その日も、目覚めてすぐ
いつものように
カーテンを開けて空を見上げた。
青く広がるそれ。
眩しい光。
今日は、よい天気になりそうだ。
ただ、視界の端にうつる
枯れ木の揺れが
風の強いことを教えてくれ
今日も、昨日と変わらず寒い日になるだろうことを
同時に予感させた。
ここ最近のココロの
不安定が嘘のように
穏やかだった。
これからしようとしている
最低な行動。
きっと、のっちを
ひどく傷つけるであろう・・
なのに、穏やか。
だって、もう引き返せない。
そして、このままでもいられないから・・・
最低、だね・・・
あなたのやさしさを利用して・・・
でも
たった1日でもいい。
先生としてではなく
ゆか、として
のっちと過ごしたい。
ゆっくりと身支度を整える。
出かける前に
再度、姿見を確認。
素直になろうと
ウソツキの仮面をつけた
自分の姿が、そこにあった。
今、全てをさらけ出せる勇気もなく
そのくせ、もう
オトナ、な対応もできなくなって・・
自分の望みだけを満たそうとするその姿は
きっとただの、コドモ、だね。
わかってる、、、わかってるよ。
湧き上がる罪悪感を置いて
あたしは、のっちのところに向かった。
住所は、担任の先生に聞いた。
完全に職権乱用。
少し迷ったものの
意外とすんなりと到着。
大きく深呼吸。
胸いっぱいに、冷たい空気を吸い込む。
ピンポーン
はぁ・・・静まれ心臓。
しばらくすると
—ガチャッ
扉が開き
目をまん丸にしたのっちが顔を出す。
思わず笑い出しそうになるのを堪え
彼女を見つめる。
彼女の言葉を待つ。
「あれ?・・学校は?」
ワンテンポずれたその言葉に笑ってしまい
「なに言ってんの?wまだ、熱あるの?
今日は、祝日で、学校はお休み、です」
って。
ほんと、こういうところが———
…ダメ、だな。
今日は、あの人のことは思い出さないようにって
決めてたのに・・・
「・・・ほんと大丈夫?インフルエンザだって?」
「あ、はい。もう、大丈夫ですよ。熱も下がったし」
「そっか、よかった・・・」
そう、今日は
のっち、と素直に向き合うんだ。
あの人、は関係ない。
「・・・ちょっと、上がっても、いい?」
「え、あ、はい。どうぞ」
心臓のドキドキを悟られぬよう
静かに歩みを進める。
「あ、でも部屋、めちゃくちゃ散らかってるんで・・」
通された、その部屋は
混沌としてた。
けど、妙に落ち着く自分もいた。
それは、あまりに
のっちらしいと思ってしまったから。
「わっ、こりゃほんと、すごいねw」
「すんません・・・」
「いえいえw」
のっち、“らしい”か・・
それほど、知ってる仲なわけじゃないのに、ね。
それでも、ずっと昔から
知ってるような感覚。
「のっち、ご飯は?」
「まだ、です」
「雑炊でも作ろうかなって思って、買い物してきたんだけど…」
「まじですか!?」
「うん」
「よかったぁ。ちょうど、買出しに行こうっと思ってて」
「そなんだ。よかったぁ」
「じゃ、キッチン借りるね」
そう言って、料理の準備。
背後には
戸惑うのっちの気配。
「・・先生?」
伺うような、のっちの声。
「なに?」
さらっと応えられてるだろうか?
「・・・なんで、のっちとこ、、に?」
一瞬、手元が止まる。
ほんと、ストレートなんだから・・
「・・・心配、だったから…」
あたしはどこまでも天邪鬼。
再び、テキパキと動き始める。
「・・迷惑、かな?」
んなこと聞いて・・
たとえ迷惑だとして
正直に、迷惑だなんて・・
少なくとも、のっちはそんなこと言える子じゃない。
「いや、そんなことはないです!ただ・・」
ほら、ね?
「ただ?」
「びっくり、して・・」
「そりゃそだねぇw」
先生が自分ちにきて、料理までしてる。
普通に考えたら、あり得ない。
でもあたしは、料理を続ける。
背後からは、まだ
戸惑う、のっちの気配。
けど、開き直ってしまったのか
かたかたと
片づけを始めたような物音。
好き勝手しているあたし。
のっちも、勝手にしていいんだよ?
