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電気を消しているけど真っ暗じゃない。
カーテンの隙間から射しこむ光が少し多めなのは、
この部屋の窓が思ったより大きくて、サイズが合わなかったんだ。
蛍光灯が好きじゃないよ。だからさっきまでついてた照明はあんなかんじなんだ。

のっちはね、休みのときはこの部屋でぼーっとしてるんだ。
おっきなテレビでゲームしてさ。好きな音楽聴いてる。
時々は音楽かけながらゲームを音無しでしたりもするんだ。最高だよ。
あ〜ちゃんは最近どんなの聴いてる?やっぱりaiko?

心の中でたくさんのことを話しかけてみる。
本質的に分かり合ってはいても、細かな情報はよく知らないだろうから。
私はつい饒舌になる。

白い肌が見えた。正確に言えば全然白くない。暗いから灰色に見える。
まだ服を着ているけれど、その中身は想像には難くないよね。
きっとやわらかくて触れたら溶けるような心地よさでよく弾むはずだよね。

ねえ、あ〜ちゃん。のっちはねパジャマは着ないしさ。
洗濯があんまり好きじゃなくてさ、こないだ久しぶりにしたんだけど、
柔軟剤入れるタイミングって最初でいいんだっけ。

あ〜ちゃんからの答えはない。きっと聞こえないんだろう。
聞こえていたとしても、そんなことどうでもいいのかもしれないね。
押し倒されて戸惑った顔をして見せる。ほんとに戸惑ってるの。

あとさ、洗濯バサミってどれくらいつけるのが正解なの?
今度教えてよ。

視線はずっと私の目に据えられていて、離そうとしない。
ほんとに押し倒されたの。違うよね。

「のっち」

無邪気な問いかけはその声で一気に大人な色に変わってしまう。
こんなことになったらきっと胸は高鳴って、思考は白く飛んでしまうだろうと思ってたよ。
なのにね。

あ〜ちゃん、どうしたの。変な顔してるよ。
いつからそんな顔するようになったの。
彼氏ができてから?のっちは初めて見たよ。

試しに耳にキスをしたら声が漏れた。
いつも聞いてた耳障りのいい甘ったるい声が、すこしかすれた。
それを合図だと思ったみたいに、腕が伸びてくる。


漏れる息とシーツの擦れる音だけが響いてく。
それなのに、なんだか耳が中耳炎みたいにぼわぼわするよ。

あ〜ちゃん、知ってると思うけどのっちはカレーが好きだよ。
ナスが入ってたら最高。だけどね今日食べたのは牛スジが入っててね。

伸びた腕が首の後ろで組まれた。手のひらが髪をなでる。
何も言わないで見つめると、やさしく口元をゆるませた。

あ〜ちゃん、牛スジまじやばいよ。
もうね、とっろとろ。めっちゃとろとろでね。

ぐいと引き寄せられる。引き寄せ方があまりにも巧みで、
自分から近づいたみたいな感覚になる。おでこがくっついた。
目が潤んで揺れてる。息は熱いし。体はすこし湿っぽい。

なんで抱くんだろ。こんなとこに押し込めなくてもいいのに。
なんでキスしてるんだろ。話したいこといっぱいあるのに。

「なんでこんなことするの?」

薄くてぷるんとした唇からやらかい声が放たれた。
おずおずとした口調なのに、もう答えはきっと用意されてるみたいな自信が見てとれる。
言わせたい。そう言ってる。

あ〜ちゃん、それはね。
こうするとあ〜ちゃんがうれしそうに笑って、しあわせな音を出すからだよ。
だけどね。

「わからん」

そう。理由なんかないっていうのが正解。
理由なんか考えてる暇もないくらい、たまんなくて押し倒したっていう。
それならもう、それがいいよ。
あ〜ちゃんがそうがいいなら、全然その方がいいんだよ。

唇を重ねた。最初は軽い。
五度目くらいで耐え切れなくなって薄く口を開けてくる。

睫毛が長いな。ほっぺたにくっつけてパチパチされたらくすぐったいだろうな。
かさかさってしてさ、きっと気持ちいいんだろうな。
でも今はぬるっとしたかんじ。ぬるっとしてくちゅっとしてずんってかんじ。

あ〜ちゃんの放つ熱で部屋の温度が上がってくよ。
熱いのは、あんまり好きじゃないよ。
さっきから肩越しに見えるのは、あれでしょ。むずがってる性なんだよね。

飲み込まれてしまうよ。だけど。
剥き出しにできなくてまだうまく放熱できてない君がそれを望んでる。



「…我慢できんかった」

耳元でそう言うと君の体が大きく開いた。

開けられたら、入るしかないや。


(おわり)








最終更新:2009年04月10日 00:04