〔K〕
のっちは私に不安を与えた。もちろん愛情もいっぱいくれた。
私は甘えた。
のっちの愛情に甘えた。
もう自分をコントロールする力が残ってなかった。
のっちがくれる沢山の愛情の、タイミングが少しずれただけで、理性が麻痺した。
初めてのっちの頬を叩いた日から
私は何かに取りつかれたかのように
不安になっては手をあげてしまった。
その度に後悔もした。
だけど、わかってほしかった。
ゆか、こんなに苦しいんだよって。
ゆか、こんなに好きなんだよって。
『なんでっ!!なんでわかってくんないの!!不安にさせないでよ!!ゆかだけ見ててよっ!!』
私はもう歯止めがきかない子供のように、
感情が暴走列車のように、
のっちにむかって
走っては、
ぶつかり、
事故に会いっぱなしだ。
なにをしても
のっちは受けとめてくれて、ゆかのために泣いてくれた。
そんなのっちを見てると
気持ちがよくなるし、
弱くて、可愛くて、
ゆかがいないと
のっちは駄目なんだって思えて嬉しくなった。
『ごめん!!ごめんなさい!!ゆかちゃん愛してるよ・・・』
泣きながら何度も
愛してるを言ってくれる
のっちが可愛かった。
また支配力が増す。
私の足元で小さくなって
頭を抱えて、
震えながら泣くのっちの姿はゾクゾクと
私を支配した。
『のっち、、ゆか、どこもいかんよ??のっちがいい子にしてればいいんよ?わかった?』
涙をふきながらうなずくのっち。
『ゆかのこと不安にさせんで??ゆかだけ見てて??できるでしょ??』
うなずくのっち。
『そう。いい子だもんね、のっちは。ゆかの、のっち』
抱きついてくるのっちが愛しい。
ほらね。やっぱり。
のっちはこうしないと駄目なんよ。
ゆかが捕まえててあげないと、ゆかがいないと駄目なんよ。
そうでしょ?のっち。
〔N〕
耐えた。
私は耐えた。
ゆかちゃんのわがままは
全部受けとめるって決めていたから。
体は痛かったけど、
さほど辛くはなかった。
ゆかちゃんが安心してくれるなら、
辛いことなんてなかった。
だけど、本当は多分、
私には“秘密”があったから、辛くなかっただけだ。
ほぼゆかちゃんと一日置きにある、その“秘密”のおかげで、私はなんとかもっていたんだ。
ゆかちゃんが好きだ。
それはかわらない。
ゆかちゃんは優しい。
それもかわらない。
かわったのは
ゆかちゃんの支配力だけ。
元々の心配性に拍車がかかり支配力が増した。
ただそれだけだ。
それくらいのこと
ただそれくらいのこと
受けとめられなくて
どうする!!
私は必死に
受けとめようとしていた。
私がしっかりゆかちゃんを支えれば、
何もかわることはない。
愛情たっぷりな二人の関係はかわらないんだ。
『・・・のっちぃ・・もう、無理しないで・・・・』
三ヶ月たった。
あ〜ちゃんは泣きながら私を抱き締めた。
あ〜ちゃんの腕の中で私は泣いた。
これでもかってくらいに
今までないくらいに
泣いた。
もう・・・
限界だった・・・。
〔A〕
ゆかちゃんからの
痛いほどの愛情を
のっちが全力で受けとめはじめてもう三ヶ月がたった。
私は気付いてるけど
たいして力になれなかった。
止めることができなかった。
心配でしょうがなくて
のっちに会いにいった。
体の傷の手当てと
心の傷を癒しに
ゆかちゃんがこない日は
必ず会いにいった。
私たちは言葉にはしないけど確実にお互いを必要な存在と認識していた。
ゆかちゃんは何かに取りつかれたかのようにのっちを愛して愛して手をあげて、それでのっちの愛を確認して安心してる。
のっちはゆかちゃんを受けとめて愛して愛して耐えて、それでのっちの愛を伝えて安心を与えてる。
だけど、
ゆかちゃんは
のっちの体についた傷を見て安心してるようにも見えた。
それじゃメビウスの輪だ。
のっちが抜け出す道はあるの?
のっちはそれが“優しさ”だと思ってるの?
それは違うよ?
