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声のした方を振り向くと、のっちがきらっきらした笑顔で、私に向かって駆けてくるのが見えた。

「ほら見て、のっち捕まえたよっ!!」

そういって自慢げに降った指先は、小さな花びらを摘んでいた。

「ね、のっちだって、いざという時は出来る子なんよ。」

なんて、胸を張って偉そうに言ってる。
張り切る所が違うんよ。もう。
だけどそんな所さえ、愛しい。

でも、私は今、のっちの顔を見れない。
だって、傍に立ってるだけで、さっき溢れて落ち着いてきたはずの感情の波が、せり上がってくるから。

今、のっちと目があったら、
きっと、耐え切れずに泣き出してしまう。
不用意な言葉を口走ってしまう。

それはきっと、のっちを、困らせてしまう。
それだけは、避けたい。

だから私は俯いて、のっちの視線の先から逃げようとした。
…その時、私の目の前に、のっちの指と、花びらが、飛び出して来た。


「あ〜ちゃん、これ、あげる。」
「…え?」
「だから、この花びらには、あ〜ちゃんが願いごとしてよ。」
「…何でそうなるんよ?捕まえたのはのっちじゃろ?…のっちが願いごとすれば、良いじゃろ。」
「………。」

何を突然……。
のっち、何を考えとるん?
私はのっちの言葉を待つ。

「あ〜ちゃん、…」
「…なに……?」
「なんか、悩んどるん?」
「……どうして?」
「だって最近あ〜ちゃん、のっちの目を見て笑ってくれんから、なんかあるのかな、…って思ってさ。」
「……っ。」

…隠し切れて、なかったんだ。

「のっちの願いはねぇ、…」

のっちは続けた。
のっちの願いごとって…何?

「…あ〜ちゃんが、笑顔でいてくれることじゃけぇ。」
「!?」

はじかれるように顔を上げると、真っすぐと私を見ている視線に、射抜かれた。

動けなくなった身体の中、心臓だけが煩いくらいになって、体中に熱を伝える。

そんな私の様子などつゆも知らず、のっちは続けた。

「そのためには、あ〜ちゃんの願いを叶えなきゃでしょ?だから、この花びらは、あ〜ちゃんの願いごとを叶えるんよ。
それが…のっちの、願いごとなんよ。」

そこまで言うと、のっちは照れ臭そうに、くしゃっと笑った。
…その笑顔、反則じゃ。


「じゃあ、のっちは向こう行っとるけぇ、ちゃんと願いごとするんよ?」

そう言うと、のっちは私の掌に花びらを乗っけて、くるりと私に背を向けた。

…なんなんよ。もう。
あんな、こじつけよってからに。
だいたい、誰のせいであ〜ちゃんが困っとるか、わかっとらんじゃろ!!

……ああ、でも。

のっちは、何の計算もせずに、言葉を発して、動く。

そんなのっちの
真っすぐな視線は
飾らない言葉は
確実に私の心を射抜いていて。
でも、のっちはそれに気付いてない。

のっちはただ、
私を元気付ける為に、
私のことを思って、
真っすぐに自分の気持ちをぶつけているだけ、なんだ。


…じゃあ、今の私は?
大好きなのっちに
自分の気持ちを隠して
嘘をついて
想いを、殺して
傍にいようとしてる、けど、

それで、良いの?



答えは、決まっとる。
良い訳が、ない。


顔を上げると、のっちの背中が遠くに見えた。ジャケットのポケットに両手を突っ込んで、桜の枝を眺めてる。
その背中に、心の中で語りかける。


——ねぇ、のっち。
あ〜ちゃん、のっちに言いたいことがあるんよ。
でも、今すぐには、言えん。
まだきっと、上手く言えんから……。 
でもね、近いうちに、絶対、話すね。
一生懸命喋るけぇ、その時は… 
ちゃんと、受け止めてほしいんよ。

でね、あ〜ちゃんのお願い、は……
やっぱり、
のっちが笑っててくれることなんよ。
あ〜ちゃんの気持ちを、のっちが知っても、
のっちの笑顔が、変わらずにあることなんよ。


…どうか、お願い、じゃけえ。
叶えて、ください……。
———

その時、見つめてた背中が、くるっと翻り、代わりにのっちの笑顔が見えた。

「あ〜ちゃんっ、お願い、出来た?」

笑顔ののっちが、私のところまで走って帰ってくる。
それだけで、こんなに嬉しい。

「うん。…出来たよ。」

願いごとと、決心を胸に。
今度は、ちゃんとのっちの目、見れるよ。
そんなあ〜ちゃんを、のっちはホントに嬉しそうに見てる。

「良かったぁ…さっきよりあ〜ちゃん、元気そうじゃね?」

そうかな?
だとしたらそれは、
のっちのおかげ、だよ?

「のっち、……ありがとう。」
「へへっ…良いんよ。」


くすぐったそうに笑うのっちが、やっぱり、愛しい。

…大好きよ、のっち。


さっきの花びらをそっと、コートのポケットの中でいじりながら、強く強く、そう思った。


End.








最終更新:2009年04月10日 00:07