〔K〕
暇だ。
仕事がおわって家に帰ってきたものの、
何もすることがない。
暇だ。
遊びにつれていってくれる人。
都合よく会ってくれる人。
たくさんいたけど、
のっちがいい。
のっち以外は嫌なの。
・・・・・・会いたい。
さっきまで会ってたのに
寂しくてしょうがない。
のっちはメールとかは、そんなにまめじゃないから、私から連絡しなければ今何してるかさえもわからない。
そんな距離ももどかしい。
ゆかのこと好きならメールくらいしてよ・・・。
すぐ不安になるのは悪い癖だけど、我慢なんてしたくないの。
だって、ゆかのこと好きなら連絡くらい出来るもん。
それがのっちにとって
“当たり前”
の行動にならなきゃ嫌。
(今なにしてんだろ・・・。)電話をしてみる。
出ない。
またしてみる。
出ない。
もう一回。
出ない。
なんで??なんで出ないの??
ゆかのこと不安にさせないでよ!!
また電話をした。
出ない。
それが10回以上続いたところで私は泣いた。
涙があふれ出た。
メールをした。
ひたすらメールをした。
のっち・・・
のっちの大好きなゆかが、こんなに寂しい思いしてるよ??
早く心配してよ・・・。
大丈夫だよって抱っこしてくんなきゃ嫌だよ・・・。
会いにきてよ・・・。
〔N〕
あ〜ちゃんに、
ゆかちゃんの跡
を見られてしまった。
まぁ自分の不注意だけど。
だけどあ〜ちゃんは
心配してくれていた。
首筋にちりばめられた赤の数に驚いたと。
うん。のっちも驚いたよ。
あ〜ちゃんは無理しないでねと優しく言ってくれた。
あまり深刻になりすぎたら余計心配かけちゃうから、笑って甘えてみた。
あ〜ちゃんは何を言うわけでもなく髪を撫でてくれて、優しく優しくほほえんでくれた。
あまりの居心地の良さにびっくりした。
だから私はそのまま甘えて、あ〜ちゃんの肩にずっと頭を寄せていた。
とおくで携帯のバイブが鳴ってるのになんか、
ちっとも気付かなかった。
『・・・のっち??携帯なってない??』
しばらく頭を撫でてくれていた手が止まったと思ったら、あ〜ちゃんはそう言った。
『ん〜??え、まじ??』
もうちょっと甘えたままでいたかったけど、
もしかしたらゆかちゃんかな??って頭をよぎったから携帯をとりにいった。
携帯の画面を見る。
不在着信とメールがきていた。
不在着信を見る。
13件。
へっ??13!?
あ、、全部ゆかちゃんだ・・・やっべぇ・・・。
メールを見る。
『何で電話でないの??』
『のっち今何してん??』
『気付いたらすぐ連絡して!!』
『なにやってんの!!』
『会いたいよぉ。。』
『誰かといるの??』
『ゆかのこと不安にさせないでよ!!』
『本当になにしてんの・・??』
ゆかちゃんからきてた8件のメール。
全部不安でしょうがないってのが伝わる。
メールを見てるうちに、
またメールがくる。
『本当に何してんのよぉ』
やば、どうしよ・・・。
またメールがくる。
『会いたいよ』
また、くる。
『会いにきて??』
また、くる。
『ゆか行っていい??』
えっ!!??
えっ!!??まじ??!!
