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サイドN


『・・ゆ、か、、?』
涙で滲んだ目じゃうまく見えないけど、あきらかに彼女だ。
疲れた重い体を起こして彼女の元にいかなくちゃ。
やっと見つけた彼女を早く捕まえなくちゃ。
気持ちばかりが先行して寒さで痺れた足が空回る。
擦れた手のひらが痛いだなんて、擦れた右頬が痛いだなんて言ってられないよ。
あなたの面影に彷徨っていた毎日が、今、現実になるならば、
早くあなたのそばに。
ただ虚しく胸に響くのは、あの冬の日のさよならだけ。
だけど、交わした言葉が偽りじゃなかったことが救いで、
それもどれもこれも全部ひっくるめて、
ただあなたが愛しい。
疲れた重い体で
あなたが待つ、
コーヒーショップまで全力で走った。
ずぶ濡れの体で中には入れないけど、あなたに触れたくて仕方ないよ。
もう一度笑って?
早く気付いて、、。
打ちつける雨と一緒に
彼女の座るカウンターの前の窓ガラスを、打ち砕くんじゃないかってくらいに叩いた。
バンバン、、
バンバン、、、。
激しさをます雨は
まるで私の心情のようで、
打ちつける雨は
まるであなたの涙のようだ。




サイドK




ガラス越し、目の前に見えたのは、
ずぶ濡れで立っているのっちの姿。
地球上で一番愛しいのっちの姿。
激しく打ちつける雨のせいで表情までは見えないけど、のっちであることは間違いない。
すぐに席をたった。
大袈裟な音を出して椅子が転がったけど、私はそのまま店を出た。
直してる余裕なんかないから。
あるわけないじゃない、、。


外はどしゃ降りの雨が降り続けていて、
頭から靴までずぶ濡れの彼女を目の前にしたら足がすくんだ。
『・・の、、ち、、、』
やっと口を割って出たのは彼女の名前を呼ぶ弱々しい声。
『ど、うし、て・・・』
今更愚問を投げ掛けているのにも気付いたけど。
私の頭上にも止まない雨が降り続ける。
いとも簡単にずぶ濡れになった私。
あれだけ濡れるのを拒んでいたのに。
雨で濡れた彼女だけど、
雨と涙の違いくらいはわかった。
だけど表情は優しくて、もうずっとそばであやしてくれる大人みたいに、大きな目を細めている。
『のっちぃ、、ご、めんね・・・』
言葉にならなかったのは、泣いていたから。
止まない雨に身を任せて、涙を止められなかった。




彼女との間にできた距離が離れていた時間を表すようで悲しかった。
私たちはお互いに距離をつめなかったから。
少し離れたところで、のっちが頭をガシガシした。
癖がかわってなくて、少しほっとして、少し笑えた。
のっちは頭から手を下ろして、少し距離をつめた。
出会ってからまだ一言も彼女の声を聞いてない。
のっち?何を思ってるの?
これからどうしたいの?
また出会えたの?
それとも、、?
もう、、終わり?



冷静な自分の思考回路に涙もとまった。
相変わらず雨はやまないけど、、。


まるでスローモーションみたいに。
のっちの口が動いた。
まるでスローモーションみたいに。のっちがつぶやいた。





『・・・迎えに、、きたよ。』力なく小さく、弱々しく笑ってあなたは言った。
涙がまた流れたのは言うまでもない当然のこと。



たった一言で、あの夜の例え話を思い出した。
そしてそれをのっちは現実にした。
“出来ることなら迎えにきてよ”なんて。


嘘みたいな現実。
馬鹿みたいな現状。
『ど、うして、迎えになんかくるんよ、、。』
そんなことされたら忘れられないじゃない。
嬉しい気持ちとは裏腹に、また先のない不安が私をおそう。
もう次には止められなくなる。
なら、終わりにするなら今しかない、、。


『・・・迎えにきてって言ったじゃん。』
無愛想なしゃべり方もかわってない。
『ゆか、のっちの前からいなくなったんだよ、、』
『知ってる。』
『じゃあ何で、、、、
『迎えにきてって言った。』
『ゆか、のっちのこと忘れたかった、、』
『知ってる。』
『じゃあ何で!!
『迎えにきてって言った!!』
強くなったのっちの言葉がやたらと頭と胸に響いた。
終わりになんて、
最初から、
するつもりなんて、なかった。



『忘れられるわけなかった、、、』
私は泣いた。
我慢していた気持ちが涙と一緒にあふれた。
それはのっちも一緒だったみたい。
『忘れられたら困る。』
『忘れたくなかった、、』
『知ってる。』
『離れたくなかった、、』
『知ってる。』
『一緒にいたかった、、』
『知ってるって!!』


一気に距離をつめたのっちの腕に包まれた。
雨が降っていても消えない彼女のぬくもりが、背中から全身にかけて巡った。
『・・だから、、』
抱き締めた腕をほどいて見つめ合う。
のっちは優しい顔をして、だけど揺るがない瞳で、
『迎えにきたよ。』
遅くなってごめんって付け足しながら、濡れた私の髪をなでた。
もうそれだけで彼女の必要性を感じるには十分だった。
『もう一度そばにいて?笑って?』
甘い言葉をクールにサラッと言うところもかわってない。
『不安?』
真剣な眼差し。
『のっちはね?』
ひとつため息。
『ゆかがいないことが一番の不安です。この先もそばにいられないなら、ずっと不安だし、一緒にいられるなら不安なんかない。』
かわったのは真剣な意志。これからのための意志。

『ちゃんと考えてく。』
『ちゃんと守るよ。』
『ずっとそばで、ずっとそのままでいて?』
一人で考えててくれたんだ、、。
やっぱりゆかの不安に気付いてた。
優しい顔に戻った彼女は、なだめるように言った。


『迎えに、きたよ。』
彼女の胸に飛び込んで泣いた。
声をあげて泣いた。
抱き締められた感触が懐かしくて、愛しくて、
不安も全部取りのぞいてくれるみたいなのっちのぬくもりから、
離れられるすべなんてないよね。
はじめからわかってたんだ。







最終更新:2009年05月14日 01:42