目を開けるといつもとは違う天井が見える。
独特な臭いが鼻をかすめる。
ここはどこ?
斜め下から寝息が聞こえる。
あたしが寝てるベットに伏せて寝ている人がいる。
顔が見えなくてもわかる・・・あ〜ちゃんだ。
あたしの右手を握ったまま、寝てしまったらしい。
もしかして、病院?
「んん・・・・」
あ〜ちゃんが起きたみたい。まだ寝足りなそう。
「・・・あ〜ちゃん?」
「ゆかちゃん!!よかったー・・・・」
「あ・・・えっと・・・」
あたしが言葉に詰まってると、あ〜ちゃんが察してくれた。
「ここ病院よ。ゆかちゃん、急性アルコール中毒で運ばれたんよ」
あぁ、トイレで吐いてから記憶がなかったのは、アル中になったからなのか。
「あ〜ちゃんが、助けてくれたの?」
「・・・うん」
「ごめんね・・・ありがとう」
あ〜ちゃんはニコっと笑って右手を握ってくれた。
左腕に痛みが走る。
見ると包帯でぐるぐる巻きの状態。
もしかして、自分で切ったの!?
憶えてないよ・・・。
でも包帯が巻かれてるから無意識でカミソリで切ったんだ・・・。
「ゆかちゃん・・・ごめんね」
「え?」
「ごめんね、ごめん・・・」
あ〜ちゃんはあたしに謝り続けて、泣き出した。
「あ〜ちゃん、泣かんで・・・。なんで、あ〜ちゃんが謝ってるん?」
あ〜ちゃんは首を横に振る。
「もう、こんな事しないで・・・。あ〜ちゃんがずっとそばにいるから」
「うん・・・」
「おばさん、今入院手続きしとるけ。目が覚めたって呼んでくるね」
そう言ってあ〜ちゃんは、膝に乗せてたジャケットを椅子に置いて病室から出てった。
椅子に置かれた黒いジャケット。
のっちのものだった。
のっちが毎日のように着てるから、すぐわかった。
でも、そのジャケットの持ち主はどこにも見当たらなかった。
あたしは翌日退院した。
退院から二、三日経って、左腕の包帯はまだ取れないけど、学校へは行った。
手首を切ってアル中になって病院に運ばれたコトは学校にはばれてない。
この出来事はあ〜ちゃんと、たぶんのっちしか知らない。
包帯が巻かれてからあ〜ちゃんは以前よりも、もっとあたしに対して優しくなった。
ほんとうにずっと、一緒にいてくれる。
他の友達の誘いを断ってまで、そばにいてくれる。
そばにいてくれるけど、あ〜ちゃんは悲しそうに笑う。
笑ってるんだけど、悲しそうにしてる。
でもあたしに悟られないように、必死に明るく振舞ってる。
悲しそうにしてるのは、きっとのっちがいないから。
あたしが倒れてから一度ものっちの姿は見てない。
『ほら、ゆか。
邪魔者の、のっちは消えたよ。
これで大好きなあ〜ちゃんを独り占め出来るんだよ。
もっと、喜びなよ』
あたしの中の小悪魔がこう囁いている。
小悪魔に言われても、全然嬉しくなかった。
だって、あたしと一緒にいるあ〜ちゃんは無理してる。
まるで外に出たがってるカゴの中の鳥。
あたしはずっと、あ〜ちゃんをカゴの鳥にしてしまっていた。
♪〜。
携帯が鳴った。着信はお母さんだった。
「なに?お母さん、どしたん?」
「あんた、体調どうなん?」
「あぁ、平気だよ」
「そうそう、ちゃんとお礼言っときなさいよ!」
「は?お礼?誰に?」
「誰に?って、お友達の大本さんって子よ。病院の輸血用の血が足りなくて、その子がかわりに血をくれたんですって」
「えっ!!そうなの・・・」
「そうよ!知らなかったの?」
「・・・うん」
「良いお友達持ったわね・・・。お母さんも今度挨拶しなきゃね」
「いい!来なくていい!!お礼は自分でちゃんと言うから!!」
「そう?じゃあ、きちんとするのよ。命の恩人なんだから」
知らなかった・・・。
のっちの血を輸血して貰ったことを。
今あたしの身体の中にはのっちの血も流れてるってこと?
あんなに酷いことを言ったのに、のっちはあたしを助けてくれたの?
『良いお友達持ったわね』『命の恩人』
お母さんが言った言葉が頭から離れない。
あたしは取り返しの付かないことを仕出かした。
自分の身勝手な行動で、あ〜ちゃんとのっちを苦しめた。
今更それに気付く自分はバカだ・・・。
今からでもまだ間にあうかな・・・?
最終更新:2009年03月30日 20:29