アットウィキロゴ
車から降りた後ののっちの仕事ぶりはいつもと変わらず、いや、いつも以上の集中力を見せていた。

だけど、それは他のスタッフさんがいる前での話。

仕事が終わったあとの、二人きりの楽屋。
いつもより静かなのは、きっと、いちいち独り言の多いあの子がいないから、、だけじゃない。


「のっち、ちょっとええ?」


ぼんやりとテレビの画面を見つめるのっちを呼んだ。


「んー、なにぃ?」


なんて、気の抜けた返事をしながらテレビはつけっぱなしのままで、のそのそとこっちにやって来る。


のんきな声。
だけど、無理しとるんじゃろ?


仕事だからって、スタッフさんの前でずっと気を張っていたこと。
本当は誰よりも自分が、私たちが、周りからどう見られているか気にかけてること。
それが気を許した人にしか心を開かない彼女なりの防御なんだってこと。


全部知っとるよ。


「ゆかちゃんと何かあったん?」


今朝と同じ質問。
のっちの口元が僅かに歪む。
あと少し。


「ゆかちゃんと、何が、あったん?」


のっち、あ〜ちゃん気づいとるんよ。
もう隠さんでええんよ?


「、、、あ〜ちゃん知っとったん・・・?」
「何年一緒におると思っとるん?ふたりを見とれば分かるわ」
「そっか。。そ、だよね。。」


シュンと耳を垂れさせた犬みたい。


「ゆかちゃんのお見舞い、行ってあげんの?」
「・・・・合わす顔ないけぇ、、」


ゆかちゃんとは、のっちよりも少しだけ付き合いが長い。

ゆかちゃんは考えすぎるところがある。
いつも冷静でクールなふりしてるくせに、頭の中ではものすごい勢いでいろんなことを考えてる。
きっと、その考えが多すぎて、処理できなくて、こんがらがって、ぐしゃぐしゃになってしまう。




「まぁ、、あ〜ちゃんは何も言わんよ」


あ、今度は捨てられた子犬になりよる。


今までゆかちゃんの不安を見抜いて、ぐしゃぐしゃにこんがらがったそれを解くのを手伝うのは私の役目みたいなものだった。
黙って見守るタイプののっちとは違って、私は無神経にガツガツ踏み込んでしまうタイプだから。


だけど、今は、、


「けど、ゆかちゃん、、、きっと、のっちのこと待っとるよ」


それは、私の役目じゃない。
彼女が待ってるのは、私じゃないから。


「そんな簡単に諦められる関係なん?」


密かにお気に入りだった、とびっきりの立ち位置を分け渡すみたいで、少し悔しいけど。


「その程度の覚悟しかないん?」


でも、のっちにならいいと思う。
何より彼女がそれを望んでるんだから。


「失ってからじゃ、遅いんよ?」


でもね、のっち?
ゆかちゃんの隣にも、のっちも隣にもいられる一番おいしいこのポジションは何があっても、誰にも譲る気はないから。
そこだけは譲れんのよ。






最終更新:2009年05月14日 02:22