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学校を出てから、急に皆の口数が減っていた。
さっきまであんなに騒いでいたのが嘘みたい。
誰も話し出さない。
ただ黙って、駅へと向かっていた。
別に嫌な感じではない。
むしろ居心地が良かった。
ゆか、思うんだけど。
黙っていても気まずくならないってさ。
お互いの居場所が、何も話さなくてもそこにあるってことなのかなって。
きっとゆかたち三人は離れ離れになったって、
変わらない居場所をお互いに持ち続けるんだろうけど。
ねぇ、あ〜ちゃん。
少しぐらい不安になってもいいよね。





駅に着くと、あ〜ちゃんは路線図を見ながら券売機で切符を買った。
その隣でのっちとゆかは入場券と書かれたシールの貼ってあるボタンを押した。


ホームにあるベンチに三人で座る。
まだ電車は来ていない。


「あ〜ちゃん、こっからどんだけ行くんだっけ」


のっちはあ〜ちゃんの方を見ず、ただ真っ直ぐ前を見て聞く。


「3駅ぐらい行ったら新幹線に乗り換えてー…2時間もかからんぐらいかなぁ」


あ〜ちゃんものっちの方を見ずに答える。


「それってさぁ、近いよね?」


ゆかも前しか見れない。


「近いんじゃない?」


「…すぐ会えるよね?」


「…会えると思う。」


あ〜ちゃんはそう答えると、一人ベンチから立ち上がった。




『電車が到着します。白線の内側にお下がりください。』



静かなホームに放送が響き渡り、警告ベルが鳴る。
ゆっくりと電車が近づいて、そしてゆかたちの目の前で止まる。
ドアが開くと同時に、あ〜ちゃんが振り返る。
振り返ったあ〜ちゃんは、今まで見たことないぐらいの眩しい笑顔だった。


「のっち。ゆかちゃん。今日は本当にありがとう。
あ〜ちゃん、すごく嬉しかった。
今までみたいに学校で会うとか、道端で会うとか、そんなことなくなっちゃうけど…。
でも…離れたってうちらは変わらんと思うけぇ…大丈夫よ。」


そう言うと、あ〜ちゃんは電車に乗り込む。


「のっちも…そう思う。」
「ゆかも…。」


あ〜ちゃんは大きく頷いて、電車に乗ってからもずっと手を振ってくれていた。
でもドアが閉まった途端、ゆかたちに背を向けた。


背を向けた理由なんて、
あまりにも簡単で。
手で顔を覆って、肩を震わせて。
ゆるくパーマのあたった髪が僅かに上下する。
ゆかたちは何度もその姿を見たことがあった。
嬉しい時、悲しい時。
あ〜ちゃんはすぐ感情が高ぶっちゃうから。
何かある度に見せたその姿。
見慣れた姿のはずなのに、今だけはどうしても戸惑ってしまう。
のっちも、あ〜ちゃんの背中を見つめたままだ。




発車のベルが鳴る。
あ〜ちゃんが少しずつ、でも確かに遠のいていく。
気づけば二人とも身体が自然と動き出していた。
電車を追いかける。
最初は並走出来ていたけど、そのうち全然追いつけなくなって。



…行っちゃった。



そう実感して足が動かなくなった。
実際には足が震えていて。ゆかが止まってしまっても、のっちは走り続けていた。
歯を食いしばりながら、必死に追いかけていた。


「あ〜ちゃんっ!…」


ホームの端に辿り付いたのっちは、そう叫んで崩れ落ちた。
視界から消えてゆく電車。
震える足をなんとかして前に出し、のっちの所へ向かう。


「うっ…く、…あ…ちゃ…ん…」


泣いているのっちを後ろから抱きしめる。
そして気づく。
震えてるのは足だけじゃなくて、ゆかの身体全てが震えてるんだ。
ゆか、泣いてるんだ。



『あ〜ちゃんを最後まで笑顔で見送る。』



のっちもゆかも、約束破っちゃったね。
こんなにも胸が苦しいのは、約束守れなかった罰かな。
同じ罰を受けるなら、思いっきり泣いてしまおう。
しばらくの間、ゆかたちは幼い子どもみたいに大声上げて泣いていた。






「のっちー…はよしんさい。次の講義遅れるじゃろ」
「ごめんごめん!ちょっと待って」


大学生活が始まって一ヶ月弱。
だいぶ新しい環境にも慣れてきた。


「よし、OKです!」
「もう…ほんまにのっちは…」
「だからごめんってー」


のっちとは相変わらず一緒に行動してるけど。


『ねぇ、君!ここのサークル入らない?』
「え、いや、興味ないっす」
『そんなこと言わずにさー…ほら、もしかしたら後々興味湧くかもしれないからさ、メアドだけ教えてよ』
「一生興味湧かないです。ゆかちゃん、行こ!」


大学に入ってからやたらのっちはサークル勧誘と見せかけたナンパされとるし。


「あーうっとおしいなー!」
「何?モテる女は辛いって?」
「そんなこと言っとらんよ」
「ん?ゆかにはそう聞こえるんじゃけど。」
「…いじわる。」
「何言っとるんよ!あ〜ちゃんおるくせに!!
あ〜ちゃんここにおったら何て言うか…」


ゆかとのっちは顔を見合わせる。


「「のっちのくせに生意気じゃ!!」」


「ひひっ、声揃ったー!」
「やっぱりそう言うよね、うん。」


あ〜ちゃんが隣にいなくても、あ〜ちゃんの話題が出ない日はない。


「ねぇ、ゆかちゃんはゴールデンウィークどーするん?」
「うーん…バイトも休みだったっけ…何も考えとらんかったわ」
「のっちさ、あ〜ちゃんとこ遊びに行こうと思うんじゃけど…ゆかちゃんも行かん?」
「え、それ超イイ!行きたい!」
「良かったぁ…じゃああ〜ちゃんに言っとくわ」
「あ、ちょっと待って」
「何…?」
「のっちと一緒に行くってことはー、目の前でイチャつかれるってこと?」
「まぁ…イチャつかないとは言えないっすかね」
「じゃあ、やめた。」
「なんで?!」
「ゆかのあ〜ちゃんがのっちにデレるとことか見たら、のっちに殺意抱くから。」
「殺意って!!…でも、あ〜ちゃんだって会いたいって言うとったよ…」
「だったら…のっちが行く日とずらす。」
「そ、そこまで…」
「ゆかは二人のこと思って言っとるんよ。」
「え…?」
「ゆかが行く日まで、思う存分二人でイチャコラしときんさい。」
「ゆかちゃん…」
「その代わり、ゆかが行ったらあ〜ちゃんはゆかのものじゃけぇ」
「あー、ゆかちゃん大好き!」
「ちょっ…話聞いとるん!?ええい、引っ付くな!!」





あ〜ちゃん。
元気にしてますか。
ゆかはこの通り元気だよ。
のっちがモテモテで心配?
だーいじょうぶ!
のっちの指にあるリング。
講義中あれ見ながらニヤニヤして話聞いとらんから。
ゆかね、二人に感謝しとるんよ。
大好きな二人がお互い想いを通じ合えた。
こんな素敵なことを目の前で見せてくれたことに。
ありがとう。
じゃあ、ゴールデンウィークに遊びに行くから。
楽しみにしといてね。





おわり







最終更新:2009年05月14日 02:06