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「あっ、のっち。おはよう」
「えっ・・・あ、おはようございます・・・」

「のっち、おはよ!!」
「おはよ・・・」

「のっち先輩、おはようございます!」
「・・・お、おはよう」

あ〜ちゃんがあたしにあだ名を付けて、約1週間。
なんでか、先輩も違うクラスの子も後輩もみんな、あたしの事を『のっち』って呼ぶ。
そして朝、下駄箱に行くと必ず3人以上に挨拶される。
しかもほとんど知らない人たち。

てか、なんでみんなあたしの事知ってんの?
そんな転校生が珍しいのか?

ローファーから上履きに履き替えてる時に肩を叩かれた。
叩かれた方向を振り向くと、ほっぺに指が刺さった。

「あはwこれってまた引っかかる人おったんじゃね〜」
小学生みたいなイタズラを仕掛けたのは、あ〜ちゃんだった。

「・・・痛いよ。あ〜ちゃん」
「ごめんごめん。おはよう」
あ〜ちゃんはあたしの髪を、ワシャワシャと犬をあやすみたいに撫でた。

「おはよう」
あたしはイタズラされても髪をボサボサにされても怒らなかった。
あ〜ちゃんに構ってもらうのが嬉しかったから。

あ〜ちゃんは友達が多い。
部活もやってるから先輩には好かれてるし、後輩には慕われてる。
先生たちの評判も良い。
可愛いし、足も速いし、頭もそこそこ良い。
なんつーか、あたしから見たらパーフェクトな女の子だ。

単純にすごいなって思うし、憧れちゃう。
自分にはないものばっかり持ってるから、引き付けられちゃう。
だからそんなパーフェクトなあ〜ちゃんのちょっかいは嬉しい。



「ねぇ、あ〜ちゃん」
「なに?」
一時間目は移動教室。
あたしたちは今から理科室へ。
ふたりで階段を下りている。

「なんでみんな、あたしのこと知ってるん?毎朝挨拶されてビックリするんだけど・・・」
「あー・・・、のっちは目立つからね〜」

「え?あたしなんて全然目立ってないと思うんだけど。むしろ、あ〜ちゃんの方が目立ってんじゃん」
「いやいや〜、のっちに比べたらあ〜ちゃんなんて、まだまだですよw」

「なんで急に敬語?w」
「やっぱ、人気者には敬意を示さなきゃいけませんからね!」

「人気者?誰が?」
「誰が?って、のっち・・・。あんたの事でしょw」

「え?そ、そうなの?」
「そうだよ!あんた自覚なかったん?あ〜ちゃん色んな人に、しょっちゅうのっちの事訊かれるもん」

人気者って初めて言われた。
ちょっと嬉しいかもw。

「な、なんて訊かれるの?」
「う〜ん、と・・・」

ワクワク・・・。

「忘れた!!」
「えーーーー!!そりゃないよ〜、あ〜ちゃん・・・」
「大丈夫よ。変な事は言ってないはずだから」
そう言ってあ〜ちゃんは駆け足で階段を下っていった。あたしも追いかける。

斜め下から「キャーー!!」って大声が聞こえたと同時に、あたしはあ〜ちゃんの腕を捕まえてた。
叫んだのはあ〜ちゃん。
急いで階段を降りていったから、段を踏み外して転げ落ちそうになった所をあたしが助けた。

「セーフ!!」
あたしはどや顔であ〜ちゃんを見る。
あ〜ちゃんは顔が真っ赤になってる。
「あ、あでぃがどう・・・」

「あははは!!」
あ〜ちゃんが変な言い方でありがとうって言ったから、あたしはそれがツボに入り大笑い。
笑いながら、あ〜ちゃんが弾みで落とした、教科書とノートとペンケースを拾ってあげる。

「もー、笑わんでよ。のっちのバカ」
「バ、バカって・・・助けた人に対して言う言葉?w」
「う、うっさい!」
あ〜ちゃんは捨て台詞を言って、あたしを置いてそそくさと理科室へ行ってしまった。



お昼休みになってあたしは昼ごはんを買いに購買へ行った。
そこであたしのファンって言ってくる1年生集団に捕まった。

「のっち先輩、一緒にお昼食べましょうよ」
「そうですよ!ほら席ありますから!」
「あ・・・や、でも」

「遠慮なんていいですよ。みんな、のっち先輩と一度お話したかったって言ってたんですよ!」
「はぁ・・・」
困ってると、遠くの席であ〜ちゃんが他の友達とお昼を食べてるのが見えた。
あたしはあ〜ちゃんに助けてもらおうと、視線を送り続けた。

