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他の二人が撮影をしている間、私はひとり控室で時間をつぶしていた。
今日はこれで仕事は終わりらしい。
突然出来た久々の時間。
どうしよう…買い物にでも行こうか。

♪♪♪〜

携帯の着信音が鳴る。
この音は、彼女の携帯だ。

私の胸は高鳴る。
そして私は、携帯を手にとった。


まじで?
じゃあ19時に
家に来て★


友達からのメール。
私は何か嫌な感情に支配されていくのを感じた。
じわりじわり、だけどそれは確実に私の中を広がっていく。
私は続けて送信メールを見る。


今日仕事、
夕方で終わるって!
だから誕生日会行けるよ!


そうか…
彼女は、友達のパーティーに行くんだ。
状況を理解した私は今、完全に何かに支配された。


「今日ゆか、ハンバーグ作る。」

撮影が終わるなり、私はすぐに彼女を捕まえる。

「あ、何かしたいことあった…?無理ならいいんよ。久々だもんね、時間あるの…。」

私は知ってる。
彼女は、絶対にNoとは言わない。

『食べたい!食べたいよ!ゆかちゃんのハンバーグ!』

ほら、彼女はこんなにも嬉しそう。

控室に戻るため角を曲がった瞬間、あ〜ちゃんの声がして、私は足を止めた。


『いや、のっちね、ゆかちゃんのハンバーグ、食べたいの。』

彼女のこの言葉に、私は黒い笑みを浮かべる。
彼女は、絶対に私を優先する。

でも、足りない。
まだまだ、足りないよ。


スタジオの廊下、車の中、スーパー。
私は何度も彼女が携帯を触るのを阻止した。

…知ってるよ。
まだ、断りのメール、入れてないもんね。


買い物を終え、たくさん荷物を抱えながら家の前に辿り着く。

「ごめん、ゆか手ふさがって鍵出しにくい。カバン持っててあげるけぇ、鍵開けて。」
『はいよ。』

私は彼女のカバンを持ち、家の中に入った。
明らかにソワソワとカバンに近づく彼女。
…知ってるよ。
携帯、取りたいね。

「…ゆっくり、してなよ。」

私の視線に、彼女はビクッとしソファに戻っていく。

「クスッ。」

私は口元がニヤけるのを抑えられずにいた。


ソファに戻った彼女は、どうやら本当に眠ってしまったようだ。

♪♪♪〜

その時、彼女の携帯が鳴った。
振り返り彼女を見る。
全く起きる気配はない。


彩乃ちゃんまだ仕事ー?
先始めとくから
また連絡入れてね!


クスッ…

みんなの彩乃ちゃんは、今、ゆかだけの彩乃ちゃんになってます。
笑いが止まらない。

私はそのまま、メールを消去する。
そしてアドレス帳を一件一件チェックし、私の知っているスタッフや家族以外、すべて着信、メールともに拒否設定をした。
携帯の決定音が鳴る度、拒否数が増える度、私の心はどんどん満たされていく。

『んん…。』

彼女が寝返りをうったと同時に、私はキッチンに戻った。


彼女は目を覚ますと、のそりのそりとこちらにやってくる。
携帯を見るなり、彼女は浮かない顔。
だって、約束すっぽかしても、友達は連絡くれないもんね。
友達なんか、そんなもんなんよ。
ゆかだけ、見てればいいんよ。


「…でーきたっ!」

彼女は、私を抱きしめる。
愛しくて仕方ないって顔して。

「ゆかのこと、好き?」
『うん、好きだよ。』
「ゆかは、嫌い、だよ。」
『えっ…。』
「だから、ゆかはのっちのこと、嫌い。」

だって、友達と約束、したもんね。
せっかくの時間、私と離れようとしたもんね。

「…嘘だよ。」

彼女は、突っ立ったまま動かない。

「食べようよ。いただきます。」

これで、彼女は今夜も私のことで、頭がいっぱい。
もうきっと、パーティーのことなんて忘れてる。

ゆかは、悪くない。
用があるならいいよ、ってちゃんと言ったもん。

「クスッ…」

ゆかは、悪くない…
悪くないの…。


私たちの奇妙な夕食は、まだ始まったばかり。

  • かしゆかの場合 END-







最終更新:2009年05月14日 00:37