そんなことを考えてるうちに
雑炊はできあがった。
もっと、まともなもの作ったらいいのにね・・
でも、風邪引きだったわけだし・・
ま、いいか。
「のっち、できたよー」
振り返ると、
先ほどに比べれば、片付いたリビング。
「はい、どうぞ」
机の上、出来上がった雑炊を置くと
「あ、どうも」って。
そのぶっきらぼうな言い方
大好き、だな。。。
向かい合って座る。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
「んー、、うまいっ」
「ほんと?」
ほんと、おいしそうな表情。
こっちまで、嬉しくなっちゃうね。
「うん、おいしいです。
お腹すいてたから、生き返るよう・・」
「お腹すいてたら、なんでも美味しいよね?」
少し、いじわるする。
「えっやっ、そういう意味じゃなくて」
慌てるのっち
「冗談wわかってるよ」
なんでこんなに、
簡単にやさしいキモチになれちゃうんだろ?
「冷蔵庫なんもなかったけど…
どうやって過ごしてたの?」
「あぁ、、、あ〜ちゃんがいろいろと
買ってきてくれたんで、なんとか・・」
「なるほどねぇ・・ご飯作ってくれたり?」
あ〜ちゃん、世話好きだから、、、
「いやぁ、作るって言ってくれたけど
長居させて、うつしたりしたら申し訳ないし。
買い物だけ、頼んで」
そっか、、、お互い受験生だもんね。
「そっか、大変だったね」
「あ、はい」
きっと、口ぐせだね、それ。
そして、やっぱりぶっきらぼうな言い方。
ふふっ
思わず、笑みがこぼれる。
「ん?」
不思議そうなのっち。
「うぅん、、、ただ、ほんと美味しそうに
食べてくれるなぁって思って」
半分ごまかす、あたし。
「だって、ほんとに美味しいから」
「ありがと」
天邪鬼なあたしなのに
のっちの前だと、ふと素直になってしまう。
その後は
他愛のない会話。
一緒に、ご飯の片付け。
お気に入りのDVDや音楽の話。
のっちの好きなゲームも少々。
緩やかに時間は流れていった。
まるで・・・
そう、まるで
付き合っているような。。。
そう、“先生と生徒”ではない。
自分が望んだこと。
ここで、引き返せば
まだまだ浅い傷ですむんだよ?
自分の良心がちくっとうずく。
けど・・
本能には逆らえなかった。
いつの間にか、部屋は薄暗くなっていた。
陽は沈んだのだろう。
夜は、もうすぐそこ、だ。
「先生?もうそろそろ、陽も暮れてきたんですけど・・」
のっちのコトバで
ちゃんと、今が現実だということを
再確認する。
「うん・・」
目を伏せる。
崖っぷちにいる。
一歩、踏み出してしまえば
きっと、簡単に堕ちてしまう・・・
っ!?