あっ、あ〜ちゃん気付いてくれた。
よし!助けてって合図を送ろうとしたら・・・。
めっちゃ笑顔で手を振られてしまった。
そしてあ〜ちゃんは、友達とどっかへ行ってしまった。

ガーン・・・。

ちょっとショックなんですけど。
結局、あ〜ちゃんに見捨てられたあたしは1年生たちとお昼を過ごす事になった。

「あ〜ちゃん・・・なんでさっき助けてくれなかったん?」
あたしはあ〜ちゃんに自分勝手な文句を言った。
「へ?さっきって?」

「えー?そこ、とぼけちゃうの〜。昼休みだよ」
「あぁ、あれ助けてほしかったん?だってのっちニヤニヤしてたよ?」

「ウッソ!?ニヤニヤなんてしてないよー。1年生の質問攻め大変だったんだから・・・」
「そうなん?だって、さっき人気者って言ったら嬉しそうにしてたじゃろ」

「別に好きでもない人に好かれても、疲れるだけだったよ・・・」
こう言ったら、あ〜ちゃんはあたしの顔をじっと見て、ちょっと引きつったような表情をした。

けど、次の瞬間はふざけてこんなツッコミを返してきた。
「まー、この子は一丁前にそんな口利いて。あ〜ちゃんは、そんな子に育てた憶えはないけw」
「あ〜ちゃんに育ててもらった憶えないけどw・・・イデッ」
あ〜ちゃんに頭を叩かれた。

「しょうがない!じゃ、そのお詫びにいいとこ連れてってあげる」
あ〜ちゃんはあたしの手を取って教室を出た。

「いいとこって?もうすぐ5時間目始まっちゃうよ?」
「どうせ体育でマラソンだからサボっちゃお」

授業をサボるのは良くない事だけど、繋がれた手と行き先がわからない為心臓がバクバクいっててそれどころじゃない。
あたしたちは5階の『生徒立ち入り禁止』って張り紙がある扉の前に着いた。

「ジャーーン!!」
あ〜ちゃんは自慢げに鍵を見せてきた。



「ジャーンって、それ・・・もしかして、屋上の鍵?」
「せいかーい!」
あ〜ちゃんは鍵を指してノブを回す。
屋上には何もなく殺風景だったけど、そこから見える景色はキレイだった。

「なんで、あ〜ちゃん屋上の鍵なんて持ってるん?」
「1年の時、こっそり合鍵作ったの」
えー!?意外。
あ〜ちゃんて優等生だと思ったら、そんなことしちゃうんだ。
なんか、あ〜ちゃんのギャップが見れて嬉しいな。

「1年生に追っかけられたら言ってね。あ〜ちゃんがこの魔法の鍵で助けてあげるけ」
あ〜ちゃんはその魔法の鍵をあたしにジャラジャラと見せ付けた。
「マジで!?チョー嬉しいんですけど」

「のっち、この鍵誰にも見せてないから内緒ね」
「うん!てか、あたしもそれ欲しい。合鍵作っていい?」

「ダメー!」
「えー、何で?いいじゃろ〜」
あ〜ちゃんは両腕でバツマークを作り、あたしに反論した。

「ダメダメ。ここはあ〜ちゃんの場所なんだから、のっちが独り占めしちゃダメ」
「えー、ケチ。・・・イデッ」
今度は肩を叩かれた。

「・・・来たかったら、あ〜ちゃんと、一緒に来ればいいじゃろ?」
ちょっと遠慮がちに言うあ〜ちゃん。
「一緒に?」

「うん。・・・一緒は嫌なん?」
「ぜ、全然!むしろ一緒のほうが良い、みたいな?」
あたしがこう言うと、あ〜ちゃんはニカって笑った。
その笑顔が胸を苦しくする。

「よし、素直でよろしい!」
あ〜ちゃんはまたあたしの頭をワシャワシャと撫でた。

あたしたちは5時間目中ずっと屋上にいた。
自分たちのクラスの体育を上から観察したり、他愛も無いおしゃべりしたりして過ごした。
ただそれだけで楽しかった。嬉しかった。

一緒にいることで、あたしの中のあ〜ちゃんが、どんどん大きくなっていく。
あ〜ちゃんを、知れば知るほど好きになっていく。

あ〜ちゃん・・・あなたに対するこの気持ちどうしたらいいの?










最終更新:2009年04月15日 00:05