やっば・・・。
どうしよ・・・。
やばい・・・。
だって、
だって今、
のっちの部屋には、
あ〜ちゃんがいるのに。
あたふたしてると、あ〜ちゃんはそれを察したのか、
『・・・ゆかちゃん??大丈夫??』
そう聞いてきてくれた。
『あ、うん・・。なんか来る・・・かもしれん・・。』
目を見開いて驚いた顔のあ〜ちゃんは、すぐに上着と鞄に手をかけて立ち上がった。
『言ってないでしょ??今日のこと・・・あ〜ちゃん、帰るよ!!』
あ〜ちゃんはわかってるよって、だけど心配だよ、って顔をした。
『・・うん、ごめん。ありがと・・・』
あ〜ちゃんはもう玄関へむかってる。
引き止めることも、
大丈夫だよって言うことも出来なくて辛かった。
『・・・あ〜ちゃん!!』
勢いよく呼んだ。
自分で呼んでおいて、何が言いたかったわけじゃないことに気付く。
多分ただ名前を呼びたかっただけだ。
振り向いて優しく笑いかけてほしかっただけだ。
あ〜ちゃんはそれを知ってるかのように、
『あ〜ちゃんは大丈夫だから、ね??気にしないで?』
そう言って優しく優しく笑ってくれた。
ゆかちゃんがくれる優しさとは違ったそれに、
心は癒される。
無性に触れたくなったけど、私が抱き締める相手は違うってわかってた。
私はゆかちゃんが好きだ。
それは揺るぎない。
だから、あ〜ちゃんにだけは手を出さない。
そう誓っていた。
いや、もう誰にも出さないけどね。
『あ〜ちゃん、ありがと。・・・ごめんね?』
また優しく笑って、
『ん、いいんよ??無理しないでね??』
そう言って最後まで
私の事を気にしながら、
あ〜ちゃんは帰った。
申し訳ない気持ちがこみあげるけど、何も出来ない。
もうそれどころじゃない。
早くゆかちゃんに連絡しなくちゃ!!
携帯を手にとり、急いで電話をかけた。
————プルル、『のっち!!
ワンコールもしないうちに、ゆかちゃんの声が耳に響いた。
『のっちぃ・・なにしよるんよ、もう・・・』
ひどく落ち込んだ、弱々しい声が脳内に響く。
瞬間、罪悪感でいっぱいになった私の脳みそ。
『ご、ごめん、ごめんなさい・・・き、気付かなくて・・』
不安にさせた罪悪感が拭いきれない。
『・・・そっか・・。じゃ、いいよ・・。ゆか、帰るね・・』
『へっ!!??もう来てるん??』
やばい・・すれ違ったりしなかったかな??
『ん、まだ、もうちょっとだけど・・悪いから、帰るよ・・』
よかった会ってない。
『わ、悪くないよ!!来る??あ、てか来てくれたら、う、嬉しい、か、も??』
あ、また疑問系になってる自分・・・。
『・・・かも、なら・・いい、や・・・』
へっ??
今断った??ゆかちゃんが??
やばい、これは確実に不安にさせた・・。
罪悪感が渦になって頭の中を占領しはじめた。
『や、ちがっ!!ごめん。違う!!来て!!ゆかちゃんに会いたいんよ・・・』
ゆかちゃんを不安にさせたくない。
その一心だった。
『・・・ゆかだって会いたいもん・・』
『のっちだって会いたいよ!!本当だよ??』
『・・・ん、待ってて・・』
そう言ってゆかちゃんは電話を切った。
ちゃんと気持ちが伝わってよかった。
のっちはゆかちゃんが好きだよ??
だから心配しないで??
不安にならないで??
頭の中で何度も唱える。
ゆかちゃんに会ったら、
ちゃんと言葉で伝えてあげよう。
そうすれば、不安じゃないでしょ??
だけど、
私の考えは、
ちょっとだけ
甘かった・・。
ゆかちゃんがくるまでにあ〜ちゃんに出したコーヒーのカップを片付けた。
秘密にしたいわけじゃない。隠し事を作りたいわけじゃない。
ただ不安にさせたくないから言わなかっただけ。
さっきまであ〜ちゃんがきていたこの部屋に、
最愛の人が来る。
不安もあったけど、早く会いたくなった。
いつのまにか、自分もゆかちゃんのことが大好きになっていて、戸惑いもあったけど、やっぱり素直に嬉しかった。
やっぱり誰かを愛したかったんだ。
寂しかったんだ。
ゆかちゃんは私の寂しさをすぐにとっぱらってくれた。たくさんの愛をくれた。
いっぱい優しくしてくれた。いっぱい愛してくれた。いっぱい甘えさせてくれた。
ゆかちゃんが来る。
早く会いたい。
自分の中の素直な感情がくすぐったかった。
————ピンポーン——
チャイムが鳴る。
慌てて玄関にむかう。
嬉しくて抑えられない気持ちをドアにこめて、
いきおいよく開けた。
自然と笑顔がこぼれる。
すぐにゆかちゃんが目に入る。
少し涙目なゆかちゃんが可愛くてすぐに抱き締めようと手をのばした。
—————バシンッ!!———
えっ!!??
