〔A〕
ラジオの収録はいつもと変わらずスムーズに終わった。
三人とも笑顔で楽しそうな空気をとりまいて。
時折目があっては、優しい笑顔をくれるのっちが愛しかった。
だけどのっちから視線をはずすとすぐに、のっちの横から冷ややかな視線を痛いほど感じた。
のっちを見つめる優しい視線とは全然違うそれは、私に恐怖を与え、
のっちをどうするつもりなんだろう?
と疑問を与えた。
そして、あまりゆかちゃんを煽ってはいけない。
と素直に思った。
なんかいやな予感がする。
のっちに何かあったら困るのは私。
しばらくは様子をみよう。と私は少し戦いから身を引いた。
〔K〕
自分の気持ちを抑えられなかった。
のっちのことが好きで好きで、もうどうしようもなかった。
その気持ちを隠すのも、もう嫌だった。
誰にも遠慮したくなかった。
苦しいほどにのっちに溺れた。
だからのっちにも苦しいほど溺れてほしかった。
ゆかが溺れさせてあげる。
のっちのことはゆかが・・。
〔N〕
ゆかちゃんは昨日勝手に外泊したのをママに怒られたからとかで、仕事が終わったら今日は帰ると言って、帰っていった。
いつまでも、離れたくないと、私の服の裾をひっぱる彼女がたまらなく可愛かった。
だけどあ〜ちゃんのことが心配だった。
だからちょっとホッとしたのも事実だった。
『今日なんもないから、あ〜ちゃん暇ならうち来て話そ??』
ゆかちゃんにバレないように、あ〜ちゃんにこっそりメールをしておいた。
やましいことなんてひとつもないから、バレてもいいんだけど・・・。
やっぱり心配性なゆかちゃんに言うことは出来なかった。私はそれが“優しさ”だと思っていたし、そのほうが二人のためにもいいと思っていた。
仕事を終え、家に帰る。
あ〜ちゃんが来るまでの間に散らかった部屋を片付けなくちゃ。。
〔A〕
のっちから“家においで”のメールがきた。
今日はゆかちゃんと会わないんね?
なら、行こう。
素直にそう思った。
仕事がおわって一回家に帰った。
そのまま一緒にのっちの家に行ってもよかったんだけど、ゆかちゃんがつけた
“きれいな赤い跡”が、
私をそうさせなかった。
なんだか見張られてる感じがした。
のっちは苦しくないのかな?心配になったけど、それは口には出せなかった。
だって
ゆかちゃんとの
“秘密”だから。
私がもっと早くに、その秘密を破っていれば、
誰も悲しまなかったのかな・・・。
〔N〕
————ピンポーン——
家のチャイムが鳴る。
確認もしないでドアをあけたけど、やっぱりあ〜ちゃんだった。
『うわっ!!びっくりした!!のっち、ちゃんと確認してあけんと危ないよ??』
あ〜ちゃんは優しく言った。
『だって、あ〜ちゃん以外こないもんww』
笑って言う私に、あ〜ちゃんはまったくって顔をしながら笑ってくれた。
あ、なんか気持ちが軽くなる感じがした。
あ〜ちゃんを部屋に通して、コーヒーをいれた。
リビングにあるソファに並んで座った。
『・・・んで、さ?どしたの?大丈夫??』
こうゆう時にうまいこと言えたらいいんだけど、あ〜ちゃんの前だと常にヘタレで困る。普通な切り出し方しか出来なかった。
『・・・』
あ〜ちゃんはなんも言わない。どしたんだろ?
私はなんて声をかけていいんだかわからなくて慌ててしまった。
『・・あ、あんま言いたくないなら、さ?無理しなくていいよ??あ〜ちゃんが話してくれるまで、のっちは待つよ??』
言いながらあつくなって、着っぱなしだったジャケットとストールを脱いでロンT一枚になった。
———あっ!!!!
気付いた時には遅かった。
ゆかちゃんの残した“きれいな赤”を、
あ〜ちゃんは困った顔をしながら見てた。
〔A〕
のっちは優しい。
ううん、多分、
優しすぎる。
本当は色んな人の気持ちを弄ぶような子じゃない。
それとも私にだけ??
私にだけ優しいの??
『・・あ、あんま言いたくないなら、さ?無理しなくていいよ??あ〜ちゃんが話してくれるまで、のっちは待つよ??』
そう言ったのっちは、ちょっと顔が赤くなって、
あつそうにジャケットとストールを脱いだ。
いいの??
のっち?見えちゃうよ?
そんなに目立ってるのに、見て見ぬふりなんて出来ないよ??
気付いた時にはのっちはしまったって顔して少しあたふたしてたけど、もうどうにもできなかった。
もうどうにもできないのがわかって別に何を言うわけでもなく、普通な態度をとった。
私にはそれが辛かった。
慌ててくれればよかった
慌ててまたストールをまいてほしかった。
隠さなきゃって意識してほしかった。
じゃなきゃ、
ゆかちゃんとの関係を本当に認めてて、それが私にバレてもいいってことでしょ?
