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サイドK


週に二回。私はのっちと同じ夕方最後の授業に出る。
まわりの友達が誰もいない静かな空間で、のっちと二人きりになれるのが嬉しかった。
いつも決まってた座席が、いつしか隣同士になって、のっちの綺麗な横顔を本当に独り占めしてるみたいで嬉しかった。
だけどこの均衡を壊したのは私。
いつもの帰り道。
二人で歩く坂道。
いつも私の少し前を歩くのっちの揺れる手が、後ろを歩く私の手に触れた。
ドキッとして咄嗟に手を胸元に逃がした。
『あ、ごめん。』
私のあからさまな態度に謝ってくるのっち。
『あ、ち、違うんよ!!』
思わず口から出た言葉。
『・・・何が??』
当たり前だ。何が?だよ。
何も言えないで、笑って誤魔化すことも出来ないでいた。
『・・・うち、こない?』
———へっ・・・?!
急な誘いにびっくりしたけど、断るつもりはなかった。
それより何より驚いたのは、私の手がのっちの手に触れていること。
自分で自分に驚いたけど、
のっちはそれを拒まなかった。



『ずっとこうしたかった。』

背中に生温い感触。
夏の日の汗ばんだ体が、クーラーのきいた部屋に乾かされたのに、まただんだんと、ジワジワと熱がこみあげる。
何でこんなことになったのかって?
何でこんなことになっているのかって?
・・・わからない。
だけど、やっぱりのっちは私の聞きたいことを知ってたの?
背中から抱き締められた夏の日の夕暮れ。
表情は見えないけど、最初に話したあの時みたいに、多分あなたは顔色ひとつ変えないで、
だけど優しい目をしてたでしょ?
『・・・私も、、同じこと思ってました・・。』



熱帯夜だった。
初めて体を重ねた日は熱帯夜だった。
今まで我慢していた熱が行き場をなくしたみたいな。
そんな二人の夜は熱帯夜だった。
汗で濡れた素肌にシャツが絡んで、その下の黒い下着が見え隠れしてる。
綺麗な横顔から、腰にかけてのSラインが、私を更に火照らせる。
最初から最後まで言葉もなく、ただ気持ちをぶつけ合うようなそれは、私と彼女の言わば、戦いみたいだった。
夜な夜な繰り広げられる、私と彼女の戦い。
いつだって負けるのは私だったけど。
彼女の上で髪を揺らしてる時間が一番好きだった。
私が笑うと、余裕な表情を見せる彼女が好きだった。
今夜は熱帯夜。
こんな夜に彼女を思い出さないほうが無理。
今夜もまた眠れそうにない。



大学一年の秋。
のっちには誰も手を出さないって条例が発足。
もう無理なのに。。
だってもうのっちの熱を知っちゃったもん。
側にいれないのに、笑いかけることなんか出来ない。



あの熱帯夜から、私たちは誰にも公表しなかったけど側にいることにした。
“付き合ってる”とか
“恋人”って言い方が出来ないのはわかっていたけど、やっぱり言葉がないと少し不安だった。
だけどのっちは、そんなの関係ないって顔で、私だけに笑いかけてくれた。
彼女のそうゆう周りに流されないところが大好きだった。ただ私だけに笑いかけてくれて、ただ私だけに流されてくれる彼女が愛しかった。
大学にいる時は行動もバラバラだし、昼間にのっちの姿は見つからなかった。
週に二回の一緒の授業が楽しみだったし、その日は必ず一緒に帰って、必ず彼女の部屋にいった。
『ずっとこうしてたいね。』
のっちが言う
嘘みたいな本当の話。



彼女の側にいられるようになって、だんだん彼女の内面を知った。
誰にも真似できない唯我独尊。
人に媚びない性格。
自分に嘘はつかない。
だから、興味のない人とは口も聞かない。
大学でいつも一人でいるのはそうゆうことだったんだね。
興味のある人はタイミング次第。『要は、恋はタイミングです。』って言いながら背中から抱き締められたこと覚えてる。
甘い言葉を甘く言ってはくれないけど、クールにさらっと言ってくれるほうがドキドキした。
私に興味を抱いてくれたこと、素直に嬉しかった。
普段は見せない表情や言葉を、二人になった時だけ見せてくれる彼女が可愛かった。
もう私はのっちじゃないと物足りなかった。
側にいるようになって、三ヶ月がたとうとしてた。
そう、まだたった三ヶ月。


『ゆかちゃん昨日何してたん??』
いつもの食堂。
いつものメンバー。
あ〜ちゃんが真ん中らへんに座ってて、私はいつも左端。友達が聞いてくる。
『へっ?・・・とくになんも?』
のっちの部屋で朝まで抱き合って誰にも言えない幸せを噛み締めてました。
なんて、それこそ誰にも言えない。
『坂道ですれ違ったの気付かなかった?』
友達は続ける。
『ゆかちゃんさ、おおもっちゃんと仲いんね〜?』
———おおもっちゃん??
あ、あぁのっちのことか。
変な呼び方・・・w
何人かはそう呼ぶ。多分距離の遠い何人かは。
『いつの間にって感じなんだけど・・・』
あ、ちょっと刺を感じた。
『まぁまぁまぁ〜ww』
あ〜ちゃんが仲介。いつもそうだ。
『ゆかちゃん本当なん?w』
あ〜ちゃんが笑いながら聞く。興味津々。
なにが本当なん?なのかわからなかったけど、
『授業が一緒だからね。ちょっと喋るようになっただけだよ。人数少ないし。』
無愛想にぼそっと喋る癖がうつったみたいだった。
みんな、本当に?と、かなり疑いの目だったから作り笑顔で誤魔化した。
のっちならそんなことしないだろうなぁ・・。なんて考えながら。
そもそも、それになんの問題があるか、わからなかったけど、
『のっちはみんなののっちじゃけぇ〜抜け駆け禁止よ〜ww』
あ〜ちゃんは笑いながら言った。いつもそうだ。
悪気はないあ〜ちゃんの言葉。だけど逆らえない私は苦しかった。
同時に、誰か私の他にも彼女のことが“好き”な人がいるんだって気付いた。
だからあ〜ちゃんはラインをひいたんだ。
みんなが揉めないように。
誰も手だしちゃ駄目ってゆうボーダーライン。



『みんなののっち』なんて誰かに合わせた都合のいい言葉に振り回される筋合いなんてなかった。
だけど見事なまでに、私はそれに振り回された。
ひがみや嫉妬、そういった類いのくだらない争いに、のっちを巻き込みたくなかった。
だけど感情は裏腹で、自分勝手に不安になっては心配をかけた。
のっちは誰にも負けない強さがあったから、多分私は甘えてたんだ。
のっちが本当はそんな私をすごく心配して、すごく不安に思ってること、いつまでも気付けなかった。
気付けないまま冬がきた。
私にとって、今まで生きてきた中で、一番寒い冬が。









最終更新:2009年04月14日 23:48