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どこをどう歩いて来たのか、その道中に、のっちと何を喋っていたのか、よく覚えてないけど、気がついたら視界は、満開の桜に奪われていた。

「うわぁ…すっごい。綺麗…。」

花の咲いた枝は、薄紅色の雲みたいで、それが公園の敷地にたくさん広がっているのは、幻想的だった。

のっちは目を真ん丸に見開いて、桜に魅入ってる。そんなのっちを、そっと横から盗み見る。

ちょっと手をのばせば、触れられる距離にいる、愛しい人。
その周りに漂うのは、穏やかな空気。
それは、人見知りが強い彼女から滲み出てくる優しさで。
それに触れることが出来るのは、私とゆかちゃんくらいなんだと思う。

……ゆかちゃんの言う通り、のっちは、私を嫌いにはならないのかもしれない。
でも、私が恐れているのは、それだけじゃない。

もし、私の気持ちに対するのっちの気持ちが、NOだったとしても、のっちは優しいから、今までどおり傍にいてくれると思う。
でも、私とのっちの間には、きっと見えない壁が出来てしまう。

そうなれば私は、のっちの隣の、この居心地の良い空間を、失ってしまう。

私が恐れているのは、それだ。
のっちの笑顔に、優しさに、このポジションで甘えていられる現状を、失いたくないんだ。

黙っていれば失わずに済む。
それなら、危険な賭けはしないで、黙っている方が賢いんだろう。

でも、それで良いのかな?
自分の気持ちに嘘をつくことが、
のっちに本心を隠して近づくことが、
正解、なのかな?

わかんない、
あ〜ちゃんには、わからんのよ。


少し風が吹いて、薄紅の雲が揺れて、花びらが零れた。

周りを見ると、あっちでもこっちでも、はらはらと舞う花びらが見えた。

花は散るから美しい、ってよく言うけど、散る姿まで綺麗なんよね。
すべてを捨てて散っていく花びらの最期と、失うことを怖れて動けない自分と、をどこかで比べてしまった自分に、嫌気がさして来た。
…嫌になるくらい、綺麗じゃね。

その時、のっちの声が、落ち込んでいく思考を破った。

「ね、ちっちゃい頃にさ、ああやって落ちてくる花びらを地面に着く前に捕まえられたら、願いが叶う、ってやらんかった?」
「んー……あ!!やったやった!!懐かしいなぁ、それ。」

私の反応を見ると、のっちは嬉しそうに笑った。

「今からやってみん?そんで、どっちが先に捕まえられるか、競争せん?」
「良いけど…のっちに捕まえられるんかねぇ?」
「えー、酷いよあ〜ちゃん、のっちだってやる時はやるんよ?」

いつもと変わらない、軽い言葉の応酬。
大丈夫だ。まだいつもどおりやれてる、はず。

「じゃ、捕まえたほうは、すぐに相手に知らせること!!よーい、はじめ!!」

のっちはそう言うと、降りしきる花びらの中に走っていった。

子供みたいにはしゃぐのっちの背中を、しばし呆然と眺めていたけど、ふと我にかえった。
のっちに負けるのは何だか癪にさわる。早く、捕まえなきゃ。
そして、……何を願おう? 



宙を舞う花びらに、手をのばした。
もう少しで届きそうな指先をあえて避けるかのごとく、花びらは落ちていく。

触れそうで触れられない。
その感じは、私の中の気持ちに似ていた。
あとからあとから、たくさん花びらが降ってくる。
私は目一杯手をのばして、掴もうとする。

——ねえ、のっち、
のっちは、あ〜ちゃんのこと、どう思っとるん?
あ〜ちゃんはね、苦しいくらいに、のっちのことが大好きなんよ。

のっちは、あ〜ちゃんの気持ちをしったら、あ〜ちゃんのこと、嫌いになる?
気持ち悪い、って思う?
それとも…受け止めてくれる? 
今までみたいに、あ〜ちゃんに優しくしてくれる?
笑いかけてくれる?

もしそうじゃなきゃ、あ〜ちゃん、駄目なんよ。

のっち、好き。
好き、大好き。
のっち……っ……——

言いたい想いも、言えない想いも、
桜の花びらの雨の中で、とめどなく溢れ出した。
そんな想い達も込めて、私はひたすら手をのばす。


でも、無我夢中で振り回した掌の中には、何もなかった。

「……っ…あ〜ちゃんっ!!!」


激情が落胆に変わりつつある時に、のっちの声が聞こえてきた。







最終更新:2009年04月09日 23:51