ゆかちゃんは甘えるのが好き。
二人きりになると必ず抱きついてきて離れない。
のっちはそんなゆかちゃんを優しく抱きとめる。
壊れないように、壊さないように。
きっと、ゆかちゃんは些細なことで壊れてしまうから。
ゆかちゃんはいつも大人余裕があってのっちを振り回すけど、
それは自分が優位に立っていないと不安だからでしょ?
のっちは分かってるよ。
ゆかちゃんの不安も、全部全部。
だからのっちが守ってあげる。
ゆかちゃんを傷つける全てのものから。
だから心配しないでいいよ。
のっちは離れていかないから。
ゆかちゃんのこと、離してなんてあげないから。
ゆかちゃんがのっちの匂いを嗅ぐ。
前にゆかちゃんは、のっちの匂いが好きって言ったよね。
それが嬉しくて、それから香水は変えてないんだよ?
ゆかちゃんの言動ひとつひとつがのっちを変えていく。
それがゆかちゃんに満たされているみたいで、嬉しい。
不意にゆかちゃんが顔をあげた。
いつもの安心したような笑顔じゃなくて、とびきり不機嫌そうな顔。
鋭い視線に捕らわれて体が動かない。
「…のっち、なんで他の人の匂いがするの?」
ゆかちゃんが言っているのは、多分電車で隣に座っていた人の香水の匂い。
少し強めの匂いだったからうつったんだと思う。
体は動揺して動かないのに、頭の中はやけに冷静。
「え?あ、いや…」
違うよ、ってちゃんと言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。
原因は分かってるのに、体が言うことをきいてくれないんだ。
…のっちは多分、この後起こる“何か”に期待してる。
ゆかちゃんは不安が大きくなりすぎると、必ずのっちにお仕置きをする。
それがイケナイコトだって、のっちの体に刻みこむんだ。
最初のころはもちろん戸惑った。
だけど…、
ゆかちゃんをそうさせているのはのっちで、
そんなゆかちゃんを受け止めるのものっちだから。
「ゆかに言えないようなこと、してたの?」
冷たい言い方、視線。
全部全部、のっちでいっぱいなんだよね?
ゆかちゃんがのっちで満たされてて、嬉しい。
…だけどここで何も言わないのはマズイ。
ゆかちゃんを不安にさせてしまう。
傷つけてしまう。
「!そ、そんなこと絶対ない!してないよっ!」
慌てて否定する。
あなた以外見てないよ、って。
だけど…、その必死さが、あなたを煽ってしまったのかな?
のっちから体を離してどこかへ行ってしまうゆかちゃん。
どこ行くの?
のっちのこと、嫌いになった?
ゆかちゃんが離れただけで、こんなにも不安になる。
ねぇゆかちゃん。
のっちはゆかちゃんがいないとダメなんだよ。
不安で不安で、息も上手く吸えないよ。
ゆかちゃんは自分のバックから何かを取り出すと、静かに笑いながら戻ってきた。
——その笑顔は、危険だ。
そう思った時には、もう遅かった。
「ッ!?」
ゆかちゃんが手に持っていたのは香水で、のっちはそれを思い切りかけられた。
びちょびちょに濡れて気持ち悪いはずなのに、不思議と嫌な気分はしない。
ゆかちゃんだからかな?
酔ってしまいそうなくらい濃厚なゆかちゃんの香り。
息を吸うたびに脳が痺れる。
のっちは、ゆかちゃんでいっぱいだ。
「ゆかだけで、いっぱいになってよ…」
弱々しくて、今にも泣き出してしまいそうな声。
ねぇ、のっちはゆかちゃんでいっぱいだよ?
息もできないくらいに、いっぱいいっぱい。
のっちは溺れてるんだ。
求めれば求めるだけ、愛情を注いでくれるあなたに。
「こんなことしないでも、のっちはゆかちゃんでいっぱいだよ」
ゆかちゃんしか、のっちのことをいっぱいになんてできないよ。
のっちの“特別”はあなただけ。
知らなかった?
「のっちは、ゆかだけののっちじゃなきゃ嫌なの…」
冷静で小悪魔なお姫様は、ホントはとってもワガママ。
だけどそのワガママが愛しくて。
ねぇお姫様、もっとワガママ言ってもいいよ。
だけどね、のっち以外には言っちゃダメ。
だって、お姫様のワガママを受け止めるのは王子の役目でしょ?
「…のっちだって、のっちだけのゆかちゃんじゃなきゃ嫌だよ」
のっちはゆかちゃんだけの王子でいるから、
ゆかちゃんものっちだけの姫でいて?
「のっち…。ゆかはのっち次第で、どうにでもなれるんだよ?」
そんなのずっと前から知ってるよ。
ゆかちゃんはのっち次第で、黒くも白くもなれる。
それがのっちは堪らなく嬉しいの。
のっちに左右されているゆかちゃんを見るだけで、心が満たされていくの。
「だからゆかを、不安にさせないでよ…」
ゆかちゃんの腕に力がこもる。
もっと強く抱きしめていいんだよ?
強く強く、抱きしめて。
のっちを離さないで。
「…ごめんね。でものっちは、ゆかちゃん以外見えてないから」
ホントだよ?あなた以外、視界に入らない。
「……うん」
「ゆかちゃん以外を見たいとも思わないし、愛したいとも思わない」
のっちが傍にいて欲しいと思うのも、
愛してほしいと思うのも、
傍にいたいと思うのも、
愛したいと思うのも、
ゆかちゃん、あなただけなんだよ。
「…うん」
「この先何年たっても、それは変わらないよ」
約束するよ。
のっちはずっと、ゆかちゃんだけ。
「じゃあ…、ゆかだけの、のっちになって」
そんなの、当り前だよ。
ゆかちゃん以外のものになんてなりたくない。
「とっくの昔になってるよ」
小さく笑ってそう言うと、ゆかちゃんは満足したように笑った。
それでいいんだよ。
どんなあなただって受け止めてあげるから。
不安なんて感じる余裕もなくなるくらい、愛してあげるから。
だから安心してのっちを独占していいんだよ?
鳥籠に鍵をかけて、のっちを捕まえておいて。
羽ばたき方すら忘れるくらい、のっちだけを愛してよ。
のっちはあなたの愛も、不安も、ワガママも、なんだって受け止めてあげる。
あなたのワガママを聞けるのは私だけでいい。
ね、そうでしょ?
可愛い可愛い、のっちだけのお姫様。
Happy end?
最終更新:2009年05月13日 23:41