「かっしー」
廊下からゆかを呼ぶ声に顔を上げた
のっちのセーラーは夕日で熱に浮かされたみたいに染まっとる
「…のっち」
「ちょ、寝てたん?あ~ちゃんが屋上に集合だってー」
「ん…りょーかい…」
カタンとイスを引きずる音がしてのっちが向かいに座った
たちまち早くなる脈が耳障りで胸を抑える
「かっしー疲れとるん?最近、生徒会とか忙しそうだし」
「んー…そうかな…」
意識して出した声がかすれた。のっちといると、ゆかは声さえ上手く出せんね
疲れとる事になったゆかを元気づけようと少し大袈裟にハシャぐのっちを見ながら、世界が止まってしまえばいいと本気で思った
……本当に思ったんよ
こんなにも近いのに。
ちょっと手をのばせば触れられるのに。
魔法がかかったみたいに動けんよ
ゆかはこんな気持ちひとつ伝えられなくて。
…捨てることも出来なくて。
のっちのケータイの着信音が響いた
「あっ…あ~ちゃん!ごめ…やっ違う…い、今行くけぇ!」
あ~ちゃんの不機嫌そうな声が電話を通して静かな教室に響く
いつもその声色に赤くなったり、青くなったりするのっちを見ていると早くなってた脈が静かに戻っていくんよ
「…やっべ!かっしーいこ!」
のっちの手が思いのほか強くゆかの手を引いた
ふわりと立ち上がる。
一瞬、ぶつかる視線。
「…のっち、前髪切った…?」
「あ、さすがかっしーじゃねぇ!あ~ちゃんは全然気が付いてくれんかったんよ」
…だって。
ゆかはいつも、のっちのこと見てるけぇ。
のっちがあ~ちゃんばかり見てるから気がつかないだけなんよ。
のっちに手を引かれたまま屋上まで駆け上がる
「…のっち、好きよ」
絶対、絶対、聞こえないように囁く
2人の足音に紛れて消えてしまうように
…のっちの耳だけに届くことをほんの少しだけ、願いながら。
end
最終更新:2008年10月10日 16:49