そんなの辛いよ。
だから慌ててほしかったのに、のっちはそれをしなかった。
(自分から言いだすしかないか・・・。)
『・・・のっち、首んとこ・・・』
『へっ?!あ、あぁ・・・』
(あぁってなんなんよ・・・)
のっちはそれ以外何も言わなかった。だから私は自分で切り出すしかなかった。
『・・・ど、うした、の??とか聞いてもいい??』
何も言わないで視線はちょっと下を見つめてる。
『・・・なんか、痛々しいな・・・・』
私は続けた。
『いやっ!!・・・い、痛くは、ないんよ・・・』
のっちが急に声を出した。
『うん、わかってるよ・・』
また何も言わないで下を見てる。
『・・・大丈夫、なの??』
自分でもこんなこといきなり言うつもりはなかったけど、口から素直な感情が出てしまった
だって、のっちが心配だった。ゆかちゃんの愛情表現が私に恐怖を与えたから。
『・・・ん、大丈夫・・』
のっちはぽつぽつと話だした。
『・・てか、ごめん。なんも言わんで・・・のっち、さ??今ゆかちゃんと、、
『好きなん??』
のっちの話をさえぎって聞いた。
答えなんかもうわかってる。聞きたくないけど聞いてしまった私。
答えなんかもうわかってるのに、私の気持ちは何で揺るがないんだろう??
いっそのこと嫌いになれたらいいのに・・・。
忘れられたらいいのに・・・。
『・・・うん。』
一言だけのっちは呟いた。
一言だけなのに、
その一言が一番辛かった。
それからのっちはゆかちゃんのことを話した。
色んな子と遊んでたってことは隠して(いや、あ〜ちゃん知ってるんだけどね・・)、今までちょっと迷惑かけちゃっただとか、
ちょっとひどいことしちゃったとか、
ぽつぽつとつたない言葉で伝えてきた。
『だから・・だから、これからはのっちがゆかちゃんのわがまま聞かないと』
最後にこう言って、のっちはヘラッと笑った。
『・・・そっか・・・』
それしか言えなかった。
『なんか、ごめんね??あ〜ちゃんの話聞くとか言ってたのに、さ・・・
・・・・まだ間に合う??』
長い沈黙の後、
のっちは優しく言ってくれた。
私は自分の感情を抑えられなそうだったけど、心配事をのっちに告げた。
『・・・あ〜ちゃんは、ね??のっちが心配じゃけぇ・・・それが悩みだったんよ??』
のっちは八の字眉で驚いた顔をしてる。
『・・・今日ね、それ見えてて、ね??・・・数がさ、、なんか多くね?って思って、さ・・・のっちが辛い恋愛してるんじゃないかなぁって心配してたから・・・』
私は言った。正直な気持ちだ。まぁメールで悩んでるって言った時にはなんもなかったけど。今日できた悩み。うまく一人で口裏あわせをしたつもり。
のっちは優しい顔で私に視線をむけた。
『・・・ありがとう』
優しく言って続けた。
『でも・・・よくわかんないんだけど、、大丈夫だ、よ??』
『・・・なにがわからないんよ??』
『ん〜付き合う、とか??
相手に何をしたらいいのか、とか、何をしたら駄目とかが、さ・・』
そっか、のっちはモテてたし、遊んでたけど、
“付き合う”
ってのはなかったんだ。
だからされるがままで、
何していいかわからないんだ・・・。
『・・・あ〜ちゃんもよくわからんけどさ・・のっちが辛いのは嫌だ、、よ??』
のっちはニヘッて笑って
『ありがと、あ〜ちゃん!!だけどさ、のっち多分いっぱい傷つけたからさ・・・ゆかちゃんにもう不安になってほしくないんだ・・・』
優しい言葉を呟いた。
だけどそれは私にじゃない。わかってるけど私にじゃないんだね。
でも・・・やっぱり・・・・。
のっちは今までの自分を責めてる。
だからもう心配かけたくないから、ゆかちゃんに従ってるんだ。
それが、その優しさが、
ゆかちゃんを
束縛の渦に溺れさせてる。
ゆかちゃんはのっちを縛りつけて安心して、
のっちはそんなゆかちゃんを、今までの自分を受け入れてくれたからって、
受け入れようとしてる。
『・・・のっちが嫌なことは無理しないで、ね??ゆかちゃんだってわかってくれる、でしょ??あ〜ちゃんそれは、ちょっと・・・ないと思う、よ・・・?』
首筋を見つめて言った。
『・・・うん、のっちもそう思う・・。だけど・・・それで不安にならないなら、さ・・・』
やっぱりのっちは優しすぎるんだ。
すべてを受け入れようとしてる。そんなんじゃ多分ゆかちゃんはどんどんヒートアップする。
私は自分だってのっちが好きで、のっちのゆかちゃんに対する愛情を聞いて悲しいはずなのに、心配の方がもう、まさってた。
『・・・無理、しないでね・・』
こんなベタな事しか言えなかった。
のっちはニコッて優しく笑って、ふざけて少年みたいに
『じゃあ辛くなったらあ〜ちゃんに慰めても〜らおっとww』
そう言って笑いながら
私の肩に頭をグリグリさせてきた。
あ、さっきまで“心配”の方がまさってた気持ち。
また
“好き”
が溢れだした。
甘えられたら
もう抑えられないよ。
のっちの甘えられる場所が私であり続けるために、それ以上何も言えなかった。
最終更新:2009年03月30日 21:22