「お疲れ様でしたーっ」
雑誌の取材が終わって、今日の仕事は終わり。まだ午後の早い時間帯に仕事が終わるのは珍しい。このあと何をしようか、全く考えてなかった。他の二人はどうするのかな?
(のっちはどうせゲームじゃろ。ゆかちゃんは…どうするんじゃろ…?)
そんなことを考えてたら、ふと家の近くの公園の桜が、ちょうど見ごろだったことを思い出した。
二人を誘って、プチお花見に行こう!!
そう思った私は、ふたりに声をかけた。
「ゆかちゃん、のっち!!」
「なぁに?」
「あ〜ちゃん、どした?」
「このあと暇?お花見行こうよ。うちの近くの公園、今見ごろなんよ。」
「うわぁ良いなそれ!!行く行く!!」
のっちが真っ先に食いついてきた。犬みたい。ちょっと可愛いかも…。
「ゆかも行く!!…って言いたいところなんだけど…今日は用事あるけぇ、ふたりで行っといでよ。」
「え、そうなん?」
…てことは、
のっちと、ふたりきり?
「のっち、ゆかは行けんけど、あ〜ちゃんに迷惑かけちゃいけんよ?」
「そんなことせんよぉ。のっちはもう大人じゃけん。」
のっちとゆかちゃんの会話から離れて、私はひとりで戸惑っていた。
私は、のっちのことが、好きだ。
つまり、恋して、いる。
自分の中のこの感情に気付いた時は、物凄く焦って自己嫌悪に陥った。
だってのっちは、Perfumeのメンバー。
何より、私と同じ、女の子だ。
だから、この感情は、早くかき消さなきゃいけない、そう思った。
だけどそれは、上手くはいかなかった。
普通に、『Perfumeのあ〜ちゃん』でいる間は、仕事モードだから、今までと同じようにやれた。
だけどひとたび仕事を離れて、のっちと向き合うと、押さえ付けた想いが溢れそうになった。
私を見て屈託なく笑う笑顔。
毎日飽きもせず「あ〜ちゃん可愛い」とか平気で言う、暖かい声。
吸い込まれそうに大きく透き通った目。
どれも私を捕らえて、離してくれない。
それらはみんな、私が殺そうとしている『好き』という感情を肥大させる。
つまり、今、のっちとふたりきりでしかもお花見だなんて、自殺行為だ。
どうしよう…。
そんな私の心中をまったく知らずに、嬉しそうに帰る支度をするのっちが、うらめしい。
「ね、あ〜ちゃん、のっちちょっとトイレ行ってくるけぇ、待っとって!!」
そういうとのっちは、私の返事など聞かずに、部屋から駆け出していった。
呆然としてる私を見て、ゆかちゃんはくすり、と笑った。
「…なんで笑うんよ。」
「いや、二人とも可愛いなぁ、って、ね。」
「もう…。」
私のこの気持ちを知ってるのは、ゆかちゃんだけだ。
ゆかちゃんは結構早い段階で、私の気持ちと、その気持ちの向かう先に気付いた。それ以来、ゆかちゃんは色々相談にのってくれてる。
私自信、この感情を持て余してる。のっちへの想いは日に日に強くなる。苦しい。
ぶつけてしまえれば、きっとそれが一番楽で。だけどそれは、もしかしたら、今の私の大切なものを全て失わせるかもしれないんだ。
どうすれば良いのかな?
全然、わからない。
でもゆかちゃんは、ほとんど助言をしない。「あ〜ちゃんが自分の力で出した答えが、一番正解に近いと思うんよ。」とか言ったっけか。
確かにその通りだと思うし、聞いてもらえるだけでも、かなり楽になる。
「しっかし、のっちも鈍いねぇ。あ〜ちゃんこんなにわかりやすいのになぁ。」
「のっちはアホの子じゃけぇ、無理じゃろ。」
「まーたそうゆうこと言うん。」
「それに……気付いてほしくないんよ。」
ゆかちゃんの動きが、笑顔が、一瞬だけ止まった。
「…そうなん?」
「うん…。」
「…そっか。」
ゆかちゃんは俯いて、綺麗な爪を弄りはじめた。何か言いたげな感じだったから、私も黙り込む。
「あ〜ちゃん…ゆかはね、」
ゆかちゃんは俯いたまま、言った。
「のっちが、あ〜ちゃんを嫌いになることなんか、絶対に有り得ないと思うんよ。」
「……。」
「ホントに、そう思っとるよ。ゆかが言いたいのは、それだけじゃ。」
そう言うと、ゆかちゃんは顔を上げて私を見て、ニコッと笑った。
「……うん。」
私はようやく、ひとつ頷いた。
「じゃ、ゆかはもう行くけぇ…楽しんで来てねっ?」
「…うん。じゃ、また明日ね。」
「うん。じゃあねっ。」
ゆかちゃんはヒラヒラと私に手を振って、部屋を出ていった。…そしてそれとちょうど入れ代わるように、のっちが帰って来た。
「あ〜ちゃんお待たせっ!!…あれ、ゆかちゃんは?もう帰った?」
「あ…うん、ちょうどついさっき帰ったとこ。」
「そっか。じゃあのっち達も行こうか?」
「うん。そうじゃね。」
…頑張れ。自分。耐えるんだ。
のっちに気持ちを伝えるか、伝えないか。
まだちゃんと決めれてない。
でも、どっちにせよ、まだ知られたくない。
伝えるのなら、しっかり自分の言葉で伝えたい。
伝えないのなら、完璧に隠したい。
だからお願い。ばれないで…。
最終更新:2009年04月09日 23:32