side,k
大好きなのっちを抱き締める。
離さないように、
離れないように、
強く、強く。
大好きなのっちの匂いでいっぱいになりたくて、
のっちに身を寄せて思いきり息を吸い込む。
——違う。
息を吸い込んで感じた匂いは、
ゆかの大好きなのっちの匂いじゃない。
ゆかとも違う、他の誰かの香り。
ねぇ、誰の香り?
ゆかと会う前に他の誰かと一緒にいたの?
こうやって優しく抱きしめたの?
「…のっち、なんで他の人の匂いがするの?」
徐々に自分が黒く染まっていくのが分かる。
でもそれを止めようとはしない。
だって、悪いコトをしたんだからお仕置きしなきゃ。
ゆかは間違ったこと、してない。
狂おしいほど愛してるから、
勝手にゆかから離れないように、
ゆか以外を愛せないように、
ちゃんと躾けなきゃでしょ?
「え?あ、いや…」
どうしてハッキリ言えないの?
「ゆかに言えないようなこと、してたの?」
「!そ、そんなこと絶対ない!してないよっ!」
どうしてそんなに必死なの?
やっぱり何かあったんじゃないの?
ドロドロとした黒い感情がゆかを支配する。
もう駄目、止められない。
ナニカハズレタ。
のっちから体を離し、自分のバックから香水を取り出す。
いつもゆかが使ってる、お気に入りの香水。
のっちは突然離れたゆかを見て、不思議そうに首を傾げてる。
ねぇのっち。
ゆかはね?
ゆかのものじゃないのっちなんて嫌いなの。
のっちは鈍感だから、どうせ知らないでしょ?
だから教えてあげる。
二度と忘れないように、体に刻みこんであげる。
「ッ!?」
手に持っていた香水を、のっちに向けて思い切りぶちまけた。
頭から香水を被ったのっちは、何も言えずに固まってる。
——もっと、ゆかでいっぱいになって。
香水でびしょ濡れになったのっちを抱きよせて、匂いを嗅ぐ。
良かった…、ゆかの匂いしかしない。
あの忌々しい匂いはもう消えてしまった。
今ののっちを支配しているのは、ゆか。
匂いも、瞳も、心も。
これでのっちはゆかだけのもの。
のっちはゆかだけを抱きしめればいいの。
ゆかだけを見てればいいの。
ゆかだけを、愛せばいいの。
これ以上離れていかないで。
いっそひとつになってしまえればいいのに。
「ゆかだけで、いっぱいになってよ…」
もう駄目なの。
我慢できないよ。
のっちがゆか以外のものに染まってほしくないの。
「こんなことしないでも、のっちはゆかちゃんでいっぱいだよ」
そう言ってのっちはギュッと抱きしめてくれる。
大好きな、のっちのぬくもり。
「のっちは、ゆかだけののっちじゃなきゃ嫌なの…」
ワガママばかりの可愛くない子でごめんね?
でも止められないの。
あなたがそれを受け止めてくれると知っているから。
あなたの優しさに、溺れてしまうの。
「…のっちだって、のっちだけのゆかちゃんじゃなきゃ嫌だよ」
じんわりと、心の奥が満たされていく。
のっちはズルイよ。
ゆかを不安にさせたと思ったら、たった一言でこんなにも満たしていく。
のっち次第で、ゆかは白くも黒くもなれるんだよ?
ねぇ、ちゃんと覚えておいてよ。
じゃないと、
幸せなのに苦しくて
苦しいのに幸せで
自分が分からなくなる。
「のっち…。ゆかはのっち次第で、どうにでもなれるんだよ?」
離さないで、離れないで。
愛して、愛させて。
満たして、満たさせて。
「だからゆかを、不安にさせないでよ…」
抱きしめていた腕に力を込めると、のっちはその大きな瞳でゆかを見つめた。
「…ごめんね。でものっちは、ゆかちゃん以外見えてないから」
「……うん」
「ゆかちゃん以外を見たいとも思わないし、愛したいとも思わない」
「…うん」
「この先何年たっても、それは変わらないよ」
…やっぱり、ズルイ。
なんでこういう時だけそんなに大人なの?
ゆかだけが必死で子供みたい。
でも、そんなところも大好きなんだよ。
悔しいくらい、好き。
ねぇ、もっとあなたに溺れてもいい?
なんでも受け止めてくれる優しさに、身を預けてもいい?
黒になったり、白になったりしてもいい?
「じゃあ…、ゆかだけの、のっちになって」
「とっくの昔になってるよ」
そう言って小さく笑うのっち。
憎らしいけど、愛しくて。
誰にも渡したくないと思う。
絶対に譲らないから。
ゆかだけの、のっち。
ワガママなお姫様だけど許してね?
ヘタレなゆかだけの王子様。
Happy end?
最終更新:2009年05月13日 22:46