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母親が新学期になると私の携帯を解約した。
解約する前日にのっちとゆかちゃんにはそのことを伝えた。
クラスが別々になって携帯電話は重要な道具だったんだけど、
直接的な連絡手段を失ってしまった今、下校時間が大切なものとなっていた。
でもその時間さえ失ってしまった。
私の塾は二人の塾より始まる時間が早かった。
そんな理由だけで私の大切な時間を失った。


受験ってそんなもの?
何かを犠牲にしなくちゃいけないの?


考えてもどうにもならない疑問。
私はそんな日々にストレスを感じていた。





秋の模試の結果を見て、最終的な志望校を決めた。
私の志望校はここから凄く遠くて、
もし合格したら下宿しなくちゃいけないぐらいの遠さだった。
ある日ゆかちゃんのお母さんから私の母親に電話がかかってきた。
ゆかちゃんとのっちは推薦で大学が決まったらしい。
私の母親は私の受ける大学を伝える。
そのあとゆかちゃんに電話を替わってもらう。


「もしもしゆかちゃん?大学決まったんだねー、おめでと!」
『ありがとう…あ〜ちゃんの受ける大学、遠いね』
「うん。合格したら下宿するんよ」
『やっぱりそうなんだ…』
「そんな寂しそうに言わんでよー!まだ決まっとらんのに」
『だって…寂しいもん。のっちには言った?』
「ううん。まだ言っとらん。」
『そう。だったらあ〜ちゃんから直接言ってあげた方がいいよ…』
「うん…わかった。そうする。」


自分で伝えると言ったものの、中々伝える勇気がなかった。
のっちの声を聞きながら口に出してしまうと
一気に実感が湧いて、泣いてしまう気がしたから。
でも、いつまでもそういう訳にはいかなくて。
勇気を出してのっちの携帯に電話する。


『もしもし』


久しぶりに聞くのっちの声。


「のっち?あ〜ちゃんなんだけどさ」
『あ、あ〜ちゃん!どーした?』


のっちが私の名前を呼ぶ。
なんて愛おしいんだろ。


「今から会えん?」
『今から?…ごめん、のっちバイトあるわ』


バイト。
今の私には聞き慣れない言葉だった。


「そっか…じゃあ無理だよね」
『ほんとごめんね』
「いやこっちこそ急にごめん…」


電話を切る。
そしてのっちと私の現在の状況があまりにも異なっていることを知る。
焦り。
不安。
今まで気づいていても無視していた感情が溢れ出す。
その感情に押し潰されそうになる。
私は負けないように勉強に集中することにした。





12月半ば。
いつものように授業を終え、塾を出る。
するとそこにはのっちがいた。


「のっち!なんでここにおるん?」
「ちょっと話があって」
「丁度良かった!あ〜ちゃんも話があるんよ」
「あ〜ちゃん、話って?」
「後でええよ。のっちから先に言って。」


話したら泣きそうになるから、そう言った。


「じゃあ…あの、24日に三人でクリスマスパーティーせん?」
「えっ…クリスマスパーティー…?」


のっちは変わらない笑顔で話を続ける。


「うん!のっちの家で飾り付けとかケーキとか作ってさ」
「ごめん…あ〜ちゃん、塾あると思うし」
「えー!その日は休んじゃいなよ」
「気持ちの余裕もないし…」
「大丈夫だって、あ〜ちゃんなら一日くらい勉強せんでも…」
「のっちにはわからんよ!!」


自分の中で何かが外れた。

「受かってる人にまだ大学決まっとらん人の気持ちなんか、わから…」


私は自分の発した言葉にハッとする。
そしてのっちも驚いていた。


「ごめんっ!あ〜ちゃん、ちょっと最近苛々しとって、感情的になりやすくて…
別にそんなこと思っとらんよ?勝手に口から出たっていうか、のっちに当たっちゃったっていうか、
あの、ほんとごめん!!」


何言ってんの、私。
自分のストレスを関係のないのっちにぶつけて。


「最低だよね、自分の苛々ぶつけるなんて…」
「最低なのは、のっちの方だよ。」
「のっち…?」
「ごめん、あ〜ちゃん。自分、ほんと馬鹿だ。」


そう言ってのっちはこちらを見ずに自転車に乗る。
その声は震えていた。
泣いてるの…!?


「のっち!!」


大きな声で呼んでも、力強くペダルをこいで小さくなっていくのっちには聞こえないようだった。






公園で一人、泣いた。
咄嗟に出た言葉は、私が無意識に思っていたこと。
つまりは気づかないようにしていた本音。
のっちは何も悪くない。
のっちはのっちなりに私を考えてくれたのに。
私は自分のことでいっぱいいっぱいになっていた。
私の前を去っていったのっちの背は、
最も大切な人を失ったということを私に訴えてきた。
こんな大切な人も犠牲にしなくちゃいけないの…?
もう。
会えない。





つづく









最終更新:2009年04月15日 00:06