Side N
あやちゃんは夜になるまでずっと、お世話になった一人一人に挨拶をして回っていた。
寝る前にあたしの部屋に来たあやちゃんは、メイド服じゃなくて普通のパジャマ。
相変わらずベットに寝転がっていたあたしは、起き上がってベットに座る。
「初めて見た。あやちゃんのパジャマ姿。」
「えへwメイド服もお返ししないとですから…。」
「あ、そっか。」
なんだか、どんどんあやちゃんと離れる時が近づいてるのを、嫌でも実感してしまう。
「あ。でも、ちゃんと明日まで、彩乃様のお世話はさせて頂きますよ?」
「え、そうなん?」
「もちろんです!…というか、出来るだけ彩乃様のお側に居たかったので、メイド長さんに我侭言っちゃいましたw」
また、そういうこと言ってぇ…。
「普段言わんから、たまには良いんじゃん?」
あたしは入って来たまま、ドアの前に立っているあやちゃんに手招きして隣に座らせる。
近づいてくるあやちゃんの顔を見ると、目が真っ赤になってて…。
「一人で泣いたん?」
あやちゃんは恥ずかしそうに反対を向いて。
「いえ…。皆さんとお話ししてたら、色々思い出してしまってぇ。へへw」
「そっか。一人じゃないなら良いや。」
なんか、あやちゃんがパジャマのせいか、妙にドキドキする。
いつもはアップにしている髪の毛も、今は下ろされていて印象が変って見えるし。
「それで、あの…。お願いがありまして…。」
もじもじと言い難そうにしてるあやちゃん。
「なぁに?」
「今日は、一人で寝たくなくて…。」
え?
「ここで、寝かせて頂いても良いですか?」
えぇええええww!!
「こ、ココでって、あ、あたしと一緒にって、こと?」
突然のことで、かなり動揺しまくりのあたし。
「…はぃ。ダメ…でしょうか?」
悲しそうに見つめてくるあやちゃん。
「ダダっ、ダメじゃないけどぉ、むしろ嬉しいっていうか。我慢できなくなるっていうかw」
何言ってんだw
「我慢ですか?」
「いやwこっちの話ですw」
「??じゃあ、良いんですか?」
向けられた視線が、なんだか不安そうで抱きしめていた。
「うん。良いよ。一緒にいよ?てか、あたしも一緒が良いw」
「はい♪」
横から抱きしめたあたしに寄り掛かってくるあやちゃん。
二人でベットに潜り込んで、指先を絡めて手を繋ぐ。
「彩乃様と一緒で幸せです。」
向かい合ったあやちゃんが、微笑む。
そう言うけどあやちゃん?明日から離れちゃうんだよ?
そう思ったら、また泣きそうになって…。
布団の中に顔を隠した。
Side A
彩乃様の瞳が一瞬揺らいだと思ったら、布団の中へと潜ってしまった彩乃様。
鼻を啜る音も聞こえて…。やはり我慢して下さっているんでしょうか。
そう思うと、胸の辺りがぎゅっとなって、少し切ないです。
彩乃様に離れたくないと思っていただけるのは、本当に、本当に嬉しくて。
でも、このまま離れるのは申し訳なくて…。
少しでも安心して頂きたくて。
布団から少し覗いている彩乃様の頭に顔を近づけ、話し出す。
「今朝、旦那様にお話した時、旦那様から私も大本家の一員だと言ってくださって、いつでも遊びに来ても良いと言って頂けて、私とても嬉しかったんです。」
「…うん。」
「ですから、私。また戻ってきます。ココへ。…いつ、とは言えませんけど…。」
「……。」
「彩乃様の所へ。」
「…ホントに?」
「はい。…信じて頂けませんか?」
「ぃやっ。そうじゃなくて、家族といる方が楽しくてそっちが良いって、気持ちが変っちゃわないかなって…。」
「そんなことありません。もぅ、彩乃様?顔、出してください。」
あまり顔を見られたくないのか、しばらく出てきて下さらなかったのですが、もそもそと半分だけ顔を覗かせて下さいました。
覗かせた睫毛は少し濡れていて、やっぱり泣いていられたんですね?
「彩乃様。私コレに誓いますから。必ず彩乃様の所に戻ってくること。」
首から外した例の小瓶を、彩乃様の目の前に持ってくと
「コレって?」
「両親が私を入れた籠に、名前と一緒にお守りみたいに入れてくださった香水なんです。私にとって両親と繋がっている唯一の物だったんですけど…。」
あやちゃんちは香水を造ってるらしい。あやちゃんの為に造った香水なんだって。
「それに誓ってくれるの?」
「はいwもちろんです。そして、彩乃様が忘れないように持っていて下さい。」
「だ、ダメだよ。そんなに大切なもん受け取れんよ…。」
「もう一緒に住みますから、大丈夫です。それに、前にも言いましたけど、私にはネックレスがありますから。平気です。」
そう言いながら、彩乃様の首に掛けていく。
Side N
首に掛けられたソレから漂ってくるのは、あやちゃんの香り。
そっか、コレだったんだぁ。
もう、ホントあやちゃんには敵わないよ。
あたしの寂しさを感じて、和らげてくれる。
あたしの方が年上なのに、なんか情けないな〜。
「あやちゃん、ありがと。」
「いえ、彩乃様が悲しいと私も悲しいですから。」
「そうなん?」
「そうですよ?」
「そっかw」
「あ、それと。まだ約束もありますからね?」
え?
「何かあったっけ?」
「むw彩乃様ヒドイです。また遊びに連れて行ってくださるっておっしゃったの忘れたんですか?」
お〜ぅ。そうだそうだw
「お、覚えとるよぅw」
「それから…。」
そ、それから?なんだ?
「『H』もまだ教えてもらってません。」
でたwww
最近聞いてこなくなって安心しとったのに、今キタw
「そ、そうじゃったねぇw」
「まだ、ダメなんですか?」
「んwwやっぱだめ。」
今教えたら、マジで切なくなっちゃうよw
「そぅですか…。」
しょぼんとするあやちゃん。そんな顔ずるいよぅ。
「じゃあ、あやちゃんが戻ってきたら、教えよっかな〜。」
「えっ、そんなのズルイです!」
「だって、そうしたら早く戻ってきてくれそうじゃん?」
冗談ぽく続ける。
「ぅぅ、では、それ約束ですよ?戻ってきたら教えてくださいね?」
「え…あっとぉ。良いの?」
コレ約束しちゃっても良いの?
「はい♪約束です♪」
すっと差し出されたあやちゃんの小指。
ちょっと、躊躇いながら指を絡めると、無邪気に指切りをするあやちゃん。
「はい。これで、ちゃんと約束しましたからね?」
ニコニコ嬉しそうなあやちゃん。
…なんだか、いけない約束をしてしまったような…。
ま、いっかwあやちゃん喜んでるしぃ。
「あの、彩乃様?他に何かしてほしいことありませんか?」
もう十分してもらってるよ?でも、もう一つだけ。
「明日…居なくなるまで、ずっと側にいて?」
「はい。喜んで♪」
それから、なんだか寝てしまうのが勿体なくて、しばらく二人で話をして時々笑ったり。
そのうちあやちゃんの目がトロンとしてきて、何度か髪を撫でてあげると自然と瞼が閉じて寝息が聞こえてきた。
あたしも、その可愛い寝顔を見ながらゆっくりやってくる眠気に意識をゆだねた。
そしてやってきた、別れの日。
—つづく—
最終更新:2009年05月14日 02:08