Side N
「…彩乃様。少しお話させて頂いても宜しいですか?」
部屋でお茶を飲みながらくつろいでいると、いつもの落ち着いた口調で話をきり出してきたあやちゃん。
「ん?どうしたん?そんなに改まっちゃって。」
「実は今日、私の両親が来て下さいまして。」
そう話し出したあやちゃんの言葉に、これから話されるであろう内容が予想出来てしまった。
「へぇ〜…。」
努めて、普通に返事をする。
「それで、突然ですが一緒に住みたいとおっしゃって下さいまして。」
あ〜、やっぱり。
「ふ〜ん…そうなんだ。」
言葉では冷静だけど、心臓は速く音を増していく。
「あやちゃん、ご両親と一緒に住むん?」
「はい。そうさせて頂こうと思っています。」
やわらかく微笑むあやちゃんの決意は揺るがないんだろうな。
一度決めた事は、最後まで貫き通す子だもんね。
あたしは座っていた椅子から立って、ベットへと座りそのまま後ろへ倒れこむ。
「いつ行くん?」
「まだ、旦那様にお返事をしていませんので、はっきり決まっていませんけど、今度の日曜日にと思っています。」
「日曜…て明後日じゃん。」
「はい。」
「そっか。寂しく…なっちゃうな。」
そう言うと、あやちゃんがこっちに近づいてきて
「隣、座っても宜しいですか?」
「ぇえよ。」
あたしは左手の手の甲をおでこに乗せ、目を閉じて返事をする。
「…大丈夫です。また会えますから。」
「うん。分かってる。」
嘘だ。ホントは離れたくないくせに。
「ずっと、彩乃様のこと好きですから。」
「うん。分かってる。」
嘘だ。離れたら不安なくせに。
「ですから、そんなに泣かないで下さい。」
「へ?」
目を開けると覗き込むように近づいていたあやちゃんがいて。
少し困り顔のあやちゃんの指が、あたしの耳辺りから目じりにかけて撫でてくれて。
あたしは泣いていた。
「あれ…、おっかしいなぁ。何泣いてんだろ。せっかくあやちゃんが家族と暮らせるのに。嬉しいのに、な…。」
うそ…だ。寂しくて寂しくてしょうがないくせに…。
笑ってるはずだけど、ちゃんと笑えてるか分からん。
「すみません。何も言わずに決めてしまって…。」
少し申し訳なさそうに言うあやちゃん。
「気にせんでも良いよ。あやちゃんのことだもん、あやちゃんが選ぶのはあたりまえだよ。それに、あたしもそうした方が良いと思うし。」
本当の家族の場所に帰る。その方が、きっとあやちゃんは幸せなんだ。
「そうですよね…。でも私も、彩乃様のお側に居られなくなるのは、正直嫌です。」
「あやちゃん…。」
あたしを真っ直ぐ見つめるあやちゃんの言葉は、あたしを安心させる。
だって、今日言われたばっかりなのに、もう決めちゃってるんだもん。
もしかしたら、あたしと離れても、あやちゃんは寂しくないのかなって思ったから。
「でも、今は家族のことが知りたいんです。もちろん!大本家の皆さんも私の大切な家族です!
何処に行ってもそれはかわりません。ですから、ココで育った私も家族に見て貰いたいんです。」
「うん。」
そういう考え方が出来るあやちゃん大好きだよ。
「それに、皆さんのことも知ってもらいたんです。私の大好きなご主人様のことも…。」
「あたし、大したご主人様じゃないよ?」
「そんなこと!ぅわw」
ずっと覗き込んでいたあやちゃんの首に腕を回して、抱き寄せた。
「でも、ありがとう。」
「…。彩乃様?」
「何?」
「誰が何とおっしゃっても、彩乃様は私にとって一番素敵なご主人様ですから♪」
あやちゃんもあたしの肩に抱きつきながら、嬉しそうに言ってくれる。
「もwあやちゃんは、あたしを喜ばすのが上手いねぇ〜。ははw」
「上手いかは分かりませんが、本当のことですし。」
「ふふ。ありがとう。」
しばらく抱きしめあってから、腕を緩めると。
少しだけ体を起こして、またあたしの顔を見下ろしてくるあやちゃんに呼ばれて、視線を合わせると。
「大好きです。」
一言そう言って微笑んでくれるあやちゃん。
あぁ、もうダメだよぉ。
「あたしも大好きw」
やっぱり離れたくなよぅ…。
あやちゃん…。
—つづく—
最終更新:2009年05月14日 00:16