Side N
何度か耳元で優しく名前を呼ばれて、目が覚める。
「…ぅん。ふあ〜w」
「良く寝られましたか?」
「へ〜、気持ち良かったぁ。」
「ふふ、はい。とても気持ち良さそうでした。」
「へへw…もう時間?」
「いえ、もう少しあります。」
「ん。じゃ、戻る?」
「いえ、あの。もう少しお話したいです。」
「うん。良いよ?」
「ありがとうございます。お別れする時に、皆さんの前では出来そうにないので…。」
「そうじゃね。」
「彩乃様に好きって、たくさん言いたくて。」
「え?」
「…好きです。大好きです。」
あやちゃん…。
「あたしも大好きだよ。ちゃんと待っとるけ。」
Side A
好きという言葉だけでは、なんだか足りない気がして、彩乃様にぎゅっと抱きついて。
これで気持ちが伝わってくれてれば宜しいんですが。
「あやちゃん、ありがとう。」
同じように抱きしめてくださる彩乃様の腕は、変らず優しくて安心します。
「…そいじゃ、そろそろ行こっか。」
「はい。」
シートをしまって、ココに来た時と同じように彩乃様と手を繋いで、同じ道を歩いていく。
心なしか、手を繋ぐ彩乃様の力が強い感じがして、私もそれに応えるように少しだけきゅっとすると、とても嬉しそうに笑ってくださいました。
家に戻り、西岡さんの所へお弁当を返しに行きましたら
「楽しまれましたか?」と聞かれて
「ん〜、楽しかったし、それ以上に嬉しかったですねw」
笑いながら答えておられる彩乃様。
「それは良かったです。ね?綾香ちゃん。」
「はい♪」
「また、遊びに来なさいよ?」
「はい、もちろんです!色々ありがとうございました。」
「うん。元気でね?」
ぽんぽんと頭を撫でてくださって
「なんだかお母様みたいですw」
「んん?良いわよ〜?綾香ちゃんみたいな子なら大歓迎よ〜w」
そんなやり取りをしてから、少ない荷物を取りに部屋へと戻る途中で両親が来られていると伝えられ、少し急いで客室へと向かいました。
客室の手前で、並んで歩いていた彩乃様が立ち止まられて…。
繋いでいた手もそっと離されて…。
「あたしが先に入るね?」
一呼吸して、向けられた表情は、いつものケロッとした甘いものとは違って、キリッと爽やかなお顔で、少しドキッとしてしまいました。
まだ恋を知らない私がドキドキして戸惑ってしまった、あの時の瞳をしていたので…。
とても久しぶりに見た気がします。
部屋の戸を開けられて「失礼します」と一礼をして、堂々と歩く彩乃様の後姿がとてもカッコ良かったです。
私の両親へも挨拶してくださり。
「本当に、あやちゃんには沢山お世話になりました。これから家族で過ごすの楽しみにしてるみたいなので、お願いします。…て、これはあたしが言う事じゃないですねw」
あははwと言いながら、しっかり笑いをとって…。また少し無理されてますね?
