サイドK
『あ、あ〜、、あのさ?』
教室の扉近くで、急に声をかけられた。
振り向く彼女の顔は、窓から差し込む夕焼けに照らされて恐ろしいほど綺麗だった。
『いつも、一緒ですね。』
また頭をガシガシ乱暴に掻いている。
『あ、違うか?よく会いますよね?』
自分の言葉が疑問系になっていておかしかったのか、表情が崩れた。
初めて見たクシャッとした笑顔が夕焼けにライトアップされ、呼吸困難になった。
『いつも大勢で賑やかですよね?』
『名前聞いていいですか?』
『あ、なんか喋ってばっかだw』
私が言葉を発せないでいる間に、彼女はいつも通りクールな表情に戻ってた。
『あ、樫野、有香です。』
名前を聞かなきゃ、、
よく目が合いますねって、、
いつもこの時間帯の授業なの?って、、。
『大本彩乃です。よく目が合いますよね。遅い授業が多いんですか?』
私が聞きたいこと知ってたの?
表情ひとつ変えずに聞いてくる彼女。
だけど優しい目をしてた。
『・・・私も、、同じこと思ってました・・。』
またクシャッて笑って、目を細めた彼女は綺麗で。
気が遠くなりそうな会話を私は終わりにしたくなかった。
『・・・じゃぁ、これも一緒かな?』
ぼそっと俯いて言った彼女が、また私の視界に入った時、
『一緒に帰りませんか?』彼女の綺麗な顔は忘れられない。
頭をガシガシ乱暴に掻きながら、少し照れたような表情が見てとれた。
慌てて机から鞄をとり、かけよった。
『は、い!!か、帰ります!!』
自分でも笑えるほど焦っていた。
『ふっ、そんな慌てなくても、、。』
初めて見る表情たちを、ひとつも見逃したくなかった。
駅までの坂道を二人歩いた帰り道。
私の少し前を歩く彼女の横顔が綺麗で、「帰り道が長くなればいいのに」なんて、本気でそう思った。
たまに敬語混じりの彼女の言葉が愛しかった。
『なんて呼べばいいの?かな?』
『すっごい元気な子いますよね?w』
『朝は弱いんだ。だから夕方の授業ばっかり。』
彼女が聞いてくれる。
彼女が答えてくれる。
『のっち、、でいいの?』
『高校から一緒なんです。』
『だからたまにしか食堂にいないんだ?』
『・・・彼氏、とかいます?』
友達の話はあまりしたくなかった。誰かが彼女に踏み込んだら嫌だったから。
最後の質問、、聞きたかったわけじゃないけど、、。
一応ね、、。
諦められるきっかけがほしかったの。
こんなに綺麗な人だもん。
誰もほっとかないよね。
『いやぁ、そんな、、いないっす、全然。』
ヘラッと笑って眉をひそめてた。
あ、諦められないじゃん、、。
でも、“好き”だなんて言えない。
当たり前だけど、“彼女”だから。自分でも戸惑ってるくらいだ。
その日から、目が合うと少しだけ柔らかい表情をしてくれるようになったのっち。
夕方からの授業ばっかりとってるって言っていた通り、食堂で会うことは、ほとんどない。
だけど、、
ある日あ〜ちゃんと友達の一人が嬉しそうに食堂にやってきた。
『どうしたの〜??w』
誰かが聞いてる。
二人は顔を見合わせてニヤニヤしながら、
『噂の美人と話しちゃったぁ〜!!ww』
———えっ・・・!?
『もうね、ちょ〜綺麗だよ??同じ人間ですかっ!!ってくらいww』
みんながキャーキャー盛り上がってる。
『でね、でね!!一緒にご飯たべよ〜って誘ってきたからっ!!』
———はっ・・・!?
『やるでしょ〜wwって、ゆかちゃん聞いてるっ!?』
『ひゃっ!?あ、あぁ。』
驚いた。今から?
今から来るの?ここに?
『あ、きたきた〜!!wこっちこっち〜!』
食堂の入り口でキョロキョロしながら頭をガシガシ乱暴に掻いてるのっちを見つけた。
あ〜ちゃんが手を振ると無愛想に振り返して、大股で近づいてきた。
『こんにちわ〜w』
みんなが嬉しそうに挨拶をする。なぜか私は影になって見えないようにしてた。
『あ、れ?いたんだ?』
みんなの挨拶を無視した声が聞こえた。
視線をあげると無愛想な顔じゃなく、クシャッと笑ったのっちがいた。
『見えんかったよ。』
ぼそっと言ったあと、
『・・・はぁ、いてくれてよかった、、。』
まわりの友達に聞こえないように小声で私に伝えた。
『なぁん?ゆかちゃん知り合っとったん??』
みんなが聞く。
『あ、授業が一緒なんです。』
私のかわりにのっちが答える。
みんなは少し不満そうだった。
だって明らかに態度が違ったから。
みんなへ向けるのと、
私へ向けるのとが、、。
みんなの視線が痛いけど、のっちはお構い無しって顔でガツガツとカレーを食べていた。みんなはそれを、ホケーッと見ていて、こんな大所帯だもん、一人くらいは本気で恋をしてしまうんじゃないか?って思った。
もちろん、自分がそうであることにはとっくに気付いていた。
のっちは最初から最後まで無愛想だったけど、ガツガツとした少年みたいな食べ方と、『ごっさま。』の声と言い方が絵になりすぎていて、不満を言う人はいなかった。
『んじゃ、また。授業あるんで。』
早々と席を立つのっち。
みんなはそれはそれは優しい顔で手を振ったり、またねと声をかけていた。
最後に私と目が合って、クシャッて笑ってくれたのは、今でも思い出す。
あぁ、やっぱり。
もう、どうしようもなく
“好き”になってたんだなぁ。
最終更新:2009年04月14日 23:30