2008年4月27日ゼップ大阪ツアー初日
のっちはこの場所でライブをすることがまだ夢のように感じていた。
広島から出てきて5年…ぱふゅーむ結成から8年…
私たちがまだ子供だった頃に描いた夢は
今、確実に目の前に広がってる眩しい世界に繋がっている。
「まるで夢を見てるみたいじゃ…。」
そう呟く気持ちを見透かすようにかしゆかが微笑む。
「のっちは、いっつも心配性じゃねぇ。」
かしゆかはいつもそうだ…妙に一人だけ達観したような、どこか他人事のようにPerfumeをみてるような、
そんな彼女の事を、のっちは少し苦手にも思っていた。もちろん、一人で突っ走ってしまうあ~ちゃんがいて、
かしゆかが冷静にならざるを得ないのが分かっていても、だ。
いや、苦手というよりは憧れに近いのかもしれない。
長い髪、透き通るような肌、儚げな笑顔…。
自分が男なら、こんな少女を手に入れたいと思うに違いない。
のっちは…かしゆかに自分にはないものをたくさん見ていた。
ぱふゅーむに加入した時、のっちはあ~ちゃんに近づきたかったのだと今更ながらに思う。
思い込みが激しくて、少し子供っぽくて、でも近づく人みんなを幸せにするくしゃくしゃな笑顔を、
のっちはいつも一緒に見ていたいと思った。
あ~ちゃんはまるで太陽のように、みんなを照らす。
どんな、漫画や音楽を聴いても満たされない心の奥底を、あ~ちゃんの微笑みは眩しいように照らしてくる。
かしゆかもそれは同じみたいだ。
年齢以上に大人な彼女もあ~ちゃんの天真爛漫な所が大好きなのは伝わってくる。
Perfumeはあ~ちゃんが真ん中にいるから3人でがんばれるんだ。
コンコンと言う音が控え室に小さく響く。
午前中のリハーサルを終え、後は細かい調整だけだったけど、今日はツアー初日ということで多くの関係者も見に来るらしい。
もっさんが何人かの関係者を通して3人は挨拶する。こんな時、あ~ちゃんは必要以上に愛想がいい。
本当は知ってるんだよ。昨日、ホテルであった事を…。
ツアーが始まる前夜は大阪で過ごしていた。
ギリギリまでテレビ収録もあったためにやっとホテルで一息いれてシャワーを浴びたのっちは少し夜風に当たろうと
思い部屋の鍵を開けた。そこには今にも泣き出しそうな、一人の少女がいた。
あ~ちゃんだ。
「こ、こんなところで、何しよん?」のっちは尋ねる。
「少し、ええ?」消え入りそうな声に反応する前にあ~ちゃんが部屋に入ってくる。
あ~ちゃんの髪からフワリと匂う香りに少しだけドキリとする。
「のっちと二人きりになるんも、ひさしぶりじゃねえ。」
大事な事はいつも遠まわしにする。普段言葉多く伝えようとするのとは対照的に、静かな時間が舞う。
「のっちは…私が誘わんかったらPerfumeには入っとらんかったけえ…」
のっちは何を言ってるのかわからなかった。
今更、そんな疎外するような事言うの?私はあ~ちゃんの仲間じゃないの?
「後悔…しとらんじゃろか?」
「え?」
意味がわからなかった。やっと、やっとこれから大きな舞台に出てたくさんのお客さんと出会える場所を貰って
喜びこそすれ後悔なんて…
「のっちは…人見知りじゃけぇ…これから色々な人が近くにやって来て、勝手な事もたくさん言って、傷ついたりすることもあると
思うんよぉ。じゃけん、私は今後悔しとるんよ。これから先、テレビもいっぱい出てCDも売れて週刊誌にあることない事書かれて・・・」
何を言ってるんだろう?
あ~ちゃん、私はね、ずっとあ~ちゃんの隣で歌って、踊っている今が一番楽しいし、これからもそうだって信じてる。
あ~ちゃんは続ける。
「もし、のっちがこれから何かあってPerfume辞めたいとか、思ったりせんじゃろうかって…」
もう、聞いていられなかった。
「あ~ちゃん、私は…のっちは……そんな後悔は1ミリもせんよ。あ~ちゃんに一緒にやろうって誘われたあの時から…
上京して、CDも売れんくて、辛い時はいっぱいあったけど、辞めたいなんて思ぉたこと無いよ…」
最後のほうは叫びにも近かった。何を責任感を感じてるんだろう?この人は…。
一番傷つきやすくて、一番誤解されやすくて、一番繊細なのは自分なのに…。
のっちはもう、あ~ちゃんを抱きしめる以外の方法を知らなかった。自分が女だとか関係なく、
あ~ちゃんの瞳を曇らす全てから彼女を遠ざけたかった。
「ちょ…のっち、そんなに強く抱きついたら苦しいじゃろ。」
「…ご、ごめん」
拗ねた子犬のようなのっちを見つめるあ~ちゃんの目はいつものように輝きを取り戻している。
「何か、よう喋ったら眠くなったみたいじゃ」
「…そ、そうなん?」
「じゃ、私部屋に戻るわ」
部屋のドアがキイッと閉まる音がしたものの、1分ほどたってからそのドアはもう一度開いた。
「のっち、ありがと…。」
たった4文字の言葉が聞こえて、もう一度部屋は静寂に包まれた。
のっちは少し火照った体をベッドに投げ出し、照れ笑いを浮かべる。
~再びゼップ大阪~
開演十分前
「自分たちが楽しまにゃ、お客さんも楽しくないけん!」
あ~ちゃんはライブの前、いつもこの台詞を言う。ステージの上に憧れた少女の時から何よりも自分が楽しむことを
そしお客さんを楽しませることを考えてきた初心を忘れないように…。
武道館という夢の舞台が決まった今も、本当に変わらない・・・。
「じゃ、そろそろPerfumeさん、お願いします!!!」
スタッフから声が掛かる。
初ツアー初日、ミスは許されない…。
のっちは胸の中で繰り返す。初めて会った時のあ~ちゃんの事を…
ひたむきで、まっすぐで、がんばりやで、泣き虫なあ~ちゃん…。
あなたの隣でステージに立つことが出来るのは後、どれくらいなんだろう?
そばにいられるのは…どれくらい?
会場からは割れんばかりの歓声が響いてくる。
ついにここまで来たんだ。
階段は登ったあとは降りるだけだっていうけど、今は登ることだけを考えよう。
このステージに向かう階段がどこまで続いているのか・・・
わからないけど、今はこの一瞬を刻んでいきたい…あなたと一緒に…
最終更新:2008年10月10日 17:59