サイドK
あなたがつけた心の傷跡が、ゆっくりと乾いてカサブタになっていく。
だけど、こんな熱帯夜の夜に、またあなたを思い出してはペリペリと乾ききっていないカサブタは剥がれ、
また心に痛みを与え、見えない傷跡が生々しいものになっていく。
もう何度目だろう?
乾ききらないカサブタを、我慢出来ない子供のようにペリペリ剥がすのは。
もう何度目だろう?
こんな熱帯夜にあなたを思い出して涙するのは。
あ〜ちゃんが言った“役目”を期待してるのは、
他の誰でもない。
あたし。
『ずっとこうしたかった。』早く後ろからそうやって・・。
『ずっとこうしてたいね。』早くそばでそう言って・・。
彼女の言葉が頭の中で永遠のダルセーニョ。繰り返し。
“迎えにきてよ”
と、言った時の困った顔は、多分離れないから大丈夫って意味。
だけど現に離れてしまった私たち。
迎えにくるのがあなたの役目なら、
ひたすら待つのが私の役目。
サイドN
いつもの通い慣れた坂道とは真逆の、平坦な道のりを歩く。
久しく行ってなかった大学を背にして、歩く。
平坦な道のりに、
駅のホームに、
広がる小さな商店街に、
あなたの影を探すけど、
いつも見つからないまま辺りは暗くなって、
逃げていく月の明かりが、
“無理なんじゃない?”
と、嘲笑っているようだった。
あ、この月見たことあるな。
“迎えにきてよ”
彼女の言葉が頭に響いた。
あぁそうだ。
『どんなに遠くに離れても、二人なら平気だよ。』
そんなふうに言ったあの夜も、こんな月をしてたっけ。
二人の前から逃げるようにして、どんどん見えなくなる月を、今は一人で見ているなんて、、。
『ふっ、、馬鹿みたいじゃん、、。』
私の声は街の雑踏に消えていく。
『あんなに近くにいたのに、駄目だったじゃん。』
街の雑踏がかき消してくれてよかった。
情けない言葉はもう終わり。
あなたのことは、
“もう済んだこと”には、出来ない。
この目にあなたが映るまで探そう。
この鼻を甘い匂いがかすめるまで探そう。
この耳に声が届くまで探そう。
この手のひらにぬくもりを感じとるまで探そう。
この口であなたの名前を呼ぶために探そう。
きっと見つかるから。
きっとあなたは待っていてくれる。
あなたが抱えてる悩みも、
あなたが抱えてる不安も、
今なら受けとめられるから。
きっとあなたは待っててくれてるんでしょ?
きっとあなたは待ってるでしょ?
走った。
走った。
夏の日のジメジメした質感にめまいを覚えるけど、
あなたを探せないまま部屋に帰るみじめな姿を、
もう考えたくなかった。
何日も何日も走っては、躓き、あなたの影をとらえられないままの日常。
だけど、今夜は熱帯夜。
見たことのある逃げていく月。
奇跡なんか信じてないけど、今日会えなかったら、
いつ会えるんだ?
今日見つけられなかったら、もう無理ってことだと思うことにしよう。
勝手な思考に、私は絶対に一人では部屋に帰れなくなった。
最終更新:2009年05月13日 23:18