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Side N

あやちゃんがあたしの側から離れて行くなんて考えもしなかった。

あやちゃんと出会ったのはこの家で。
あやちゃんが育ったのもこの家で。
あやちゃんはあたしのメイドさんで。
あやちゃんのご主人様はあたしで。

あやちゃんとあたしは好き同士で…。

だから、こんな日が来るなんて思いもしなかった。

というか、本当なら少しは予想しておくべきだったのかもしれないね?
あやちゃんがこの家に居る理由を知っていたんだから。


Side A
今日、いつもの様に彩乃様をお見送りして、お部屋の掃除、洗濯などをしていましたら。

「綾香。少し時間良いかね。」
「はい。」
旦那様に呼ばれ、後ろからついて行くと客室にたどり着きまして。

そこには奥様も居られて、そして、向かい合わせで一組のご夫婦らしき方々の姿もありました。
奥様の座っておられるソファーまで行くと、
「この子が、綾香です。今は娘の身の回りをすべて任せてあるんですよ?」
「とても優しくて、気の利く子で娘も綾香を気に入っているんですよ。」
「だ、旦那様ぁw」

「そんなに慌てなくとも、本当のことだろう?」
「そうですが…。」
深い意味は無いと思っていても、そう言われると恥ずかしいです。

お客様にも笑われてしまいました…。

私は改めて二人のお客様に向かい挨拶を。
「はじめまして。綾香と申します。」

一礼して私が挨拶すると、目の前の二人はとても愛しそうに私を見て下さっていて。
なんだか、私も…。



「綾香。こちらのご夫婦は、西脇さんと言ってね。急に、こんなこと言っても、戸惑うだけかもしれないが…、綾香のご両親なんだ。」

「私の…?」
両親?お父様とお母様?
正直突然のことで、状況が把握できません。

「そう、あなたのご両親よ?」

「綾香っ。立派に成長してぇ…。大本さんに、感謝しても感謝しきれません。」
「私たちの都合で置いて行ってしまったのに…。本当にありがとうございます。」
涙ぐみながら、旦那様と奥様に深々とお礼をされている、私の…お父様と、お母様。

「いえいえ、私達はほとんど何もしていないようなものですよ。家のメイドさんたちがこの子をしっかり育ててくれたんですよ。」
「いえ!旦那様も奥様も、いつもお声を掛けて下さって、私はとても嬉しかったです。」
思わず声が大きくなってしまいました。
「ははwそうかい?」

「あの、抱きしめても?」
「親が子を抱きしめるのに、私たちの許可は必要ないでしょう。」

「綾香?」

「はい。」
立ち上がったお母様に名前を呼ばれ返事をすると、そっと抱きしめてくるお母様。
でも、その腕は少し震えていて…。
もしかして不安なのでしょうか?
私が安心させたくて抱きしめ返すと、「ありがとう」と言われて泣かれてしました。

少し落ち着くと、一緒にお母様の隣に座らせてくださいました。

「私達のこと恨んだんじゃない?」
「いえ。そのような事は思ったことはありません。言い方は変かもしれませんが、感謝しています。ココでたくさんの方と出会えて幸せでしたから。」


本当に幸せなんです。
なにより、彩乃様と出会うことが出来ましたから。

「それでだね。綾香。ご両親が来られたのは、綾香さえ良ければ、綾香と一緒に住みたいと言っておられるんだ。」

え?それは…。

「もちろん。無理にとは言いませんよ?」
「ぃえ。とても嬉しいです。ですが…。」

彩乃様のお側に居られなくなってしまいます…。

「すぐに答えが欲しい訳ではないんだ。ゆっくり考えて答えが出たら聞かせてほしいんだ。綾香が望むように私達も、ご両親もそれを望んでいるから。」
「焦らずに考えてね?ゆっくりで大丈夫だから。」
優しく私の手を握ってくださっているお母様も、お父様も。
旦那様も奥様も私のことを一番に考えてくださっている言葉。

「はい。…分かりました。」

その後、お二人を玄関までお見送りをして仕事に戻ったのですが、思いが彷徨ってしまいなかなか体が動かずで…。
それを察して下さったメイド長さんが
「考える事があるんでしょ?だから今日はもう仕事しなくても良いわよ?」
「ぃえっ。大丈夫です!申し訳ありません。」
いけません。ちゃんと気持ちを切り替えなくてはいけないのに。
「だぁいじょうだって〜。今日は、仕事もそんなにたくさんあるわけじゃないし。それに、その調子でケガでもしてごらんなさい?彩乃様に心配かけちゃうわよ?ね?」

確かに、それは申し訳ないです…。
「では…お言葉に甘えて。」
「そうしなさい。というか綾香ちゃんは働き過ぎなんだから、たまには休みなさいw」
笑いながらポンポンと私の頭を撫でてくださり、本当に大本家の方々は皆さん優しいです。
「あぅ。分かりました。」


そのまま部屋に戻り、ベットに腰を下ろし考える。
彩乃様から頂いたネックレスともう一つ、小さい頃からいつも身につけていた香水の入った小瓶。
その二つを両手に載せ、包むようにして眺める。

先ほどの話。とても嬉しいのは本当です。

だって、時々ですが、自分の家族はどんな人達なのだろう。
私のことを思い出してくれているのだろうか。
兄弟はいるんだろうか。
なんて、一人で思うこともありましたから。

お母様に抱きしめられた時、この安心する香りがして、すごく温かくて泣いてしまうかと思いました。
私に会いに来てくださって、一緒に住みたいとまでおっしゃって下さって。
どんなに嬉しいことで、そして幸せなことか。
すぐに返事をしたいくらい、それは考えなくても分かります。

ただ、それはこの家を出ると言う事で。
今までお世話になって、親しくしてくださった方々と離れてしまうということで。
彩乃様のお世話も出来ないということで…。

彩乃様の…お側から離れてしまうということで…。

西脇のお家は、そんなに遠くはないようですから、会おうと思えば会えるのでしょうけど。
それでも毎日。彩乃様と顔を合わせない日なんてありませんでしたから。
それが出来なくなると思うと…。

さすがに、それは寂しいですね…。

はぁ…ふぅ〜…。

でも、私は自分の家族のことを知りたいです。

彩乃様、私は…。


—つづく—





最終更新:2009年05月13日 23:26