知らなかった。
『…聞いとらん?あ〜ちゃんから、受ける大学の話…』
ゆかちゃんは知ってた。
でものっちは、知らなかった。
なんで?
そんなの簡単なことだ。
のっちがあ〜ちゃんの話を聞いてあげられなかっただけ。
あの日かかってきた電話。
今思えば、あ〜ちゃんはそのことをのっちに話そうとしていたんだろう。
それを自分のバイトを優先させたがために聞いてあげられなかった。
あの日のあ〜ちゃんの不安そうな声が蘇り、のっちを責める。
『あ〜ちゃんが、遠くに行ってからじゃっ…遅いんよ』
そうゆかちゃんが言っていた。
遠くに行ってからじゃ遅い。
でものっちはわかってる。
もう遅い。
もう遠いんだよ。
物理的な距離じゃない。
そんな簡単に測れる距離じゃなくて。
精神的な距離が、遠い。
だから会わないし、会えないんだ。
そんなことわかっていたのに、
モヤモヤとした気持ちは消えなくて。
ごまかすようにバイトに時間を注ぎ込んだ。
時間が経つのは早く、冬休みを挟んで1月の最終登校日になった。
1月になってからは登校する人が少なくなっていたが、さすがに最終登校日には多くの人が来ていた。
教室で水野先生は卒業式について説明する。
卒業式は2月に入ってすぐ。
もうこの学校ともお別れ。
先生が卒業式の日じゃ忙しくてゆっくり話せないからと、
今までやってきた行事や思い出について話し出す。
先生が話すどの場面を振り返っても、のっちの隣にはゆかちゃんとあ〜ちゃんがいた。
あ〜ちゃんの笑顔が頭に浮かんで消えない。
あー。
気持ちがモヤモヤする。
ほんとは。
会いたいんだ。
どんなに会わないと決めても、
頭のどこかにいつもあ〜ちゃんがいる。
その笑顔が見たい。
でも今会ってしまったら、またあ〜ちゃんの優しさに甘えてしまう。
駄目だ。
のっちの勝手さがあ〜ちゃんから笑顔を奪ってしまう。
それだけは駄目だ。
早く先生の話が終わるよう願いながら、ずっと教室の時計を睨み続けた。
数日後。
卒業式だ。
先生が言っていた通り、式自体が終わっても
集合写真や卒業アルバムを渡したり、記念品を渡したりでドタバタと忙しい。
学校が終わってもクラス単位で打ち上げをして、
結局最後までゆっくりとする時間はなかった。
忙しい方が色々考えなくて済むから、楽と言えば楽だった。
打ち上げからの帰り道。
ゆかちゃんと二人。
ゆかちゃんはチラチラとのっちの顔を見る。
たぶん話しかけるタイミングを伺っているんだろう。
「何?」
「何って…?」
「何かのっちに言いたいこと、あるんじゃろ?」
「…うん。」と小さくこぼし、ゆかちゃんは真っすぐのっちの目を見る。
「あれから…あ〜ちゃんと話した?」
「ううん。話しとらんよ。」
「なんで?」
「なんでって…」
ゆかちゃんに見つめられるのが息苦しくなって目を反らす。
「自然消滅した…って思うことにしたから」
口から出たのは嘘だった。
ほんとは今すぐにでもあ〜ちゃんに会いたい自分がいた。
自分の気持ちに嘘をついた、と同時にゆかちゃんにも嘘をついた。
「のっち…今、何て言った?」
そう聞くゆかちゃんの声は震えている。
「だから…自然消め…」
乾いた音が夜道に響く。
一瞬何が起きたかわからなかった。
数秒後、頬に痛みが走って事態を把握する。
ゆかちゃんに打たれたんだ。
「のっち…」
「ゆかね…この前のっちが自分のこと身勝手って言ったけど、
そんなことないって思ってたんよ…」
「でも今わかった…のっちは勝手じゃ!」
「あ〜ちゃんに会わないのも、話をしないのも、
あ〜ちゃんのためじゃなくて結局は自分のためじゃ!!」
「あ〜ちゃんの気持ちなんて考えとらん!
あの日からのっちに会えんくて、どれだけ不安でどれだけ辛いか…
あ〜ちゃんの気持ち、考えたことあるん?!」
痛い。
痛いのが頬なのか、心なのか、わからない。
ただ次の瞬間に勝手に口から出たのは。
確かにのっちの、本音だった。
「のっちだって…のっちだって辛いよ!」
「あ〜ちゃんに会いたいよ!!会いたい…けど、…」
それ以上言葉が出て来なかった。
嗚咽を止められなくなった。
「のっちはのっちのままでええんよ…自分に素直なのっちで…」
「ほんとにあ〜ちゃんのためを思うなら、その素直な気持ちを伝えてあげてよ…」
ゆかちゃんは打った頬を優しく撫でて、ごめんねと謝った。
のっちはその言葉に頷くしか出来なかった。
次の日、久しぶりに学校とバイト以外の目的で家の外に出た。
自転車に跨がる。
目的地は、あ〜ちゃんと行ったお祭りがあった神社だ。
一息ついて、ペダルをゆっくりこぎ出した。
つづく
最終更新:2009年05月13日 23:15