Side A
彩乃様にお話した翌日。
彩乃様の所へ行く前に旦那様の所へ、お話に行きました。
「もう決めたのかい?」
「はい。」
「そうか。向こうのご両親も喜ばれるだろう。帰るのはいつでも大丈夫とおっしゃっていたが、朝食を食べてから私が連絡しておこう。」
「はい。ありがとうございます。」
「彩乃は…、彩乃にはもう伝えたのかい?」
「昨日の夜にお伝えいたしました。」
「そうか。あの子は反対しなかったかね?」
「…言葉では、そういったことはおっしゃいませんでしたが、ただ寂しくなると言って泣いて下さいました。」
本当は色々言いたかったのかもしれませんけど、私が決めた事ですから、我慢してくださったのかもしれません。
「泣いていたか。今まで、誰かが居なくなって泣いたことは無かったんだがね。あの子が変ったのはきっと、綾香のお陰だよ。ありがとう。」
「いえ!私なんて、そんな何もしておりません。」
「綾香は、居るだけで皆が笑顔になるんだよ?知らなかったかね?」
「…はぃ。」
そのような事、気にしたことありませんでした。
「まぁ、そういうものは、本人は気付かないものだ。うん。西脇家は皆さんそんな感じのようだし、きっと楽しいと思うぞ?」
それは素敵な家族です。
「はい。…あの。」
「ん?」
「本当に、今までありがとうございました。」
「何を言っているんだwまだそれを言うには早いだろう。今日と明日、いやこれからも綾香は大本家の一員だ。いつでも遊びに来なさい。」
「はい!旦那様。」
旦那様に、いつでも来ても言いと言って頂けて嬉しかったです。
軽い足取りで彩乃様の部屋を開けると、そこにはすでに起きている彩乃様のお姿がありまして。
「おはようございます。彩乃様。」
「あやちゃん、お早う。」
「めずらしいですね?起きてられるなんて。」
「ん〜、ちょっとね。一回くらい自分で起きようかと思ってw」
「そうなんですか?」
「そうそうw」
なんだか変です。
「ですが、それだと私の仕事が無くなってしまいます。」
「あれ?そういえばそうじゃね?」
「そうですよ?それに…。」
キスも出来ないです。
「?どうしたん?」
「い、いえっ。何でもありません!」
「そう?」
な、何を考えているんでしょう?私ったら。
Side N
今日は、あやちゃんが来る前に起きることにした。
だって、あやちゃんとキスしちゃったら、手放せなくなりそうだったから。
行かないで。って言ってしまいそうで…。泣きついてしまいそうで嫌だったから。
部屋に入ってきたあやちゃんに「めずらしいですね」って言われて。
まあ、たぶん初めてだけど。
よく分からない理由をつけておいた。
あと、そしたらあやちゃんの仕事がなくなっちゃうって言われて。
うんwそういえばそうだね?
最後に「それに…。」と言って言葉を止めるあやちゃん。
「?どうしたん?」
って聞くと慌てたように返事をして顔を赤くするあやちゃん。
え?もしかして、キスしたかったとか?
…って、あたしじゃないんだからw
今日はこれから明日の準備で、部屋の整理とかしなくちゃいけないらしく、終るまでは部屋に篭るらしい。
「手伝う事とかない?」
「はい。大丈夫です。一人でまとめられる量ですので。お気遣いありがとうございます。」
「あぁ、いいのいいの。そんなの気にせんでも。ただ、一緒に居たいな〜とか思っただけじゃけぇ。」
あ〜、恥ずかしっ。こんなの、ただの我侭じゃん。
「ふふwたぶん、何もすることないと思いますけど、彩乃様がそれでも宜しければ、私も一緒に居て欲しいです。」
「良いの?」
「はい♪」
ニコニコして隣を歩くあやちゃん。
「そういえば、あやちゃんの部屋って行くの初めてだ。」
「そうですねぇ。」
そんな会話をしながら、あやちゃんの部屋に着いて。
先にあやちゃんが中に入って、続いてあたしも中に入れてもらう。
「あったかぁ…。」
思わず漏れた一言。
「え。温かいですか?」
「あ、いや、部屋の雰囲気がね。温かいってこと。」
そうなんだ。ほとんどが柔らかいピンクで覆われているあやちゃんの部屋。
だから、心がほんわかするんだ。
まるで、あやちゃんそのもの。
「そうですか?ありがとうございます。」
「てか、ピンク好きなんだぁ?」
「はい。ピンクって可愛いですから。」
「ふふ、そうじゃね。可愛くてあやちゃんにピッタリじゃ。」
「か、可愛いだなんて、私なんて、そんな…。」
照れて、頬を染めていくあやちゃん。
「ほら、ほっぺがピンクじゃw可愛いw」
「むぅ、もう。やっぱり、私一人でしますから、彩乃様はお部屋に戻っててくださいっ…。」
口を尖らせながら、あたしを部屋から出そうとするあやちゃん。
「ぇえwヤダヤダ!もうからかわんけぇ、許して?」
「…えへへw冗談です。」
チロっと舌を覗かせる仕草がまた可愛くて、ホント敵わんわぁ。
「あの、ホントに手伝う事無い?」
ダンボールに服を入れていくあやちゃんに尋ねる。
「それは、先ほどお伝えしましたよ?彩乃様がそれでも良いとおっしゃったんですから。」
「そうじゃけど…。」
いつもお世話してもらってるけ、今日くらいはあやちゃんの役に立ちたい。
「…では、本棚にあるものを入れて頂いても良いですか?」
「うん!」
どんなことでも良いから、役に立ちたいんよ。
言われたように本を整理していくと、難しそうな本に混じってなんだか見覚えのあるものが。
「あやちゃん、これも持っていくん?」
学校の教科書。
「あ、それは…置いていきます。」
「あやちゃん、自分で勉強してたん?」
「周りの方々に教えていただいたんです。皆さん丁寧に教えてくださって、凄く分かりやすかったです。」
「はぁ〜、あやちゃんは偉いね〜。」
あたしなんて、自分からしようなんて思わんもん。
「いぇ。それに、その教科書、彩乃様が使っていた物を捨てるのが勿体ないからと、学校に行っていない私にメイド長さんがくださった物ですし。」
「え?」
ぺらっと後ろのページを開くと確かにあたしの名前。
「あ、ホントだw」
そりゃ見覚えもあるわ。年も一つ下だから、ちょうど良かったんかもw
「ですから、置いていきます。あまり荷物が多くなっても大変ですし。」
「そうじゃね。」
…とまぁ、こんな感じで荷物整理は進んで、お昼ごろには一通り詰め終わった。
「ふぅ、彩乃様のお陰で思ったより速く終りました。ありがとうございました。」
「いつもお世話してもらってるんけぇ、これくらいはせんと。」
「いえ、本当に助かりました。」
「なら、良かったw」
「これで、皆さんにゆっくり挨拶することが出来ます。」
あ、そっか。そうだね。
あやちゃん皆から可愛がられてるから、皆もきっと寂しいんだろうな。
部屋に戻ったあたしは、ベットに身を預けてぼーっとしていた。
ふとおでこに置いた左手にあるまげゴムが目に留まる。
あやちゃんが、学校に行ってても寂しくないようにって着けてくれたんだけど。
それは、家に帰ったらあやちゃんが居たから。
だから寂しくなかったのに。
明日からこれじゃあ足りないよ…。
—つづく—
最終更新:2009年05月14日 02:01