(N)
ゆかちゃんに気持ちを伝えてからは事あるごとに2人で会った
仕事でいくら疲れたとしてもゆかちゃんといると不思議なものでスッと昇華されてしまう
肌を重ねるたびに想いも強く、確かなものになっていくのがわかったし
2人の時間が増えるにつれて愛しいと言う感情が爆発的に増していくのもわかった
最近は年末の忙しさに目を回す日々が続いていて
こんなに忙しいのは今まではなかったからすごくありがたいし、嬉しい
でもその反面、反動?って言うのこれ…なかなか会えない
仕事では毎日会ってるけどそうじゃなくて
2人の時間が全くと言っていいほど取れないから
…正直言って辛い
ゆかちゃんの温もりが欲しいと嘆いてる心と体を
自分ではどうすることもできずに忙しく毎日がすぎた
そんな状況の中で困ってるのは着替えの時で
3人とも女だから、当たり前に同じ場所で着替えをする
今までもずっとそうだったし、これからもきっとそのままで
大変困っております…
目の前でなんの躊躇もなく服を脱ぐゆかちゃんに
今までは本当全然気にならなかった。なんとも感じなかったのに
こんな状況のせいか、ダメになってしまった
のっちが意識しずきなんかな。ゆかちゃんはいたって普通だ
今日も白い腕に気が散る
細い腰に気が散る
綺麗な足に…ってアホか
そんな事ばっか考えてるみたいじゃん
だから最近はあまり視界に入れないように必死になっている
「…でね、ってのっち。聞いてる?」
「へっ?」
突然あ〜ちゃんに話しを振られてあからさまに驚いてしまった
「へっ?じゃないから、もう。さっきからずっと聞いとらんかったでしょ」
「いやいやいや聞いてた聞いてた」
「嘘言いんさい。なんか最近のっちよくボケ〜っとしよるね」
「そ、そんなことないと思うけど…」
「いやあるよ。ね、ゆかちゃん?」
振られたゆかちゃんはスカートをはきながら
「のっちが変なんは昔からじゃん」
とさらっと、多分2人にとってはもっともらしい答えを出した
それもそうか!
とあ〜ちゃんはそれ以上つっこんでこなかった
のっちは一体どんなイメージなんだか、と複雑な気持ちになったけど
とりあえずこの場は救われた。よかった
ボケっとしてる理由、絶対バレたらダメだと思う
なんてゆうか、恋人としては普通だと思うけど。
仲間としては…ダメだと思うから
邪念でしかないよこんな気持ち。
そうは言ってもやっぱり気になっちゃうから
やっぱりボケっとして気にならないフリするしかないんよねぇ…
2人の時間が作れないでいるから、それを埋めるように毎日電話をした
でもそれでも声だけで…触れられない
毎日会ってるはずなのにもどかしくて、逆にもっと恋しくなった
だからあんなことでも動揺しちゃうのかな
ゆかちゃんが足りてないのは明らかだ
『あ〜ちゃんも言っとったけど、最近本当よくボ〜っとしとるね。どうしたん?』
…ゆかちゃんも思ってたんだ
「えっ!いや、ほんと別になんもないよ」
『えー』
「…え〜」
『悩みとか…?』
「…ないけど」
あなたの着替えシーンに戸惑ってるなんて死んでも言えません
『…』
「ゆかちゃん?」
『…じゃあいいけど』
あら、なんか怒ってる?
「あの…怒ってる?」
『全然』
「怒ってんじゃん」
『怒ってない』
「…ごめん」
『…なんで謝るんよ』
「だって…」
『…』
「…」
痛い沈黙
電話越しから伝わるのは機械の音のない音だけで
耳がキリキリと痛む
でも言えんよやっぱ
恥ずかしいよ
でも言えばこの空気から逃げれるの?
でもやっぱ恥ずかしい。だってバカみたいじゃん
オロオロと考えているとゆかちゃんがそれを切ってくれた
『…ごめんなさい。なんか攻めるみたいになっちゃった…ごめん』
謝るのはこっちなんよ!
