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サイドN


『じゃあ、行ってくる。』
冷たい風が窓を激しく叩きつける冬の朝。
モッズコートを羽織って、玄関にむかう。

『のっち!』

しゃがみこんで、エンジニアブーツを履いていると後ろから
私を呼ぶ声と首元にあったかい感触。

『うわっ!な、なん?』
『ふふっw何びびってんよーw』

私をからかいながら
優しくマフラーをまいてくれた。

『外、寒いから、ね?風邪ひかんように。』
『ん、ありがと。』

優しい言葉とマフラーで、私は心も体も暖まった。


大学二年の冬。
秋が過ぎたころに始まった彼女との生活は、
季節が冬の寒さを連れてきたけど、
毎日が充実していた。
一年前彼女は大学をやめた。
だけど私はダラダラと通っていて、
なんだかんだで進級もできた。
彼女との生活のために、
今すぐ働きに出てもよかったんだけど、
『ゆかが、働くけぇ。のっちはちゃんと大学通いんさい!』
彼女の強い意志に止められた。
自分の方が彼女を守る立場でいたかったから、
少し情けなかったけど、
強がりを言えるのも、
甘えられるのも、
彼女の前だけだった。
だから素直に甘えた。



外に出ると、冷たい風が頬に突き刺さった。

“マフラーまいてきてよかった・・・。”

離れていても彼女の優しさが私を包む。

『どんなに遠くに離れても、二人なら平気だよ。』
いつか言った自分の言葉。
一度目は、あんなに近くにいれたのに駄目だった。
けど、二度目の関係に次はないことわかっているから・・・。


『遠くになんか行かせないよ。』


灰色の雲と雲の間に見えるわずかな光を見上げながらつぶやく。


足早に大学までの坂道を一人で歩く。
けど、一人じゃない。
いつも心に彼女がいるんだ。
いつだって心に彼女が宿っててくれる。


『あぁ〜早く帰りたい。』
大学についてもいないのに、
もう帰ることばかり考えていた。
部屋に帰れば彼女のあったかい空間に包み込まれるんだ。


私がフラフラと大学に通っている間、
彼女は大学をやめた時から続けているリサイクルショップで働いてた。
リサイクルショップといっても、家電量販店の在庫管理みたいなもんで、
AV機器やカメラ、少しの楽器、周辺の器材なんかが売られていた。
彼女はそこで、毎日働いていた。
私と一緒に暮らすようになってからは、多少休みをもらってくれているみたいだけど。
毎日の生活×2になった生活費は私の仕送りだけじゃ、当たり前だけど賄えなくて。
むしろ毎月足がでて、実質彼女に養ってもらっていた。



『・・・バイト探すか。』
授業中、思いたった。
もうすぐ三年だし、授業も少なくなる。
頑張って朝早い授業にすれば、午後は働けるもんな。
てか普通はみんなそうやってんのか・・・。
なんて我ながら甘ったれた生活に恥ずかしくなる。


『バイト?するん?』


突然声が聞こえてびっくりした。
あ、そっか。授業中だ・・。
隣を見ると、あ〜ちゃんが不思議そうな顔してこっちを見てた。
『へっ?』
『バイトするん?今、声洩れてたよw』
あ〜ちゃんは相変わらず優しくて、
ずっと変わらない態度で接してくれた。
彼女を見つけたことも、
一緒に暮らしていることも、
全てわかって、全てに
“よかったね”
と笑顔をくれた。


『あ、あぁ。春までには、見つけたいかな。』
『ふ〜ん。ゆかちゃんは?』
授業中、小声で話す。
“ゆかちゃんは?”
多分あ〜ちゃんは、
“ゆかちゃんには言った?”
って聞いてるんだろう。
足りない言葉でも、すぐにわかった。

『ん、あんま迷惑かけたくないから。』
『そっか!頑張れ?』
優しい笑顔が、
私の足りない言葉でも
“理解してるよ”
って伝える。
私があ〜ちゃんにしたのと同じように。
つまりは、
『まだ言ってないけど、バイトするよ。ゆかにばっかり迷惑かけたくないから。』
そうゆうこと。


窓の外、
灰色の雲を見つめ、
『早く春がこないかな。』
なんて、
ガラにもないことをつぶやいた。




大学ではほとんど一人でいたけど、
何かにつけて、あ〜ちゃんに助けられた。
休講の知らせやゼミのレポート、
テストの範囲や講義室の場所。
様々だったけど、
“なんでこんなに?”
不意に頭にハテナが浮かぶ。
だけどそれはすぐに消える。
あ〜ちゃんは、まだ気にしてる。のかな?

ゆかと再会してから、わりとすぐに、
あ〜ちゃんには報告して、
その時、
『もう気にしないで。もう大丈夫だから。』

“もうちょっと優しく言えんの?”
なんて、ゆかにつっこまれたけど、
あ〜ちゃんにはちゃんと伝えた。
だけど今でも胸にひっかかる態度をとるから、
“ちゃんとうまくいってるよ!”
って何度も会話に織り交ぜてるのに、
その都度、ちょっと切なそうな顔をするのはなぜだろう?


だから私は
『まだ気にしてる?』
を、繰り返す。
だから私は
『のっちとゆかなら、もう大丈夫だからw』
笑って繰り返す。


だって、
そうゆうしかないじゃんか・・・。





最終更新:2009年05月14日 02:35