11月になった。
結局のっちとゆかちゃんは水野先生が薦めてくれた大学を受験することにした。
水野先生が言っていた様に普通にしてたら普通に受かって。
二人とも塾を辞めて、バイトすることにした。
のっちはCD屋さん、ゆかちゃんは本屋さんだ。
12月になるとバイトも少しは慣れてきて、大本さんは覚えが早いねなんて褒められた。
初めて貰ったお給料で買ったのは、あ〜ちゃんが夏に雑誌を見ながら欲しいと言っていたネックレス。
クリスマスプレゼントにあげようと計画してたんだよね。
ある日曜日の朝、突然あ〜ちゃんの家から携帯に電話がかかってきた。
「もしもし」
『のっち?あ〜ちゃんなんだけどさ』
「あ、あ〜ちゃん!どーした?」
『今から会えん?』
「今から?…ごめん、のっちバイトあるわ」
『そっか…じゃあ無理だよね』
「ほんとごめんね」
『いやこっちこそ急にごめん…』
そう言うあ〜ちゃんは聞いたこともないぐらい不安げで、寂しそうな声だった。
名前を呼びかけた次の瞬間にはもう電話は切れていた。
この時、自分の中で『あ〜ちゃんなら大丈夫』という変な自信があったんだと思う。
その日あまり深くは考えず、バイトに出かけた。
街はクリスマスイルミネーションに彩られ、たくさんの人で賑わい始める。
そろそろクリスマスパーティーのことをあ〜ちゃんに話そう。
そう思ってバイト帰りに自転車であ〜ちゃんの塾に向かった。
出口の前でしばらく待っていると、同い年ぐらいの子たちがいっぱい出て来た。
その中にあ〜ちゃんはいた。
「のっち!なんでここにおるん?」
「ちょっと話があって」
「丁度良かった!あ〜ちゃんも話があるんよ」
二人で塾の近くの公園に向かい、ベンチに座る。
「あ〜ちゃん、話って?」
「後でええよ。のっちから先に言って。」
「じゃあ…あの、24日に三人でクリスマスパーティーせん?」
「えっ…クリスマスパーティー…?」
「うん!のっちの家で飾り付けとかケーキとか作ってさ」
「ごめん…あ〜ちゃん、塾あると思うし」
「えー!その日は休んじゃいなよ」
「気持ちの余裕もないし…」
「大丈夫だって、あ〜ちゃんなら一日くらい勉強せんでも…」
「のっちにはわからんよ!!」
あ〜ちゃんが怒鳴った。
顔を真っ赤にして、涙目で。
「受かってる人にまだ大学決まっとらん人の気持ちなんか、わから…」
あ〜ちゃんが自分の発した言葉にハッとする。
そしてのっちもハッとした。
「ごめんっ!あ〜ちゃん、ちょっと最近苛々しとって、感情的になりやすくて…
別にそんなこと思っとらんよ?勝手に口から出たっていうか、のっちに当たっちゃったっていうか、
あの、ほんとごめん!!」
謝るのはこっちの方だ。
何してんだろ自分。
あ〜ちゃんは受験生。
今の自分とは状況が違う。
突発的に出た言葉はあ〜ちゃんの本音。
そんなののっちにだってわかった。
「最低だよね、自分の苛々ぶつけるなんて…」
のっちを責めずに自分を責めるあ〜ちゃんの優しさが余計に自分の愚かさを痛感させる。
「最低なのは、のっちの方だよ。」
「のっち…?」
「ごめん、あ〜ちゃん。自分、ほんと馬鹿だ。」
そう言ってあ〜ちゃんに背を向け自転車に乗る。
余りの自分の馬鹿さに涙が出そう。
あ〜ちゃんはきっとこの涙を見たらもっと自分を責めてしまう。
そうならないように、のっちは思い切りペダルを踏んだ。
「のっち!!」
あ〜ちゃんの自分を呼ぶ声を背中で受けながら、全力でペダルをこいだ。
なんて自分勝手。
なんて自己中心的。
振り返ってみると、いつもそうだ。
あ〜ちゃんは違う。
あ〜ちゃんはいつものっちのことを考えてくれていた。
のっちは?
のっちはあ〜ちゃんのことを考えると言って
本当は自分のことしか考えてなかったんじゃないの?
『あ〜ちゃんなら大丈夫』という自信も、
大丈夫であって欲しいという願望なんじゃないの?
結局はあ〜ちゃんの優しさに頼ってばかりだったんじゃないの?
「う、うっ…くっ…」
嗚咽が止まらない。
涙で視界がぼやける。
それでもペダルをこぎつづけた。
もうしばらく、会わないでおこう。
それがあ〜ちゃんのためだ。
今ののっちには、それぐらいしかしてあげることが出来ないけど。
もう。
会わない。
つづく
最終更新:2009年04月14日 23:38