(N)
寒っ。もうすっかり冬だなー
暗い夜道を一人歩くのはそんなに怖くはない
ゆかちゃんを一人歩かせる方が100倍心臓に悪い
ゆかちゃんのことが好きなの…いつからなんだろう
気付くのが遅すぎたんだうか、それとも
本当はもう気付いてたのかもしれない
気付かないフリして、余裕を持ちたかったのかもしれない
けど…どっちにしろ、好きだ
ゆかちゃんが好きなんだ
思わず小走りになる
早く、早く会いたいよ
ゆかちゃんの家が見えてきた…と思ったら、その前に人が立ってる
「ちょ、ゆかちゃん!動かんでって言ったじゃん!あぶないか、ら…」
急いで駆け寄ると
のっちの胸に顔をうずめて、ぎゅっと抱き着いてきた
…可愛い
「あ、危ないでしょ!こんな夜に1人で外出たら」
「のっちも1人で危ないよ…」
「のっちは大丈夫なの!」
「大丈夫じゃないもん!…ごめんねゆかが我が儘言ったから」
「もう…そうじゃないから」
一体何を言い出すんだか
ぎゅっと、きつく抱きしめた
細い身体が冷たさできしむ
「のっちも会いたかったんだよ?だから来たの」
しがみついてくる力が強くなる
それに合わせてゆかちゃんの頭に手をやって綺麗な髪に指を通した
「ゆかちゃん体…冷たくなってる」
この季節のこんな真夜中に外に出るなんて自殺行為だよ
ひんやりと冷たくなってしまった体
背中をわしゃわしゃ勢いよくさする
暖かくなれ!
「外、寒いから。のっちは…なんで暖かいん?」
「ん?ちょっとそこから走ったけえ」
「走ってきたん?!」
密着していた体をはがして、驚いた顔を見せるゆかちゃん
「いや、歩いて、走った」
力無く笑うとコツンと首筋におでこが置かれた
冷えた髪が当たって背筋に寒気が走る
「…うち入ろっか」
「でもこんな時間に非常識だし…」
「今ここにいる時点で、もう非常識だから平気だよ」
「ははっそれもそうだね。ん〜でも…」
「いいから…寒いし、入ろ?」
できるだけ音をたてないように、
寝ている家族を起こしてしまわないように
こっそりとゆかちゃんの部屋に入る
「おじゃましまーす…」
ふわっとゆかちゃんの匂いに囲まれる
それだけで胸がいっぱいになった
初めて入った部屋に感動してドアの前で突っ立ってると
後ろから少し押される
「もーこんなとこで止まらんでよ」
「あっごめんごめん」
軽くうながされてベッドの上に腰掛けると
ゆかちゃんも同じようにした
それだけなのに、ドキドキする
「あっお茶いれてくるね」
そう言って立ち上がるゆかちゃん
「いや大丈夫だよ!」
「でも走ってきたんでしょ?のど渇いてないの?」
「あ〜…ちょっと、」
「ねっ待ってて」
パタパタと小走りで行ってしまった
こんな夜中に物音たてたらおばさん達起きちゃわないかな…
と心配するあたしを余所にゆかちゃんが戻ってきた
「はいどーぞ」
「ありがとう。ごめんね、なんか」
「うん?何が?」
「や、おばさん達に迷惑かからんかなと思って」
「迷惑?なんで?」
「だってこんな夜中だし…」
「もう寝てるから大丈夫よ。静かにしとったらね」
そう言ってコップに口をつけるゆかちゃん
のっちも真似して口をつける
コクンと、のどをお茶が通る音が漏れてしまいそうなほど静かな空間
急にさっきの電話でのやりとりを思い出して恥ずかしくなった
好きって…言っちゃったんだよな
チラっと目線をゆかちゃんにやると
同じように盗み見てたのか、目が合った
「来てくれて、ありがとう」
「んーん。そんなん全然いいよ」
「本当に嬉しいよ、ありがとう」
コツンと、ゆかちゃんの頭がのっちの肩に置かれた
自分の体温の上昇が手に取るようにわかる
「…」
しばらくの沈黙。
心臓の音聞こえちゃわないかな
ゆかちゃん今何考えてんのかな
…顔見たいな
「…のっちぃ」
「は、はい!」
そっとゆかちゃんの体温が遠ざかる
そのまま真っすぐな視線を感じて、
顔を向けると涙目のゆかちゃんがいた
「…」
「ゆかちゃんどうしたん?」
涙で光る瞳が綺麗で、思わず頬に手をのばす
潤んだ目のままのゆかちゃんをあやすみたいに優しくなでた
ゆっくりその目をつむって、のっちの手に手を重ねて、
存在を確かめるかのように自分からも頬をすりよせてくる
無性に愛しくなってすぐにでも抱きしめてしまいたくなった
けど、そうする前にもっと大事なことがある
大事な大事なものが
「ゆかちゃん」
呼ぶと目線だけを向けられる
潤んだ目でその角度で見上げられて言葉がつまる
けど、ちゃんと言わなくちゃ
直接言葉にしなくちゃ
「好きだよ」
(K)
のっちは優しく笑った
いつものあの柔らかい笑顔で笑った
現実味がないだなんて
今はそんなこと考えもできない
のっちが目の前にいて、ゆかを見て、好きだ…って
頬にはのっちの体温があって、ゆかの部屋なのにのっちの匂いがして
機械を通してじゃなくて直接耳に入った好きの言葉
それだけでさっきとは全く別物だった
でもまだやっぱり信じられなくて、のっちの腕にぎゅっと抱き着く
これは紛れも無くのっちだ
柔らかい感触、温かい体温…紛れも無い、のっちなんだ
「…ゆかちゃん?」
何も言わず自分の中で事実を繋ぎ合わせていると、
頭の上でのっちの不安そうな声がした
「あの…」
「ね、…もっかい」
「ん?何?」
「…もっかい、言って?」
顔を上げて久しぶりにのっちを見ると、
眉をハの字にしたあの顔があった
「ねぇ…」
「あ…え、と、…好き、です」
「もっかい」
「…好き」
「もっと…」
「……」
「…ダメ?、んっ」
気付いたらのっちの腕の中で、きつくきつく抱きしめられていた
「好きだよ…本当に。大好き」
耳元で響く声
頭まで届くと自然に涙が零れた
(N)
なんで今まで気付かなかったんだろう
こんなにも大好きな人がいること
腕の中の彼女は細くて柔らかくて、
きつくしすぎると壊れてしまいそうで
でも衝動には逆らえない
きつくきつく、力をこめる
どんなに強く抱きしめても2人が一つになることなんてないのに
ないのに願ってしまうのはのっちがバカだからなのかな
それとも人を好きになると皆バカになるのかな
ゆかちゃんだけを感じるために目を閉じた
背中に回された細い腕が少し震えてる気がした
「ゆかも…好きだよ」
鼻声でそう呟くもんだから、泣いてるんだなってわかった
その涙はのっちへの涙?
のっちを想って泣いてるの?
ならふいてあげなくちゃ
それも全部、もう、全部
のっちのものなんだから
どうあがいても溶け合わない体を離して、顔を覗き込む
頬を濡らす涙がキラキラ光って綺麗だ
服の袖で拭っても拭っても、止まることを知らないのか
涙は渇いてはくれない
「ゆかちゃん泣きすぎ」
「だ、だってぇ…」
子供みたいなその姿につい甘やかしたくなってしまう
まだ渇かない頬に優しくキスをして少し舐めてみる
しょっぱいけど、なんでだろ
甘い気がする
最終更新:2009年04月09日 23:29