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『綾香…大丈夫?お母さん、付いていかなくても…』
「もう子供じゃないけぇ、大丈夫よ!」


ドタバタと出ていく準備をするなか、母親が心配そうに私に声をかける。
今日から私は下宿先で一人暮らし。
荷物は先に送ってある。
あとは私がそこに向かうだけだった。


『お姉ちゃん…』
「ちゃあぽん、寂しくなったらお姉ちゃんの携帯に電話しんさい…ね?」


机の上に置いてある新しく買った携帯。
手に取って時間を確認する。


「もうそろそろじゃ…」


最後に鏡で自分の姿をチェックする。
履いていく靴を決めていたら、肩を後ろから叩かれた。


『綾香、これ少ないけど…交通費に使いんさい。』
「別にいいのに…」
『お母さん、これぐらいしかしてやれんけぇ。』
「ありがと。」
『あ…あと、有香ちゃんと彩乃ちゃんにお礼言っときんさい!わざわざ送ってくれるなんて…』
「わかっとるよー」


そう。
ゆかちゃんとのっちが二人で送別会を計画してくれたらしい。
しかも二人は私を家まで迎えに来てくれるみたいで。


「じゃ…行ってきます」





約束した時間の10分前。
待ち合わせ場所はエレベーターを下りてすぐ。
マンション下のちょっとした公園。
一歩足を踏み入れれば、二人がブランコに乗っているのが見えた。
のっちが私に気づく。


「あ〜ちゃんだ!ゆかちゃん、あ〜ちゃん来た!!」


ゆかちゃん近くにいるんだから、そんな大声出さなくても良いのに。


「あ〜ちゃーんっ!!」


ゆかちゃんも私を見てのっちに負けないぐらいの大声で叫ぶ。
二人ともブランコから飛び降りて、私の方に向かって走ってきた。


「二人とも声大き過ぎ!近所迷惑になるじゃろー」
「だってあ〜ちゃん、約束した時間より登場が早いんじゃもん」
「あ〜ちゃんはのっちと違って遅刻魔じゃないけぇ」
「あー、ゆかちゃん言ったなー!ゆかちゃんだって大声出したじゃん!!」
「ゆかはあ〜ちゃんに対する愛情の大きさを声で表しただけー」
「あ〜ちゃん、こんなこと言ってるよ」
「確かに…。ゆかちゃんの声には愛を感じたわ」
「ちょっと…あ〜ちゃんまで酷いよぉ…」
「ふふっ冗談じゃ、冗談!」


一通りのっち弄りをして三人で笑う。
三人で会うなんて久しぶりなのに、相変わらずの意気投合ぶり。
二人に出会えて、ほんとに良かったって改めて思っていたら。



「じゃあ、今から送別会の場所に向かいましょうか!」


そう言ってのっちは急に私の左手を取る。


「え、ちょっとのっち!?」


驚いていると、今度は右手をゆかちゃんに握られる。


「ゆかちゃんも…?」
「三人は仲良しー、じゃろ?」


そんな笑顔で小首を傾げられたら、私は何も言えない。
二人に連れられるまま見慣れた道を行く。
向かった先はのっちの家でも、ゆかちゃんの家でもない。
私たち三人が通った、高校だった。







最終更新:2009年05月14日 02:04