変なこと考えてごめんなさい
「ん〜ん。のっちもなんか…ごめん」
『のっち』
「ん?」
『…好き』
「へへっ。のっちも好きぃ」
『ねぇ明日は…、やっぱいいや』
「え〜なんよ。気になるじゃん」
『ふふっ気にせんで、忘れて』
「え〜無理。このままじゃ気になって寝れん。明日、何?」
『明日もお仕事頑張ろうね〜って』
「ふはっ絶対嘘じゃん。なんなんよ〜言ってよ〜ねーねーねーねー、」
『…明日はキスしようねって…』
「ねーね、!」
『おやすみなさい!』
素早く電話を切られて思考もプッツリと切られた
切られたじゃないか…張り付けられた
参ったな、寝れそうにないや
明日は触れられるのかな
遠足前夜の小学生みたいに気持ちがふわふわする
…わくわくしすぎじゃろ
あぁでも…はぁ、ゆかちゃん
「お疲れ様でした」
最後の収録を終えて、今日の仕事が終わった
ゆかちゃんは昨日のことなんて覚えてないのか、終始いたって普通だった
キスしようねって言ったのそっちのくせに
ってちょっと憎く思ったけど、当たり前と言ったら当たり前よね
仕事場だもんね
今日もできるだけゆかちゃんを視界に入れないように着替える
さっさと着替えちゃお
結局なんもできんかったけど、仕方のないことだから…
電話で声が聞けるだけでもよしとしよう…
ゆかちゃんとあ〜ちゃんがなんやかんやと話しながら着替えてく中で、
一人そんな事を考えながら着替えに没頭する
なんか…みじめじゃ
悲しい気持ちをため息で逃がしてる最中、
とんでもない言葉が耳を貫いた
「あれ?ゆかちゃんちょっと胸大きくなった?」
…なっ何を言い出すんですかあ〜ちゃん!
気にしないふりしながら全力で耳を傾ける
「えっホンマ?全然変わらんと思うけど」
「いや、心なしか…デカくなってね?」
「や、あ〜ちゃんにはどうしたって敵わんよ〜」
キャッキャとはしゃぐ2人とは対象的に、黙々と着替えてく。けど…
胸って…胸って…
「え〜触るん?」
さっ!触る!?
思わず盗み見るとあ〜ちゃんの手が…手が!
わああー!これはどうしたらええん!し…刺激が…
「あーそうでも…なかったかも」
「ね?てか失礼じゃねー」
「ふふふ。ごめーんねっ。…ん?」
ごめーんねっ。じゃないよあ〜ちゃん
のっちもまともに触ったことないのに…
あぁ、でも女子って結構胸とか触り合いっこするしね
それにしても…いい絵だったな
ちょっと不謹慎なことを考えてると、あ〜ちゃんの携帯が鳴る音が響いた
「もしもし、うん大丈夫だよ〜」
顔をあげると楽屋を出てくあ〜ちゃんの背中をが見えた
やばい2人きりだ
よりいっそう神経をゆかちゃんから逸らす事に集中する
「ほらまたボケっとしてる」
顔をあげると目の前に、着替え途中で腕に服を通して放置したままのゆかちゃんがいた
「わっ!」
「ビックリしすぎ」
「いっいきなり前におるから…」
「別に普通じゃんそんなの。やっぱおかしいよのっち。さっきからずっとボ〜〜〜っとしよる」
「そんなことないけえ!と、とりあえず…、…」
「何?」
「服着て、ください…」
なんかもうゆかちゃんの方なんて見れなくて、そっぽを向きながらそう促すと
少しゆかちゃんの時が止まった気がした
「顔…赤いよ?ゆかのせい?」
「のっちいつもそれでボ〜っとしてんの?」
「違う!違いますから!」
「ドキドキしてるとか?」
「してないしてない!」
「…ふふ」
「なんよぉ」
「耳まで真っ赤になってる」
「も、いいから早く着て…」
「はーい」
笑いを含んだ声色でそう言いながら、腕で放置してあった服に頭も通していく
頭をすぽっと出したゆかちゃんはニヤニヤと笑って見てくる
まいったな…そんな嬉しそうにしないでよ
ゆっくり近づいてくるゆかちゃんの顔は、依然にやけたままだ
「のっちってさぁ、いつもそんな事ばっか考えてたの?」
「ち!ちっが!」
「嘘はダメだよ?」
「…あ〜ちゃん帰ってくるけえ」
「ね、昨日の約束…覚えてる?」
小さくうなずくと腕を少し引っ張られる
「…して?」
「いっいま!?」
「うん。はい…」
目をつむって受け入れ体勢のゆかちゃん