私が抱き締めるより先に
ゆかちゃんが胸に飛びこんできた。
あったかい感覚が体に広がる。
だけど・・・
だけど・・・
その前に・・・
叩かれた左頬が痛い。
『不安にさせんでよ・・・』
私の胸に顔をうずめ、
抱きついてきた彼女。
泣き声が耳に響くけど、
それよりもなによりも、
左頬が痛いよ。
何??何された??
一瞬の出来事すぎて最初は何がなんだかわからなかった。
だけど左頬は鈍く痛みを伝えた。
叩かれた。
いったいどう対応すればいいのかもわからない。
ゆかちゃんは体を震わせながら私に抱きついている。
あぁこれは制裁なんだ・・。
ゆかちゃんを不安にさせた罰だ。
鈍い痛みを伝える頬に添えていた手を彼女の肩にまわす。そのまま力いっぱい抱き締めた。
『ご、ごめん・・・。もう不安にさせん、から・・・』
私の胸元を握っているゆかちゃんの手に力が入る。
『本当ごめん。ちゃんと連絡する、ね?電話も出るよ。だから不安にならんで・・よ・・』
言葉はなく、ただ首をコクコクと縦にふる彼女。
不安にさせちゃったなぁ・・・。もう不安にさせたくないって思ってたばかりなのに・・・。
腑甲斐なさでいっぱいだった。
叩かれた左頬がいまだに鈍い痛みを伝える。
だけど、怒れなかった。
しょうがなかった。
自分が悪いんだ。
ゆかちゃんは心配性なんだ。
わかってる。
わかってるのに心配させた自分が悪いんだ。
そう思った。
そう思ったから、
手をあげられても
何も言えなかった。
〔K〕
急いでのっちの家にむかった。早く会いたい。
早く会って、早く私の不安を取りのぞいてもらいたい。
足取りは早まる。
トクトクと心臓も早まる。
そのせいか、
興奮していた脳みそが、
私に涙を流させた。
泣きながらのっちの家にむかう。
興奮がやまない。
のっちと離れたくない。
ちがう。
のっちを離したくない。
のっちのことについて知らないことがあるのが嫌だ。
のっちをどうにかしてしまいそうで、
自分の感情が壊れそうで、
だけど、どうすることも出来ないから、
私はのっちに執着する。
でも、悪いことじゃない。
だって好きなんだもん。
のっちだって、ゆかが好きだもん。
だから、少しのわがままくらい、いいよね?
ゆかなんて、
こんなに好きで、
こんなに不安で、
こんな苦しくて、
こんなに泣いてるんだから。
のっちの家につく。
不安で不安で
心配で心配で
折れそうだった心が
のっちを見た途端
苦しいほどの愛が
のっちに会った途端
胸が締め付けられるように辛い
“切ない”
私ばかりが不安
“切ない”
私ばかりが好き
“切ない”
その“切なさ”は
私に束縛を、
のっちに従順を求めた。
気付いた時には
私はのっちの頬を思い切り叩いていた。
自分でも少し驚いたけど、わかってほしかった。
こんなに不安なんだよって。
だからすぐ抱きついた。
のっちの胸の中で泣いた。
しばらくしたらのっちは力強く抱き締めてくれて、
ごめん、ごめん。と
謝ってくれた。
あ、わかってくれたんだ・・。
こうやれば、のっちわかってくれるんだ・・・。
のっち、もう離さないよ。
のっち、もう不安にさせないで。
もう次は許さないんだから・・・。
最終更新:2009年04月09日 23:08