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〔N〕




『もう、終わりにしよう・・・。』
その一言がどうしても言えなかった。


辛い恋愛だった。
身体中にちりばめられた傷跡たちが物語っている。
辛い恋愛だった。
だけど、
こんな土壇場で思い出すのは
ゆかちゃんの甘ったるい腕の中で眠りについた日々。
こんな土壇場で思い出すのは
毎日のようにくれた甘ったるい愛の言葉。


辛い恋愛だった。
もう無理だった。
あ〜ちゃんがくれる優しい空間と時間が心地よかった。
これが終われば
その優しい空間と時間に
ずっと甘えていられる。
それもわかっていた。
あ〜ちゃんは
私のそばにいたいと言った。
だけど私はどこかで、それを望んでなかったんだ。


辛い痛い暗い
闇の中でもがいた。
だけど
嫌い
にはなれなかった。



早くこの手を振り払わなきゃ。

今ならまだ戻れる。
今ならまだ戻れる??





戻る気なんかない。
ゆかちゃんは
私がいないと駄目だ。
それに、
そんなゆかちゃんがいないと
きっと
私も駄目なんだ。


〔A〕




私の横を通り過ぎた愛しい人。
私に甘えてくれてた日々。
私を見つめる大きな瞳。

私の横を通り過ぎた愛しい人。

こんな時でも思い出してしまう。
通い慣れた部屋。
もうどこに何があるかだってしってる。
髪をいじる癖だってしってる。
鼻の下を拭う癖だってしってる。
冷蔵庫がいつも空っぽなのもしってる。
グリルの使い方がわかってないこともしってる。

ただ知らなかったのは、
のっちの心の中に
深く刻まれた
愛しい人の名前。


ゆかちゃん・・・
だったんだね・・・。
やっぱり、
人と人との絆って
そう簡単に
切れるもんじゃないね・・。

頬を生ぬるい涙が伝う。
早くこの場から立ち去ればいいのに。
早くこの場から立ち去れば、見たくないものを見なくていいし、
自分勝手になかったことにすればいいのに。
体から力が抜けるよ。
のっち・・・なんだったんよ・・・。
今までなんだったんよ・・。


『ゆかちゃんごめん!!ごめんね・・のっちが間違ってたよね・・・ごめん・・・もう、ずっとそばにいる、から・・・』
泣いているくせに、
強がってるくせに、
ずっとそばにいる
なんて・・・。


私は涙も感情も
すべて我慢出来なかった。

『なんでっ!!のっち!!なんでなんよ・・・なんでゆかちゃんなんよ!!』
私は力なくして
その場に座り込んだ。
今度は私が泣き喚いてる。
どっかで客観視してる自分が、
“馬鹿だね”
って呆れてる。
気付いてたはずだ。
のっちは自分のものにならないこと。
なのに
願った
自分が
馬鹿だ。


〔K〕




のっちの腕の中。
これは現実なの?
泣き喚いてた脳みそ
何かを考える余裕がなかった。
だけどのっちの体温が
あったかくて、
のっちの腕がゆかのことをしっかり捕まえてて、
泣いてるくせして
力強いのっちの腕の中で、
また感覚と感情が戻ってきた。
戻ってきたから
また私は泣いた。
声も出ないほどに
のっちに抱きついて泣いた。

あ〜ちゃんが泣き喚いてるのが聞こえた。
のっちに何か言ってるのも聞こえた。
だけど私の脳みそは
まだ理解はできなくて、
ただひたすら泣いた。


だけど
『・・あ〜ちゃん、ごめん。のっち・・馬鹿かもしれん・・だ、けど、だけど!ゆ、ゆかちゃん一人に、できん・・・。』
のっちの言葉が響いた。
私はのっちに抱き締められて、
違う、抱きかかえられて
やっと立っていた。
『・・・ゆかちゃんは、のっちがいないと駄目なん、よ・・・のっちのこと、こんなに想ってくれて・・・やっぱほっとけんよ・・のっちがそばにいないと・・駄目なん、、よ・・・』
あ〜ちゃんは座り込んだ。落胆したあ〜ちゃんの顔が視界に入った。




『ごめんね、あ〜ちゃん・・・・・のっち・・・・、、
ゆかちゃんのこと、どうしても嫌いになれん・・・。』
あ〜ちゃんの表情が
私を現実へと引き戻す。
あ、のっち?戻ってきてくれたの・・・??


〔N〕




自分の弱さを認めた。
どんなことをされても
ゆかちゃんから離れることが出来ない自分の弱さを認めた。
あ〜ちゃんの落胆した顔がいやってほどに目に入る。
だけどこの腕は振りほどけなかった。
どんなことをされても
ゆかちゃんから離れることが出来なかった。
ずっと独りだった私に
最初にぬくもりを与えてくれた人を
嫌うことができなかった。
泣き喚く彼女を
ほっとくことはできなかった。
自分だけすっきりして、
これからはあ〜ちゃんの優しさに甘えていこう
なんて出来なかった。


私の腕の中で静かに泣いているゆかちゃんは
小さな声でずっとずっと私の名前を呼んで
両手で私のTシャツの胸元をつかんでる。
細い体はカタカタ震えて
白い肌を生ぬるい涙が
何度も伝っては、
私を濡らした。
現実に戻される。
ゆかちゃんがいないと
駄目なのは私だ。
弱々しいゆかちゃんの体をソファに座らせた。


ゆかちゃんの束縛の籠の中
羽を縮めて入り込んだのは自分自身だ。





あ〜ちゃん。
ありがとう。
心からありがとう。
支えてくれてありがとう。
だけどのっちは馬鹿だから、
あ〜ちゃんが優しくしてくれても
甘えさせてくれても
自ら辛い恋愛を選んじゃったよ。


『あ〜ちゃん、ごめん、ね。ありがと、ありがとね。のっち、馬鹿だね・・・本当馬鹿だ。だけど、もう・・・考えられん・・・・・ゆかちゃん以外・・。』
あ〜ちゃん。
ありがとう。
心からありがとう。
これでもう
あの優しい空間に
永遠のさよならだね。








最終更新:2009年04月10日 00:41