ゆかちゃんにも、
のっちにも、
よくないよ。
それは“優しさ”とは違うよ。
三ヶ月がたったある日。
いつものように
のっちの家に行った。
ご飯を作ってあげてる間
のっちはシャワーを浴びたいとお風呂場に行った。
私はその間にご飯を作って、部屋を片付けて、
たまった洗濯物を洗った。
ちょっと同棲気分に浸れた。
私にはのっちがいないと駄目だし、
のっちにも私がいないと駄目だった。
本当にそうだった。
部屋を片付ける。
のっちの部屋はいつも散らかってる。
ちょくちょく私が片付けてるというのに、
またすぐ散らかる。
のっちが毎月読む音楽誌が部屋のあっちこっちにある。
ベッドの脇の小さなテーブルの上にあるはずの時計も
テレビの前に転がってる。
はじめは、のっちも気にして少しは片付けててくれたみたいだけど、最近ではそれもなくなった。
私は甘えられてるんだと、
それを片付けるのは自分なんだと、
わりと優越感があった。
だけどここ一ヶ月くらい
散らかりようが半端じゃない。
雑誌は部屋中にとんでるし、
部屋の中央にあるローテーブルの上の小物たちは転がってる。
スタンドは壁にもたれかかってるし、
ベッドなんかは
いつ来てもぐちゃぐちゃだ。
それは全部
ゆかちゃんが前の日にやったこと。
私がなおしてもなおしても
また次の日には散らかって
またその次の日に私が片付ける。
メビウスの輪だ。
いつのまにか私も
抜け出せないメビウスの輪にはまっていた。
洗濯物をするついでに、
シャワーを浴びてるのっちの
着替えを用意した。
お風呂場の脱衣所に部屋着を持っていく。
『のっちぃ〜服、ここ置いとくよ〜』
『ん〜あんがと。』
ゆっくりした間抜けな声がお風呂場から聞こえてくる。幸せを感じる瞬間だ。
洗濯物をする。
洗濯機に、たまったのっちのTシャツやタンクトップを入れる。
ん??
なんだこれ??
洗濯物を入れておく籠の横
まるで隠すように
ビリビリになったTシャツ。
私はもう耐えられなかった。もう口を出さずにはいられなかった。
のっちがシャワーを浴びてるから待ってよう
なんて考えもでないくらい必死で、
私はお風呂場のドアを勢いよくあけた。
『のっち!!これ!!どーしたんよ!!こんなんどーやった・・・ら・・・・
白い湯気が視界を阻んだ。
だけどドアをあけた浴室は外の空気で換気され、
次第に湯気は消え、
視界が澄んだ。
見えてきたのは
傷だらけの
のっちの背中。
〔N〕
いきなりドアがあいた。
勢いよくあ〜ちゃんが喋りだす。
咄嗟のことすぎて
隠すのも忘れた。
いや、もう、
隠しようがない。
だってここは
お風呂場だから。
私はシャワーを浴びているんだから。
勢いよく喋りだした
あ〜ちゃんの顔が
みるみる弱々しくなる。
あ〜ちゃん?
濡れちゃうよ?
あ〜ちゃん?
濡れちゃうって。
私の濡れた体を抱き締める腕は力強くて、だけど優しくてあったかい。
あ〜ちゃん・・濡れちゃうよ・・あ〜ちゃん・・・ごめんね・・・。
『・・・のっちぃ・・もう、無理しないで・・・・』
服もきたまま。
シャワーもだしたまま。
湯気がたちこめる浴室。
あいたドアから入り込む空気が冷たい。
シャワーで服が濡れる。
あ〜ちゃんの髪も濡らす。
『・・・もういいよ、のっち・・・もう、いいでしょ??・・・もう、やめよ?もうあ〜ちゃん見てらんないよ・・・』
シャワーで濡れた全身。
だけど多分今は
涙の分量のほうが多い。
『・・・あ〜ちゃんがいるじゃんっ!!のっちには、あ〜ちゃんがいるよ!!もう、、やめてよ・・・』
涙をボロボロ流しながら
初めて聞いた
彼女の本音。
多分私は気付いてたんだと思う。
この恋愛が
辛くなることも、
それを支えてくれるのが
彼女だってことも、
私のことを
想ってくれてることも。
私は泣いた。
あ〜ちゃんに抱きついて泣いた。
もう・・・
私たちは・・・
元には戻れない・・・。
最終更新:2009年04月09日 23:59