「ゴホッゴホッ、」
ひつじが…いや、執事が風邪をひいた。
「大丈夫?」
「ずみまぜん」
執事室のベッドに埋まるように寝ているのっちのおでこに濡らしたタオルを乗せる。
「お嬢様に…ご迷惑お掛けするなんて、、、ゴホッ…執事失格れす…ゴホッ、ゲホッ」
「気にせんで良いよ」
のっちのベッドに腰を降ろす。
「お嬢様、ゲホッ…移っでしまいますから、ゴホッ、ゴホッ」
「んー…」
そっと、のっちの頬を撫でる。
「ゆかお嬢様?」
いつもより火照った頬。
「此処におったら駄目?」
「駄目です」
って、涙目で言われてもなぁ…。
「ゴホッ、ゆかお嬢様に風邪なんてひかれたら、ゲホッ、ゴホッゴホッ」
「あー分かった、分かった」
咳き込むのっちに私は何もしてあげられない。
変な心配させるなら部屋を出よう。
「欲しい物があったら言ってね?」
「はい」
「汗かいたら、ゆかが拭いてあげるからね?」
「はい」
「…」
「?ゆかお嬢様」
「人にうつすと治るらしいよ」
「お嬢様!」
「冗談」
「じゃあ…また後で様子見に来るから」
—…バタン
ゆかの部屋の扉より、何倍も軽い音
寂しい気持ちをため息で逃がす。
—〜♪〜
静かな廊下に着信音が響いた。
「はい?」
『あっ、ゆかちゃん?』
「あれ?誰かと思えば大本さん」
電話の主は友達の、のっち。
『えっ、なんでそんな他人行儀なん?』
「要件はなんでしょうか、大本さん。のろけなら間に合ってますけど」
『いや、違うんよ。ちょっと相談があってさぁ…。今日、ゆかちゃんちにお邪魔しても良いかなぁ?』
「駄目」
『即答!?』
「今、うちの執事風邪ひいてんのよ。うつしたら悪いけん、今日は駄目」
『お?心配してくれるん!?』
ニヤニヤ声で言うな。
「あやちゃんにうつったら大変じゃ」
『あ〜…うん、分かってた…うん。分かってたよ』
「あっ!あやちゃん居る?てか、居るよね、変わって」
『…なんか、のっちの扱いひどくね?』
ギャアギャア五月蝿いのっちを適当に流して、あやちゃんに変わってもらう。
『お電話変わりました』
「あやちゃん!風邪に効く飲み物とか何か知ってる?」
『風邪ですか?』
「うん、うちの執事が風邪ひいちゃって」
『それなら、ホットミルクに蜂蜜を入れて飲むと良いですよ』
「なりほど、流石!」
『いえ///でも、彩乃様も風邪をひかれた時には必ずお飲みになるんです。結構効きますよ』
「うん、やってみる。ありがとうね」
電話を切ると、早速キッチンに向かった。
side N
風邪をひいてしまって、ゆかお嬢様にご迷惑をかけて…
『のっちは使えん執事だね…』
変な夢を見ました。
そのせいで、せっかく寝付けてたのに起きてしまって…。
—…コンコン
朦朧とする意識の中で、ノックの音が聞こえた。
返事をしようとするが、体どころか口も動きません。
「のっち?」
恐る恐る入ってこられたのは、ゆかお嬢様でした。
「起きとる?」
起きてます、と言いたいのに口の中も乾燥してしまっている。
額のタオルが取られ、変わりにゆかお嬢様の手が乗せられた。
「ん…」
ようやく出た声は、自分でも驚くほどか細く、弱々しかった。
「あっ、ごめん。起こした?」
目を開けると、ゆかお嬢様の顔。
「いえ、起きてました」
優しく微笑んでらして…
「ちょっと、熱下がったみたいだね」
良かったねwなんて、頭を撫でて下さるから…
「ゆか、お嬢様」
先程の夢の事なんて、忘れてしまいました。
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
「…そう?あっ、のっち起きれる?」
「は、い」
ゆっくりと体を起こす。
「はい、これ飲んで早く風邪治してね」
渡されたのは、ホットミルク。
「これ…ゆかお嬢様が?」
「うんw」
「私なんかの為に、、、ありがとうございます」
「ふふっw大袈裟だなぁ。ミルクに蜂蜜入れただけよ?」
「でも、嬉しいです…」
そっと口に入れると、ほのかに甘く、蜂蜜の香りがした。
「おいし?」
「はい」
温かいものを飲んだからか、鼻水が…
「ティッシュ、ティッシュ…」
サイドテーブルにあるティッシュに手を伸ばすと、ゆかお嬢様にティッシュの箱ごと奪われた。
「はい、ちーんv」
ゆかお嬢様はティッシュを何枚か取ると、私の鼻に被せる。
「…えーっと」
「はい、」
「「ちーん…」」
なんか、子供に返ったようで恥ずかしいんですけど…。
「あははwのっち可愛い」
頬を撫でられて、体温が上がるのが分かります。
「ふふっwじゃあ…ゆかもう行くね?」
「えっ、待っ!」
咄嗟にベッドから立ち上がり、扉に向かうゆかお嬢様の手を掴んでしまいました。
「のっち…?」
「あっ、あの…」
途端に自分が何を言おうとしたのか、気づき焦る。
「ん?」
「えっと…なんでも、ありません」
離しかけた手を、今度はゆかお嬢様に握られた。
「本当になんでもないん?」
近づいて来られるお嬢様の顔から、目が離せない。
「んと…」
お嬢様はだんだん近づいて…
—…コツン
額が重なった。
「まだ、のっちのおでこ熱いね…」
「…はい」
握られた手は、いつの間にか指を絡める握り方に変わってました。
「ゆかお嬢様?」
「ん?」
でも、それが凄く嬉しいんです。
「先程、夢を見ました」
「どんな?」
「お嬢様に、、、見捨てられる、、夢…です」
『のっちは使えん執事だね…』
「そんなこと!」
「解ってます。ゆかお嬢様は、そんなことされないと…でも、、、」
「でも?」
『そんな執事は要らん』
「寂しかった…です」
知らず知らずに目に涙が溜まっていた。
side K
目に涙を溜めて、今にも泣きそうなのっちを抱きしめた。
「すいません…」
「良いよ」
「ありがとうございます」
「うん…」
抱きしめていた腕を少し緩め、またおでこをくっつける。
「のっちはゆかの執事だからね?」
「はい」
「ずっと、ずーっと、ゆかのそばにおってね?」
「もちろんです…ゆか様」
「のっち」
「ゆか様…」
「のっちぃ」
「ゆか、、さ、、くしゅん!!」
のっちのくしゃみが顔面直撃。
「…のっちぃ?」
「すっすいません…」
あからさまにシュンとするのっちに、デコピン。
「痛っ」
そして、軽くキス。
「ゆっゆかお嬢様!」
「ふふっwもう怖い夢みんように」
「…ありがとうございます///」
再び眠りについたのっちの頭を撫でながら、ゆかもいつの間にか寝てしまっていた。
おしまい
最終更新:2009年04月14日 23:36