サイドK
ずっと欲しかった人。
ずっと触れて欲しかった人の腕に抱き締められて、
雨の冷たさまで忘れるようだった。
ゆかのずっと欲しかった人。
髪の毛も、
着ているTシャツも、
抱き締める腕も、
全身全てがずぶ濡れで、
『のっち、、帰ろう?風邪、、ひいちゃう・・』
抱き締められた腕の中で少しだけ頭をあげた。
だけどのっちの腕はゆるまなくて、
『・・ん?のっち?』
力が入ったのがわかる。
ぬくもりが伝わるもん。
『やっと見つけたんです。』
敬語まじりな話し方、かわってない。
『だから、もう少し、、このまま。』
多分この人の優しさは永遠になくならない。
『あ、でも、、
『ん?』
『風邪ひいたら困る、ゆかが。』
ほら。
果てしない優しさ。
腕をほどいてずぶ濡れの髪をかきあげるその仕草も、
泣きそうに笑う八の字眉の顔も、
もう二度となくさないよう。
心はほどかないまま、
のっちの手をとった。
『一緒に帰ろう?ゆかんち、おいで?』
不意に手をひかれ、後ろからもう一度抱き締められた。
『ずっとこうしたかった。もう離れないで。』
肩に生ぬるいのっちの涙が伝った。
気付いたのは、
あ、雨がやんだからだ。
夏の日の突然の雷雨は、
時間でいったら
ものすごくあっとゆう間だったのに、
そんな中で、
その時間さえも惜しんで、
ずぶ濡れになったのっちが
たまらなく愛しかった。
私たちに優しさと、
ぬくもりを与えて、
夏の日の突然の雷雨は、
まるで嘘だったかのように、
静かに降り止んでは、
逃げていった月を
取り戻してた。
サイドN
嘘みたいに止んだ雨。
ずぶ濡れの自分を見ておかしくなった。
やっと見つけた彼女に手をひかれ、
通い慣れない道を歩いて初めて見る部屋に入った。
『あがって。汚いけど・・』
ぽつりつぶやく彼女。
『あ、お風呂、シャワー浴びんと・・』
あわててるの?
『別にいいよ。タオル貸してくれれば。』
『だめっ、だよ、、』
わかってはいたけど、
離れていた時間ってのは、
そう簡単に埋まるものじゃない。
会話が途切れないように、
なんて。
こんなに気を使いながら一緒にいるなんて。
我慢できなかった。
『なんか、、辛いね。』
『えっ・・・』
『いや、なんか、おかしいね?って言えばいいのかな。』
『・・・』
『やっと見つけたんです。
離さないよ?だけど、やっぱ距離は感じる。よ、ね?』
『・・・』
『いや、いんだよ?』
『えっ・・・嫌になったわけじゃ、、
『まさか。そんなもったいない。』
『のっち・・・』
『少しずつさ?埋めていけたらいいよ。時間かけてさ。もう随分かかってることだし。ね?』
『うん・・・』
『だから、遠慮とかしないで。それだけ。』
『うん・・・よしっ!!お風呂はいろ!!一緒に!!』
『ふぇっ!!??』
二人顔を見合わせて、
おもいっきり笑った。
急なお風呂の誘いに笑った。
私から出た変な声に笑った。
うん。
そうやって離れていた時間を埋めていこうね。
最終更新:2009年05月14日 01:47