「送別会の場所って…ここ?」
あ〜ちゃんが校門の前で立ち止まる。
「うん。水野先生に頼んでね、特別に教室一つ貸してもらってるんよ。」
「嘘じゃろ…?」
「ほんまよー!ほら、水野先生来たっ」
ゆかちゃんが指差す方からジャージ姿の水野先生がやって来る。
こっちが手を振ると、先生も振りかえしてくれる。
「あ〜ちゃん、合格おめでとう。担任の中田先生から聞いたよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「送別会するんでしょ?皆が1年生の時の教室、使っていいから。これ、鍵ね。」
水野先生はのっちに鍵を渡してくれた。
お礼を言うと春休みだから別に良いわよと言って、部活をしている子たちの所へ先生は行ってしまった。
取り合えず自分たちが使いなれた教室に行くと、懐かしい雰囲気に飲み込まれる。
三つの机を向かい合わせにして座れば、すぐに思い出話に花が咲く。
その中で思うのは。
のっちたちの関係が良い意味で変わっていないってこと。
そりゃ、のっちとあ〜ちゃんは恋人同士になったっていう変化はあるけど。
もっと元にあるものは変わっていない。
のっちの言うことにあ〜ちゃんがどや顔で突っ込んで、
あ〜ちゃんの言うことにゆかちゃんが便乗して暴走して、
ゆかちゃんの言うことにのっちが噛み噛みながらも相槌をうつ。
あ〜ちゃんがいなくなったら。
このやり取りはどうなっちゃうんだろう。
そう思うと悲しくなって、ゆかちゃんとの約束を破ってしまいそうになる。
約束は守らなきゃ。
今はこの楽しくて、幸せな時の流れに身を任せるだけでいい。
用意してきたケーキを三人で分ける。
いつの間にか中田先生で笑ったエピソード大会になっていた。
「ぎゃははははっ!ぜ、絶対、変っ!」
「『かしゆかはー』とか急にあだ名で呼びよるし!」
「さすがヤスタカ!レベル高しじゃ!!」
中田先生は昔から三人の中でなにかとネタにされていた。
常にニヤニヤ。
先生という概念に捕われない行動。
全部のっちたちのツボで、ある意味名物先生でもあった。
あ〜ちゃんなんか下の名前で呼んでるし。
どんなことを話題にしても、のっちたちの笑いが途絶えることはなかった。
話も尽きそうにない。
だったらさ。
いくら覚悟を決めても、やっぱり離れるのは辛いんだし。
このままずっと三人で話してよーよ。
のっちは本気でそう思っていた。
でも、もちろん現実はそんなに甘くなくて。
部活をしていた子たちに、下校を促す放送がかかった。
「もうこんな時間なんじゃね…」
あ〜ちゃんの一言で、別れの時間が近いことに気づく。
ゆかちゃんに目配せして、話に区切りをつけた。
教室の机を元に戻して、鍵をかける。
再び水野先生に会ってお礼を言い、鍵を返す。
三人で校門を出た頃には、空はオレンジ色になっていた。
あ〜ちゃんにあげたお守りみたいな色だなぁなんて、一人胸が一杯になっていた。
最終更新:2009年05月14日 02:05