※「踏切」の後の話です
放課後の廊下でのっちを見つけた。
他の生徒は皆、部活や下校していると言うのに、のっちは窓の外を見ながらノロノロ歩いてた。
先帰ってて良いって言ったのに…
そーっと、後ろから近づいて…
足カックン、、
「ふぁ!」
変な声をあげて、のっちはその場に崩れた。
すかさずのっちの前に回り込み、同じ目線になるようにしゃがむ。
「ふふっw」
「ゆかちゃん」
してやったりな私とは対照的に、のっちは冷静で違和感を感じた。
「どしたん?」
「ん?別に?」
のっちは何も言わん。
「そう」
だからって、無理に聞き出すことはせん。
立ち上がったのっちにつられるように私も立ち上がる。
のっちはまた、窓の外を見ていた。
のっちの視線を追うと、その先は寒空の下、裸足で竹刀をふる剣道部。
「のっち?」
全く検討が付かなくて、思わず問いかけた。
「あっ!ゆかちゃん飴舐める?」
「え?あ〜…うん」
のっちは鞄をあさると、飴の缶を取り出す。
「サク○ドロップだ」
「うんw懐かしいでしょ」
のっちはクシャっと笑うと、缶の蓋を取る。
「ゆかちゃん、手出して」
「はい」
差し出した手にカラカラ音を立てて出てきたのは、白い飴。
「あっ、薄荷飴」
「ありゃ、ハズレだね」
のっちはそう言って、飴の缶の中を覗く。
「なんで?ゆか薄荷好きだよ?」
「え!?マジで!?」
「うん」
口に入れた薄荷飴に、爽やかな空気がスーッと鼻を抜けた。
「のっちはあんま好きじゃないんよ」
「へぇー、そうなん」
のっちは飴の缶を鞄にしまうと、回れ右をして歩き出した。
「うん、だからさ?困ってる」
慌てて私も歩き出し、のっちに並ぶ。
「違う味のばっか選んで舐めるから、最終的に薄荷飴ばっかり残っちゃって…」
のっちの脚は迷うことなく進んでいき、
「だから新しい飴缶を開けたいんだけど、なかなか開けられなくて…」
たどり着いたのは私の教室の、
「でも、ゆかちゃんが舐めてくれたら新しい飴缶開けられる♪」
私の席だった。
「ふふっw」
あまりにスムーズすぎる事の運びについ、笑ってしまった。
「一緒に帰りたかったん?」
私が鞄を手に取ると、のっちは俯いて、自分のブレザーの裾をキュッと握った。
「…うん」
「先帰ってて良かったのに」
「ゆかちゃんと帰れるなら何時間でも待てっるよ。のっち待つのは苦じゃないんよ?」
「そっかw」
頭をポンポンと撫でてあげた。
あたりは完全に日がおちて、真っ暗。
人も車も通らぬいつもの下校道、少し先に踏切が見える。
「寒くなってきたね」
付き合い始めて、のっちは駅までの自転車通学を辞めた。
理由は…自転車だと手が繋げないから…だって。
恥ずかしいけど、やっぱり嬉しくて…今日も自然と頬が緩む。
「ちょっと、悲しかったんよ?先帰っててとか」
繋いだ手を少し大袈裟にふりながら、のっちはぶー垂れた。
「ごめん、ごめん」
ちょっと不機嫌なのっちをなだめる。
「ほら!のっち、飴舐めて機嫌直して?」
「のっちの飴だよ〜?」
「良いから、良いからwゆかも舐めたいからさ、ね?」
「うん」
のっちは鞄をあさり、出てきた飴缶を私に渡す。
私が缶を持ち、のっちが蓋をあける。
面倒くさいけど、手は繋いでおきたいから…。
先に私がのっちの手に飴をあげた。
カラカラ音を立てて、出てきたのは緑色の飴。
「あっ!メロン味♪やったねw」
のっちは少年みたいにはしゃいで、飴を口に入れた。
「うまし!」
「ずるいよ〜。ゆかも」
飴缶をのっちに渡し、手を広げる。
「ゆかちゃんは何味かな?」
カラカラ音を立てて出てきたのは…
「また、薄荷…」
「あははw良かったじゃん、ゆかちゃん薄荷好きなんでしょ?」
「二つ連続は辛いよ〜」
なんて言いつつ、私は本日二つ目の薄荷飴を口に入れた。
二人で頬を片っぽずつ膨らませて、踏切を渡る。
二、三歩踏切に入ったところで警告音が鳴り出した。
走って渡っちゃえって思ったのに、のっちの手に引かれ引き返された。
「危ないから、、ね?」
そっか…出来るだけ長く一緒に居たいんだ…
「うんw」
私は、そういうさり気ない主張を見つけるのが好き。
言葉にしないのがまたキュンとする。
「ゆかちゃんは…薄荷飴って感じ」
「なに、突然」
「ん?ちょっと思ったの…」
踏切が開いて、私達は出来るだけゆっくり歩いた。
「でも、のっちは薄荷…嫌いなんでしょ?」
「嫌いじゃないよ…あんまり、好きじゃないだけ」
「そんなの…嫌いなのと一緒だよ」
分かれ道、思わず止まった私にのっちは困ったような顔をした。
「…薄荷があんまり好きじゃないのは…甘くないから、、、」
「ゆかは甘くないん?」
グッと力を入れた手が少し汗ばんでいた。
「違っ!…ゆ、ゆかちゃんが薄荷飴みたいって言ったんは…甘くないからじゃなくて、、、。」
俯いたのっちはため息を一つすると、顔をゆっくりあげた。
「ゆかちゃんは…いつも冷静で、、、余裕あって…一緒に帰れんでも、平気だったり…そういう、大人なとこが…薄荷飴みたいって、意味で…」
「のっち…」
「そういうの、見習いたいんだけど…のっちはまだまだ子供だからさ?」
「先、帰ってて良いよって言われても、グダグダ学校に残ってみたり…。聞き分けの悪い彼女でごめんね?」
「そんなこと!謝らんでよ…」
のっちなんかより、私の方が子供だ
「少し期待してたんよ…のっちが待っててくれてること」
素直に、待っててって、言えば良いのに…
のっちはいつも笑って待っててくれるのに…
—…チュ、
唇に柔らかいものが触れたと思ったら、目の前にのっちのドアップ。
「なっ、なにしよん!」
「ご、ごめん!ゆかちゃん泣きそうな顔するから…つい、」
「ア、アホ」
「ごめん…へへwゆかちゃん薄荷飴の味がした」
「薄荷飴舐めてるんだから、当たり前でしょ!」
「でも、嫌じゃない」
「?」
「薄荷味好きじゃないのに、ゆかちゃんとのキスが薄荷味でも嫌じゃなかったw」
「っ///」
「むしろ、甘く感じた」
「の、///」
「へへw」
「んー、もう!帰るよ///」
線路沿いの道を手を繋いで歩く。
吸い込む空気は、寒さと薄荷飴でスーッと体を抜ける。
「ゆかちゃん?」
「何?」
「薄荷飴、沢山あるからね」
「もう、いらん」
爽やかより、甘い方が好きだから…。
最終更新:2009年04月15日 00:01