アットウィキロゴ
〔A〕


仕事にむかう。
足取りは重い。
お互い啖呵をきってあんな意地悪なメールをやりとりしてるんだもん。
どんな顔してゆかちゃんに会えばいいんだろう?
だけど、それはのっちに悟られちゃいけない。
だからいつもみたいに。
出来るだけ普通にしなくちゃ駄目。
あ、今日うまくいけばのっちに会える。
仕事でこれから会うけど、そうじゃなくて。
仕事以外の時間に会えるのが嬉しい。
うまくいけばだけど・・・。
まあゆかちゃん次第。
ちょっと悔しい。
けど、のっちと会えることを考えたらさっきより足取りは軽くなった。
やっぱり、あ〜ちゃんはのっちが好きなんだなぁ。
思い返して一人で顔を赤く染めた。

絶対に負けない。



〔K〕


今日はラジオの収録があるだけ。事務所から近いそのスタジオに私はむかった。
早く準備がすんだ私は一番乗りでスタジオについた。
スタッフさんが控え室に通してくれた。
まだ時間はたっぷりある
(ちょっと早くつきすぎちゃったなぁ・・・)
なんて思ってるうち(早くのっちこないかなぁ・・・)
に、思考が変わった。

しばらくしたら扉があいた。
愛しい人はこんな早くにこない。
扉をあけたのはあ〜ちゃんだった。


絶対に負けない。


『おはよ〜』
あ〜ちゃんは至って普通だ。控え室に入ってきょろきょろまわりを見渡している。
『のっちは??』

『ん、まだ来とらんよ』

ふ〜ん、なんて言いながら私の前を通りすぎ奥の椅子に座る。
途端に顔から笑顔が消えたのは、あ〜ちゃんだけじゃない。
私たちはお互い、のっちがいない時まで笑顔なんて作ってられなかった。
『ゆかちゃん早いんだね』
あ〜ちゃんがなんとなく会話をしだした。
私は優しく返す気はなかった。
だってさっきまでしてたメールで不覚にも私は揺さ振られたから。悔しかった。

『朝家に帰ったから』

『ふ〜ん・・・。』


『のっちが乗っかってきて重いんよww』

私は続ける。
『だから早く起きちゃってさww』


あ〜ちゃんの顔がひきつる。だけど弱々しさは感じられない。
あくまでも私に対抗して、この戦いから手をひこうなんて気はなさそうだ。


〔A〕




ゆかちゃんの言葉ひとつひとつがずっしりと胸を打つ。だけど折れるわけにはいかない
ゆかちゃんは笑顔でのっちの話をしだした。
『のっちって可愛いよね』
『うん。。』
私は答える。
『あ〜ちゃんはさぁ・・・
のっちのどこが好きなん??』
『えっ!!??』
急に確信を聞かれて驚いた。
『いいじゃんww教えてよ!!ww』
意地悪な笑顔で聞いてくる。
『・・・優しいとこ??』
『なんで疑問系なんよっ??ww』
確かに。
私はなんて答えればいいのかわからなかった。
『ゆかはね・・・』
ゆかちゃんは聞いてもないことを話しだす。
『ゆかはぁ・・のっちの髪を触る癖とか、後ろから抱っこされた時の感触とかが好き!!ww』
聞いてないし・・・。
『あとねぇ・・・あっ!!のっちってエッチの時タンクトップにボクサーパンツ姿なんだよ!!もう、ちょーーかっこよかった!!ww』
だから聞いてないし・・・。
自慢げに嬉しそうに話す彼女は、多分“差”を見せ付けたかったんだろう。
でも私には全然関係ない。
『あ〜ちゃんそんなことじゃ気持ち揺るがないよ??wwあ〜ちゃん体だけの関係なんていらんもんww』
言ってやった。
ゆかちゃんは一瞬悔しそうな顔をしたけど、またすぐ意地悪な笑顔に戻った。
多分、今、私も、
同じ顔してる。



『ゆかちゃんって、のっちの体だけが好きみたいだねww』
私は続けた。
『あ〜ちゃんはのっちの心ごと好きなんよ』


急に笑いだす彼女。
『あ〜ちゃん超おもしろい!!ww』
意味がわかんなくて頭にきた。キレたら負けだって何度も念じた。
『だって、心だってもうゆかのなんよ??わからん??』
『ぜんっぜん、わからん!!ww』
『・・・そのうちわかるよwwのっち見ればww』
はっ!?意味わかんないし。
『悪いけど・・・のっちに手、出さないでね??』
笑顔が消えた。
『もう“ゆかの”なの!!のっちはもうゆかから逃がさないんだから・・。』

寒気がした。
少し怖くもなった。
“逃がさない”
なんて普通言う?
相手のことを愛して、
愛されて、幸せを感じて、
立場的にはゆかちゃんは私より優位で、
多分今二人は“恋人”なのだろう。
けど、
それなのに、そんな人が
“逃がさない”
なんて言葉使う??
私は確信した。




のっちはきっと、
この恋愛に辛くなる。



〔N〕




メールなんかしてたら仕事に遅れそうだった。
あわててむかう。
あ、ストールストール・・・。
今日は大きめのまいてこ・・・。
首筋にちりばめられた
ゆかちゃんの跡が、
首に巻き付いた鎖みたいで、ちょっと苦しかった。
だけど恋愛偏差値が低い私は、恋人同士ってのは
それが当たり前なんだと思っていたし、
ゆかちゃんの不安が取りのぞけるなら何でも受け入れようと決めていた。
今まで、だらしのない私をゆかちゃんが受け入れてくれていたように。


『おはよ〜!!』
私は元気に扉をあけて、控え室に入った。
二人はもう来ていて、
何か話してるみたいだったけど、すぐに私に視線をくれた。
あ〜ちゃんが優しい顔で
『おはよっ』
少し後ろでゆかちゃんが
———シーッ——
人差し指を唇にあてている。思わずニヤけそうになったのを必死で我慢した。
『のっちおはよっ』
そう言うとゆかちゃんは、あ〜ちゃんにニコッて笑って
『ゆかジュース買ってくる〜』と言って控え室から出ていった。



〔A〕


ゆかちゃんはのっちにおはようを言うと、
私にニコッって笑いかけながら
『ゆかジュース買ってくる〜』と言って出ようとした。
扉にむかう途中振り返って

——く・び・す・じ——

と、のっちの後ろで、
のっちバレないように、
私に口の動きで伝えた。
そんな彼女の行動を知るよしもないのっち。
笑顔で私に近づいて、
近くの椅子に座った。
のっちはいつもストールをまいている。
今日はいつもより大きめなストールをまいている。
だけど、
それからもはみ出して、
私の目は
のっちの白い首筋に
“きれいな赤”
を見つけた。
あまりの数にまた恐怖を覚えた。
(てか、のっち・・。それで隠せてるつもり・・?w)



戻ってきたゆかちゃんは
すぐに私に寄ってきて、
『ね??ゆかのでしょ??』
笑顔で耳打ちした。
頭の中に響くゆかちゃんの声。
満足気にソファに座る。
でも私は気付いた。
ゆかちゃんが、
ゆかちゃんの苦しいほどの愛情が、
いつか、
のっちの心も体も
傷つける。




そしてそれが現実のものになるのに、
たいして時間はかからなかった。







最終更新:2009年03月30日 20:54