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あなたは風みたい。

決して捕まえることができない自由な風。

気がついたら傍にいて、

気がつかないうちに消えてるの。

「離れないで」なんて言えないよ。

だってゆかには、のっちを止める権利なんてないから。

もし何でもお金で買えるなら

「傍にいて」なんて簡単に言うことができる、

“のっちの恋人”って立場が欲しいよ。



ゆかが世界1番欲しいもの、


それはあなたなんだよ?のっち。



想いすぎて、壊れそうだよ。



「ホント、ゆかちゃんって小悪魔だよねー」

違うよ。

“小悪魔”って仮面を被って、大人で余裕があるフリをしてるだけ。

本当の自分であなたに接したら、自分が壊れてしまいそうで怖いの。

一度壊れてしまったら、きっと直すことも止まることも出来ないから。

壊れたゆかは、優しいあなたにこの想いをぶつけてしまう。

いつでも真っ直ぐなあなたと正面から向き合えないゆかは、

あなたに想いを告げる資格すらないのにね。


「……ゅかちゃん、ゆかちゃん?」

「え?あ、ごめん…」

のっちと話してたのに、色々考えすぎて1人の世界に入ってたみたい。

「もう、また何か考えてたの?」

からかうように、笑いながらそう言うあなたが愛しくて。

「ん…、ちょっと、ね」

のっちのことを考えてたんだよ、なんて言えるわけもなく、

ゆかは曖昧に笑って言葉を濁すだけ。

いつもそうだった。

ゆかはのっちへの気持ちを表に出すことなんて一度もなくて、

のっちの前で気持ちが溢れてしまわないように、心に鍵をかけた。


だけどその鍵は不意に開きそうになってしまうんだ。

のっちが勝手に鍵を開けようとするから。

ダメだよ、のっち。

その鍵を開けたら、

ゆかの心が自由になっちゃう。



困るのはのっちなんだよ?



「……ゆかちゃん、のっちの前で無理しないでよ」

「え…?」


気づいた時には、

ゆかはのっちの腕の中にいた。


のっちが、

ゆかを抱きしめてる。


ゆかは、

のっちに抱き締められてる。


何か言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。

まるで石になったみたいだった。

頭の中は真っ白で、

体は燃えてるんじゃないかってくらい熱くて、

何も考えられない。


「のっち、そんなに頼りないかな…?」

少し悲しそうなのっちの声。

ゆかの大好きな優しい瞳が、寂しそうに揺らいでる。

「なん、で…?」

喉がカラカラに渇いて、上手く声が出ない。

ねぇのっち、どうしてそんな顔をするの?

ゆかがのっちを悲しませてる?

やっぱりゆかは、あなたを笑顔にはさせてあげられないの?


「ゆかちゃん、いつものっちの前だと無理してるじゃん?だから、さ…」

だって、

だって、

そうしなきゃ、ゆかはダメになる。


壊れちゃうんだよ。



「のっちさ、頼りないかもしれないけど…、ゆかちゃんのこと、ちゃんと受け止めてあげられるよ?」

何で?

「だから…、のっちと距離を置かないでよ」

何で?

「…のっちは、ゆかちゃんの1番近くにいたい」

何で?



何でそんなに優しいの…?

そんなに優しくされたら、

ゆか、勘違いしちゃうよ。

その優しさに甘えちゃうよ。

「ねぇ…、そんなこと言うと、ゆか、勘違いしちゃうよ?」

意地悪そうに笑って、小悪魔を演じる。

そうやって突き放さないと、自分を保っていられないから。

いつでも余裕があるように、精一杯の強がり。


「勘違いしていいよ。のっち、本気だから」


あなたは、ズルイ。

ゆかの精一杯の強がりだって、こんなに簡単に崩してしまうんだから。


今更後悔したって知らないよ?


ゆか、もう壊れちゃったから。


のっち、もう後戻りはできないんだよ?

ゆか、ホントに勘違いしちゃったよ?


覚悟はできてる?


ゆかを壊した責任、とってもらうからね。



「…ゆか、ワガママいっぱい言うよ?」

沢山ワガママ言って、のっちを困らせるよ?

「ゆかちゃんのワガママなら、なんでも聞いてあげるよ」


「すっごいすっごい、嫉妬深いよ?」

どんな些細なことにだって嫉妬するよ?

「のっちだって、嫉妬深いよ?」


「壊れてるゆかでも、受け入れてくれるの…?」

どうしようもないくらいに壊れてるよ?

直すことも、止めることも不可能。

そんなゆかでも、愛してくれる?


「どんなゆかちゃんでも、のっちは愛せる自信があるよ」


「だって…、のっちはもう、ゆかちゃんのせいで壊れてるから」


…あぁ、そうだったんだ。

その瞳には、ゆかしか映ってないんだね。

ゆかがのっちを壊しちゃったから、ゆかしか見れなくなったんだね。

それなら、ゆかは———


「…のっちを壊した責任、ちゃーんととってあげるね?」

もっとのっちを壊してあげる。

ゆかでいっぱいにしてあげる。

だって、修理なんて無駄なだけでしょ?

のっちは直る必要なんて、ないんだから。

「のっちも…、ゆかちゃんを壊した責任、ちゃんととってあげる」

その言葉が聞きたかったの。

ねぇ、約束だよ?

もし破ったら…、ゆか、のっちに何するか分んないよ。


ゆかの持つ鳥籠にのっちを閉じ込めて、“約束”という名の鍵をかけた。

無理に開けようとしたら、怪我するのはのっちだからね…?


これでもうのっちは、ゆかのもの。



「約束、ね…?破っちゃ、ダメ」

そっと小指をのっちの前に出す。

「うん、約束。絶対破らないよ」

のっちが自分の小指をゆかの小指に絡めた。


のっち、

鳥籠の鍵をかけたのは、のっち自身なんだよ。

のっちは自分で自分を、閉じ込めてしまったの。


——閉ざされた鳥籠の中で、ゆかと幸せに暮らそうね。


「…のっちがゆかだけでいっぱいになるように、ゆかが壊してあげるから」

のっちを抱きしめている腕に力を込める。

絶対に、離さない。

どれだけ壊れても、ゆかがずっと傍にいてあげるから。

ゆかとのっちの邪魔になるものは、全部ゆかが消してあげる。

ゆかがのっちを、守るよ。

「何も心配しなくていいんだよ」

ね、ゆかと一緒なら心配ないでしょ?

一緒に壊れてしまえば、何も怖くないよ。

「心配なんて、しないよ?」

珍しく余裕っぽく笑うのっち。

何で、って聞こうとしたら——


「心配なんて感じる余裕もなくなるくらい、愛してくれるでしょ?」


自信満々なあなたの顔。

…そう、それでいいんだよ。

何も感じられなくなるくらい、ゆかが愛してあげるから。

のっちはゆか以外何も感じる必要なんてないの。

ゆかのことだけ感じてればいいの。

「当たり前でしょ?不安なんて、感じさせてあげないから」

大人なフリはもうしなくていいんだ。

子供っぽくても、のっちはゆかを愛してくれる。

だからもう、無理なんてしないよ。

のっちがゆかだけの王子様になってくれたんだから、

ゆかものっちだけのお姫様にならなきゃだよね。



「世界が終ったその後も、ゆかはのっちを愛してる」

——だからのっちも、ね。


ゆかはのっちのせいで壊れてて、


のっちはゆかのせいで壊れてる。




壊れ始めた二人を、誰も止めることはできないよね?


Happy end?






最終更新:2009年05月14日 00:11