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サイドK


やみそうもない雨に、打たれて帰ろうなんて思ってもみない。
なんだか今日はあなたに会えそうな気がしてたから、手ぶらで家に帰るのは淋しかった。
だけどこの雨じゃ、もう無理かな?なんて思いながらも、目の前に一台だけ止まったタクシーには乗り込めなかった。
なんだかまだ帰りたくなかったから。
でも寒いな、、。
夏の日の突然の雷雨に体は冷えきっていた。
近くにあるのはコーヒーショップだけ。
私はそこで暖をとることにした。
突然の雷雨に立ち止まった駅の南口から、
小走りで店にむかった。



コーヒーショップの中はすいていて、奥に座り心地のよさそうなソファがあった。
だけど私の頭の中は
“もしかしたら”
なんて勝手な思考がめぐっていて、少し寒かったけど、入り口付近のカウンターに座った。
こんな雨じゃ、彼女がいるわけもないのに、
外が見えるガラス張りのカウンターを選んだ。
ここからなら駅も見えるし、“もしかしたら”があった時に、見逃さないように。
突然の雷雨で視界は滲んでいたけど、私は出来るかぎり目を凝らした。
あったかいカフェモカが体を芯から暖めてくれる。
少しだけほっとした。
毎日のように彼女のぬくもりを思い出しては、冷えきった体を虚しく思う日々。
もう精神的にも体力的にもいっぱいいっぱいだった私は、こんなカフェモカ一杯でも、優しさやぬくもりをもらったみたいだった。
カウンターに突っ伏して目線だけで外を眺める。
雨やまないなぁ・・・。
なんて思いながら、
どのタイミングで諦めて、
どのタイミングで帰ればいいんだろう。なんて考えていた。
駄目だ、、。
会えること、考えられない、、。
もう私は諦めちゃってるのかな・・。
泣きたい時に泣けなかった涙が、
今更になって溢れてきたのを、カウンターに突っ伏した腕の中に顔をうずめて必死に隠した。



サイドN




細い柱に寄りかかったまま、雨でずぶ濡れの私は、
どっからどうみても捨てられた犬みたいに、うなだれた頭が重かった。
『・・さむっ・・・』
このままここにしゃがみこんでいたら、止むどころか激しさをます雨に打たれ続けて肺炎にでもなりそうだ。
動かない体を起こそうとしても、力が入らなくて立ち上がれない。
『情けね、ぇ、なぁ・・』
言葉にも力はなく、
片手で顔を覆って、止まない雨を降らす空を見上げた。
激しさをました雨は、
彼女の苦しさを気遣えなかった私を罰するみたいだった。
『はぁ〜、、はははっ。』
ため息と一緒に棒読みの笑いがこぼれた。
『なにやってんだろ、、。』
顔を覆っている手のひらに生ぬるい雨が降った。
泣きたい時に泣けなかったくせして、
今更になって流れる涙を、
止める方法がわからなかった。
虚しくも泣き声は、
激しい雨音によって、
かき消された。
顔を覆った手をどかし、
雨に打たれてもなお、
止める方法がわからなかった。
自由になった視界は滲んでいて、車のライトが目にしみた。
自由になった視界は滲んでいて、近くのコーヒーショップの照明が目にしみた。
自由になった視界は滲んでいて、、
滲んでいて、、



はっきりとわからなかったのは、
あぁ、そうだ。
泣いていたからだ。
だけど窓際のカウンターにもたれて座ってるのは、
『・・・ゆ、か、、、』
彼女だ。


サイドK


なんで涙が出てきちゃったんだろ。
もう、無理かも。
なんて頭の中で“諦め”を考えたら、泣きたくないのに涙が出ちゃった。
だけど思い出すのは楽しいことばっかりで、
いっそのことあなたが他の人でも好きになってくれたら嫌いになれるのに。
なんて理不尽な考えまで浮かんだ。
だけどあなたの中の私が、もしいつか遠い思い出になったとしても、
私は思い出になんか出来ないから、
理不尽な考えは浮かんでは消えた。
ただ笑っていてくれればいいよ。
あなたが私を思い出にしても、ただ笑っていてくれればいいよ。
ただ、私が想っているだけで。
楽しい時間や、交わした愛の言葉ばっかり思い出しちゃって、、。
誰にも気付かれないように泣いた。
あなたの綺麗な横顔ばかりがフラッシュバックされる。
重なってしまった心と体。
絡まってしまった心と体。
まだ離れずにいるの。
まだほどけずにいるの。




あなたの中をいつまでも彷徨って、
あの冬の日のさよならが今更胸を苦しめる。
自分でしたことなのにね。
止まない雨に私の心はズタズタだ。

ただ笑ってて?
もう二度と会えない人。
ただ忘れないで?
交わした言葉は偽りじゃなかったこと。
あなたの綺麗な横顔と、あなたの純粋な気持ち。
追い付きたかったんだ、本当はね。
あなたのことを思い出に出来る日がくるならば、
多分それはカサブタが綺麗に剥がれる日だね、、。
雨は激しさを増して窓ガラスを打ち付ける。
私はカウンターに突っ伏して涙を流し、一定のリズムで打ち付けられる雨音を聞いていた。
他の何も聞きたくなかった。
お店の中で流れてる、薄っぺらい愛の歌なんか聞きたくなかった。
カウンターに突っ伏して雨音を聞く。
ガラスを打ち破りそうなバシッバシッ。
私を打ち崩しそうなバシャッバシャ。
ガラスを打ち破りそうなバシッバシッ。
私を打ち砕きそうなバシャッバシャ。
ガラスを打ち破りそうなバンバン、、。
ガラスを打ち砕きそうなバンバン、、。


———えっ!?バンバン!?
明らかな雨音の違いに気付けないほど馬鹿じゃないよ、ゆかは。
突っ伏していた体を恐る恐る起こす。

『う、そ、だ、、、。』
私を突き破るバンバン。
私を打ち抜くバンバン。
窓ガラスが割れちゃうよ、、。
窓ガラスが割れちゃうよ、のっち、、。







最終更新:2009年05月14日 00:18