静かな部屋に、外の灯りがカーテンの隙間から差し込む。
カリカリと軽やかなペンの音と、規則正しい柔らかな寝息。
ゆかの部屋なのに、ふわふわした夢みたいな空間だ。
意識が持っていかれそうになる。
「あっ」
カクンと頭が落ちた拍子に、ペンの芯が折れた。
寝たらダメ、課題終わらせんとね。
「……ん」
規則正しく鳴っていた呼吸音が止まると同時に、テーブルの向こうから頭が現れる。
「のっち…起こした?」
まだ開ききっていない瞳がなくなるくらい、のっちは微笑んで首を振った。
のっちはそのまま、のそのそと這ってゆかの横に落ち着く。
「ごめんね、寝てて」
言いながら課題を覗き込むのっち。
目の前のまあるい髪から、ゆかのシャンプーのにおい。
普段のスパイシーなのっちとは違って、柔らかいにおい。
「いつもこんな時間まで課題やるん?」
「うん、やる。」
えー!っと大げさなリアクションが返ってくる。
もともと大きな目が更に大きく丸くなって、落ちてしまいそう。
「のっちはゲームやっとるよぉ」
「ないわ…」
あっひゃっひゃと、のっちの特徴的な笑い方。
笑いの中で、さりげなく下から腕を取ってきた。
こうゆうとこ、のっちはカッコよくない。
もっとドキドキさせてくれんと、飽きちゃうかも。
「…もっとガッと腕取れんの?」
潮笑まじりに、改善を持ちかけてみるけど。
のっちはすぐに眉を八にさせながら、頬を膨らましちゃう。
「だって…引かれるの嫌だし…さ」
いやぁ、控え目すぎるじゃろ…。
これで引くなら、ゆかはとっくにのっちの前から姿を消してる。
のっちはしょんぼりしたまんま、これじゃつまらん。
「…のっちのこと好きだから引かないヨッ☆」
「え?まじで!まじで!」
のっちはいじり甲斐があり…転がし甲斐がある。
なのにのっちったら、両手を前に突き出してわーっと騒いでいる。
「かっしーはのっちが、す・き…」
静かになったかと思うと、確かめるように呟くのっち。
のっち……面白すぎ。
チョロんぼとフーくんに続く、ペットみたいな感じ?
う~ん、よく…わかにゃい!
「ねえねえ、かっしー」
不意に顔を覗き込まれる。
愛嬌のある整った顔立ち、近くで見ると見惚れそうになる。
「…のっちもかっしーが好きっ!」
大きな目が、ゆかだけを映して光る三日月になる。
綺麗な…すごく純粋な目。
のっちの言葉を最後に、緩やかな静寂が訪れた。
予想外だったのっちの言動に、頭の中が真っ白。
「コレりょー想いじゃん!」
ひょいと立ち上がって、何故か仁王立ちでピースするのっち。
…転がしてるのはゆかなのに。
まっすぐな目で見つめられて
心の自由が利かないの
切られた心の回路を修復するのには、時間がかかる。
ゆかはピースするのっちを、見上げる事しかできない。
「一緒に課題やろーよ」
のっちが横に座ったかと思うと、今度はしっかりと腕を抱えるように取った。
その弾みで、切れていた心の回路が繋がれる。
頭の中に色が戻っていくのが、自分でも解る。
とりあえず、このニヤけるえんどう豆を懲らしめなきゃいけん。
「ばか。」
「ええ!なんでぇ!」
また無駄に大げさなリアクション。
しながらも、腕は離さないのっち。
恋をするって言うのとはちょっと
違うけどわりとドキドキした
そう。
これは恋とかじゃないんよ。
のっちが好きなんじゃないんよ、ゆかは。
きっとこうゆうこと…
えっと…あんたの目が好きだ!
END
最終更新:2008年10月10日 17:37