つい気が緩むけど…いやいやいや、さすがにダメでしょ
「いっ今はダメ…できんよ」
「ちょっとでいいから…」
「ダメ!絶対ダメ!」
「じゃあ今日のっちの家行く…」
「!」
「…ダメ?」
ぶんぶんと顔を横に降る
「…来てください」
そう言うと嬉しそうに笑って手をとってきた
久しぶりに感じる体温に、やっぱり全然足りてないってことを再認識させられる
でもここは楽屋だから
いつまでもこうしている訳にはいかないから
1度ぎゅっと強く握ってパっと離す
ゆかちゃんにも伝わったみたいで、それからは触れてはこなかった
「ちょっと用事できたけぇ、先帰るねっ。お疲れ様、また明日」
電話を終えたあ〜ちゃんは
楽屋に入って来るや否やそう言って行ってしまった
「ゆかちゃん、このまま来る?」
「うん。このまま行く」
今日は家から比較的近い場所での収録だったから一緒に歩いて帰る
すぐ隣にある手
握ろうと思えば簡単にできるけど、それは一般的なカップルだったらの話しで
のっちたちにそんな常識は当てはまらない
家までの道のり、持て余した右手をポケットにつっこんだ
「はいどうぞ」
「おじゃましまーす」
玄関のドアを開けて招き入れて閉めた瞬間
後ろから腰に手が回されてぎゅっと抱きしめられた
突然だったけど驚きはしなかった
驚くどころかやっとできた、と思った
触れ合えることが嬉しくてしょうがない
背中に感じる熱が愛しい
腰に回されてる細い腕に手をやってゆっくりとさする
「久しぶりだね。元気だった?」
元気だった?なんてほんの冗談で、
毎日顔は見てるんだからゆかちゃんの様子は毎日、手にとるようにわかっていた
ゆかちゃんはいつも元気だった
「…元気じゃなかった」
弱々しい声が聞こえて少し戸惑う
元気だったよーって、返してくると思ったから
「背中見るとね、こうしたくなったの…いつも」
よりいっそうきつくなった腕をといてもらって向き合う
少し俯いてるゆかちゃんの目を隠している前髪をそっと揺らす
重たく揺れたそれにゆかちゃんが目の前にいることを再確認してから、抱きしめた
場所なんてどこでもよかった
ただ早く、触れたかった
それは先に触れてきたゆかちゃんにとっても明らかなことで
背中に回された両手の力ですぐわかった
けど、体は離される
「とりあえず、靴ぬごっか?」
やけに冷静な判断で、その選択肢をかすめもしなかった自分が少し恥ずかしい
目が合うとなんか照れ臭くて、笑ってしまう
「ほんと久しぶりじゃー」
繋いだ手をぶんぶん降りなが
らソファーに歩み寄るゆかちゃんは子供みたいで
さっきまで感じてた空気より濃度が薄くなった気がした
ソファーに腰をかけて少しお互い側に体を向ける
「はい。のっちは元気でしたか?」
「元気じゃなかったです」
「それはなんでですか?」
「なんでだと思う?」
「…寂しかったから?」
「なんで?」
「会えなかった、から…」
「誰と?」
「…のっちと」
「ふふっ正解」
いつの間にか逆転していた立場がおかしくて笑ってしまった
「もう。ゆかが聞いてたのに」
不満そうに膨らませてる頬をつんつんつつくと
つついてる指をきゅっと握りしめてきたゆかちゃんは、さっきの濃度をまとっていて…
視線が交わる
熱っぽいそれにドクンッと振動が一つ体に響く
何も言わず閉じられた瞳
その姿が妙に健気で、はやる気持ちを押さえ付け1度、
まぶたにキスを落とす
「…そこじゃない」
少し瞳を潤ませて甘えた声を出すから…いけないんだよ?
「どこがいいん?」
「のっちなんか今日いじわるだよ…」
「そんなことないよ。で、どこ?」
「ほらぁ」
「ふふっ。ここ?」
唇を重ねると、やっと感じれた久しぶりの感触に体が震えた
ゆかちゃんの熱に、体が熱くなった
会えなかった時間を埋めてくように何度も何度もかわす
こんなに好きなんだ
だからこんなに求めるんだ
当たり前のことだけど何度も何度も気付きなおす
でも人の気持ちに当たり前なんてなくて
感情なんてものは当てにできないことも
いつか思い知らされるんだ
最終更新:2009年05月14日 00:39