「wしっかりした娘さんですね。」
「いえいえ。この子はまだ甘ったれです。綾香の方がきっとしっかりしてますよ。」
わしゃわしゃっと彩乃様の頭を撫でられる旦那様。
「父さん、ちょっと止めてよ〜。」
恥ずかしそうに、旦那様の手を払いのけておられる彩乃様。
その様子が少し可笑しくて笑ってしまい。
「あやちゃんまで笑わんでよぉ。」
「あぁ、すみませんw可愛らしかったのでついw」
「もぅw」
でも、いつもの彩乃様で…。きっと旦那様も分かってらしたんですね。無理されてるの。
そして、私たちが帰るために玄関を出ると、大本家の皆さんが居られて…。
「皆さんどうされたんですか?」
「どう…って綾香ちゃん。綾香ちゃんのお見送りに来たのよ?」
メイド長さんがそう言ってくださって。
「私のですか?」
「そうよ?皆綾香ちゃんのこと大好きだからっ。」
「…っ。ありがとう、ございますっ。」
皆さん優しくて。嬉しくて、嬉しくて泣いてしまいそうですっ。
「綾香。」
「はぃ。」
「良かったわねぇ。」
「はい!」
皆さんにお礼を言って、車へと向かい。荷物を載せ、最後にお三人に挨拶を。
それぞれ、お一人ずつの前で。
最初に旦那様へ
「…私のことを見捨てずに、置いてくださったこと、一番感謝しています。ありがとうございました。」
「私の方こそ、ここがイヤになって出て行かれずに貰って嬉しかったよ。」
「まさか、そんなこと…。ココに居られる方々が優しいのはきっと、旦那様や奥様のお人柄なんだと思います。そのような中で過ごせた事、とても幸せです。」
「そう思ってもらえて、私も嬉しいよ。ありがとう。」
そう言われた後、旦那様が何か言い難そうにしておられると、隣に居られる奥様クスクスと笑いながら。
「あなた、お願いしたいことがあるのでしょう?」
「あぁwそうなんだが…。」
「なんでしょう?何でもおっしゃって下さい。」
「そのだね、綾香が嫌でなければ、最後に抱きしめさせて貰えないものかと思ってねぇ。」
旦那様の少し照れた仕草が、彩乃様と似てらして。やっぱり親子ですね。
「私は嬉しいです。是非抱きしめてください。」
「ははw良かったよ。嫌がられたらショックを受けるところだったよ。」
そっと抱きしめられて、「元気でな。綾香。」そう言ってくださいました。
続いて奥様へ。
「お願い聞いてくれて、ありがとうね。」
「いえ、コレくらいのこと。今までお世話になったことを思えば、まだまだ足りないくらいです!」
「ふふ。それにしても、真っ直ぐに可愛く素敵に育ってくれて良かったわ?」
顔や腕を確かめるように触ってくださって、その手がとても温かいです。
「皆さんのお陰です…。奥様にもなんとお礼を言ったらよいのか…。」
「それじゃあ、私も抱きしめさせて貰おうかしら。」
「はぃっ。」
「また、いつでもいらっしゃい。」
柔らかく、優しく抱きしめてくださいました。
そして、彩乃様へ…。
「いよいよ、じゃね…。」
「はい。」
「いっぱい話したから、あんまり言う事無いやぁ。」
「そうですね。」
Sde N
言いたい事がない訳じゃない。ただ、元気でねとか、ありがとうとか、忘れんでね…とか。
すべて言葉だけじゃ伝えきれない。
だから、ほとんどしゃべらない内にあやちゃんを抱きしめる。
先に二人としてくれてたから、あたしも周りを気にせずに出来た。
「彩乃様…。」
「なに?」
「約束…忘れないで下さいね?」
「もぅw分かっとるってw」
あやちゃん、引っ張るね〜w
「…今までありがとうございました。」
「うん。あたしの方こそ…。」
しばらく何も言わずにいたけど、ずっとこうしてる訳にもいかない。
だから、体を離して、あやちゃんの両手を握る。
「あやちゃん…。」
「はい。」
やだな…。バイバイなんて言いたくないよ。
言い出せないでいるあたしの変わりに、あやちゃんが言葉を続ける。
「彩乃様…。」
「ん…。」
さよならなんて言ってほしくない…。
だけど、あやちゃんが最高の笑顔で口にした言葉は、あたしの寂しさなんて簡単に壊してくれた。
「いってきます♪」
「!っ…。ぅん、いってらっしゃいw」
また帰って来てくれる。その言葉があたしを嬉しくさせる。
やっぱ、あやちゃんじゃねw
最後にもう一度だけぎゅっと抱きしめて、あやちゃんを見送る。
あやちゃんを乗せた車が見えなくなって、ふと今日の空を見上げて、眩しい太陽に目を細める。
これからは、この太陽みたいな笑顔のあやちゃんを、待ちわびるとしますかw
—つづく—
最終更新:2009年05月14日 02:54