなかった。
「もしかして、かっしーの気持ち・・・知ってたの?」
「知ってても・・どうしようもないじゃない・・・。だって、どうすることも出来ないんだから・・・」
血を抜かれたからか、脳みそに行く血が足りなくて何言ってるんだか理解できない。
「ゆかちゃんのコトは好きだよ?でも、ゆかちゃんが求める”好き”と、あたしがゆかちゃんに思ってる”好き”は違うの」
「あたしは、ゆかちゃんの”好き”には応えられない・・・」
あ〜ちゃんは泣き出した。
今のあたしは、泣いている彼女を慰める気遣いはなくなってた。
「でも、やっぱりゆかちゃんがこうなっちゃった今・・・思うと、ちゃんと応えてあげればよかった・・・」
「あたしがのっちに声掛けなきゃ、ゆかちゃんはこんなコトにならなかった・・・」
あたしは相槌もつかず、ボーっと聞いていただけ。
なんだ・・・やっぱり、あたしが元凶か・・・。
「手術成功しましたよ!もう、大丈夫です」
看護師さんがパタパタと駆け寄ってきて教えてくれた。
あ〜ちゃんはその知らせを聞いて一目散にゆかちゃんの元へ飛んだ。
あ〜ちゃん。
あの夜、何が起きてもずっとそばにいてあなたのコトを守るって誓ったけど、ごめんそれ・・・守れそうにないや。
もう一緒にいれないよ。
あたしがあ〜ちゃんといると、ゆかちゃんが傷つくから。
あたしのせいで人が傷つくのは見たくないんだ。
ごめんね、そばにいれなくて。
ごめんね、守れなくて。
ごめんね、好きになっちゃって。
ごめんね、抱き締めちゃって。
こんなことになるなら、本当に出逢わないほうがよかったね・・・。
二人を苦しめたあたしは、その場から静かに去った。
最終更新:2009年03月30日 20:06