静かな空間に響く着信音。
確認しなくても、わかる。
きっと、、彼、だ。
誕生日の約束を
理由も告げず、キャンセルした。
最近、あたしの様子がおかしかったのも
わかっている、はず。
心配してるのだろう・・・
着信を確認。
ほらやっぱり・・・
けど、、、、
そっと、電源を落として
カバンに片付ける。
「え、、、出なくて、、、ていうか
返さなくてもいいんですか・・?」
「うん」
さぁ、、、これから
最後の一歩を踏み越える。
「今日、、、、誕生日なんだ」
「え、、、おめでとうございます・・」
ふと顔を上げると、
なんともいえない表情ののっちと目が合う。
きっと、戸惑ってる、、、はず。
なのに、いつも
その瞳はまっすぐ、だ。
すっと、胸を打ちぬかれる。
「わがまま、、、聞いてくれる?」
最高に自己中心な、わがままを。
「うん・・」
そのコトバを合図に
ゆっくりと、のっちに近づいていく。
傍に座り込み
「のっち、、、、キス、して?・・」
崖の上から、ダイブした。
のっちの唇がそっと近づいてきて、重なる。
「もっと、、、して?」
さっきとは、別人のような
激しい口付け。
ぐっと、体を抱きよせられる。
「はぁ・・・」
思わず洩れる、吐息。
ほら、もうあとは
のっちに、ただただ堕ちていくだけ・・・
そっと、舌で唇をなぞられ
のっちを、口内に導く。
少しずつ、、、そして
確実に、のっちに支配されていく。
熱い。全てを溶かされてしまいそうに熱い。
っ、、、はぁ・・・
どちらからともなく溢れ出る吐息。
唇が離れる。
まっすぐな、、、
ゆかしか映っていない、のっちの瞳。
「・・・ベッド、、、いこ?」
望みどおり、誘いをかける。
「うん・・」
ベッドに横わる。
視線の先には、ゆかを愛しそうに見下ろすのっち。
堕ちるところまで堕ちていきたい。
あなたを道連れ、に。
ぎゅっと、抱きしめられる。
「先生・・・?」
「ん?」
「のっち、、、正直、、、、どうしていいかわかんないや…」
「のっちが、、、、したいようにしたらいいんだよ?
・・・・てか、のっちの好きなように、、、して?」
そっと、抱き締め返し、真っ赤になった耳元に囁く。
なにも知らない、純真なあなたは
真っ黒な欲の中へ、ゆかの手によって
引きずり込まれていく。
その、熱い指先から送り込まれてくる
愛情の一つ一つに、体中の細胞が反応する。
どんどん、体温が上昇する。
頭の中が沸騰していく。
あまりの熱さに、どちらの熱なのかわかんなくなって
きっと、もう戻れやしないところまで
堕ちてしまったことに気付く。
深い口付けを繰り返し。
互いの愛情を飲み込む
わけがわかんなくなってきた・・・
のっちの指先が
ゆかの一番熱いとこにたどり着く。
んっ。。。
漏らした声に、のっちが瞬間、戸惑う。
そっと、瞳を開き
熱に浮かされた瞳をとらえる。
「・・・大丈夫、、、だよ?」
その一言をきっかけに
一番深いところまで、のっちに飲み込まれていく。
余計な感情が全て排除された世界。
ただ、のっちだけ。
のっちの熱が刻み込まれていく。
忘れないよう
忘れることのないよう
その快感の全てを
カラダに記憶させていく。
突き上げる衝動も
一つ残さず。
「先生・・・好き・・・・
この声も、ちゃんと。
「んっ、、、のっ、、、ち、、、、ぅ、、、き・・・」
無意識にこぼれた、ホンネ。
驚いたと同時に
ゆかの全てを、のっちにもっていかれて
二人の体温が一つになった。
はぁ、、はぁ、、、、
やさしく、ぎゅっと抱きしめられる。
このまま、時間が止まってしまえば
幸せになれるのだろう、、、か?
「・・・先生?」
のっちが、こつんと額をあわせられ
視線を奪われる。
「好き、、、です」
「うん・・・」
カラダの奥から、
愛情と絶望がこみ上げてくる。
溢れでそうな涙に気づかれぬよう
そっと、のっちを抱きしめた。
のっち・・・・のっち・・・・・
ごめん、、ね。
しばらくすると
のっちは、すやすやと寝息を立て始めた。
さらさらと、前髪を撫で
額にそっとキスをする。
これ以上、この腕の中にいたら
離れられなくなる。
全てを断ち切るかのように
ベッドから抜け出した。
身支度をする。
最後に、手紙を書いた。
『のっちへ
わがまま、叶えてくれてありがと。
ごめん、ダメな先生で。
じゃぁね。』
最低なゆかのこと、許さなくていいよ・・
ベッドに眠るあなたを振り返ることなく
すっかり冷え切ってしまった部屋をあとにした。
きっと、あの
無防備な寝顔を見たら、決心が揺らいでしまうだろうから・・・
のっち?
信じてもらえないかもしれなけど
ほんと、、ほんとに、幸せな一日だったんだよ。。
あの日のキモチに、微塵も偽りはなかったの。。。
最終更新:2009年05月14日 00:14