その歌声はいつだって励ますように、祈るように心に響いた。恋を知った時に初めてそれは響いたんだ。
今日はのっちと二人で買い物に出掛けた。立ち寄ったタワレコで、あ〜ちゃんは予約カードを手に取った。名前を書いて、歌手名を書いて。のっちはフラフラと、試聴コーナーでヘッドフォンを耳にかけて。
カードを書き終え、店員さんに差し出す。愛想よく笑って、受け取った。「しばらくお待ち下さい」と言われて大人しく待ってる間、店内を見渡しのっちを探す。試聴コーナーには見当たらない。
「なに予約したの?」
振り返ると、のっちがいた。手にはCDが握られている。のっちが好みそうなジャパニーズロック。
お待たせしました、と店内さんは控えを差し出した。それを受け取ると、のっちは覗き込んだ。そして、あーと呟いて、笑った。
「まーたaikoさんかよ」
「良いじゃろ、別に」
「悪いなんて言ってないよ」
のっちはあ〜ちゃんに背を向けて歩き出す。どうやらレジに向かうみたい。その後ろ姿を眺めて、胸の高鳴りを確認する。
さっき、控えを覗き込まれた時、顔、めっちゃ近かった。
君はなんともないんだろうけど、例えばそれが、あの歌詞みたいだったりとか。あの曲のサビみたいだったりとか。
多分、aikoさんはどっかでいつもあ〜ちゃんの事を監視してるんだ。そうじゃなきゃ、あんな自分みたいな曲、書ける訳がないんだから。
きっと今もどこかで見てんだ。あの監視カメラなんか怪しくない?あ〜ちゃんの恋心を覗いて、曲にして、ボロ儲けしようなんて考えとるんじゃろ。売上のちょっとはあ〜ちゃんに頂戴よ。
「あ〜ちゃん、」
タワレコの袋をぶら下げたのっちが手を振ってる。もちろん目が合う。ほら、まただ。例えば今だったら、あの曲でしょ。
見つめられれば恥ずかしいけど、目を逸らしたら気付かれそうだから、なんてよく言ったもんじゃ。うまくあ〜ちゃんの心情を捉えてる。
あ〜ちゃんは目を逸らさず、駆け寄る。CDを買って嬉しそうな君に「なに買ったの?」って尋ねて。君はそれを誇らしげに見してくれて。
もうダメかもしれない、そう思った時、あ〜ちゃんは音楽を聴く。のっちを思って、音楽を聴く。
それは単なる現実逃避にすぎないのだけど、何かがないと苦しくて死んでしまいそうだから。
だから今日も、その手は握れない。
End
最終更新:2009年04月09日 23:45