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「うちに、泊まりに来ん?」


授業の終わり、先生が出て行くと同時に教室に入ってきたゆかちゃんの第一声がそれ。
「ん?」
教科書をしまう間もなく、聞き返した。


「明日お休みだから、」
「うん」
「うちに遊びに来なさい」


「なんでちょっと命令口調なんよww」
「…嫌?」
寂しげに首を傾げたゆかちゃんに私は『NO』とは言えない。

「嫌じゃないよ、むしろ嬉しいw」
まぁ、言うつもりも無いけど。

「じゃあ、のっちんち寄って、服もって、、、」
「お菓子買って、ジュース買って?」

「うん、じゃあ放課後、教室で待っとってね?」
ゆかちゃんは私の頭をポンポンと撫でた。

「わかった」
「ふふw楽しみw」
「うん、のっちも楽しみ」




楽しみ…
本当に、楽しみだったんだ…。





待つのは苦じゃない。
ゆかちゃんを待っているなら尚更。
こうして静かな学校で、耳を澄ますと、ゆかちゃんの足音さえも聞こえそうだ。




「あー…雨降りそ、、」
ベランダで空を仰いだ。空にはどこからともなく黒い雲。

「雨の匂いせん?」
隣のあ〜ちゃんも同じ様に空を見上げ、鼻を利かす。
「えっ?そう?」
真似てみるけど、
「わからん」
匂いはしない。
「雨降り出す前に帰ろっかなぁ…」
あ〜ちゃんは教室に入ると、私の机に置いてあった自分のカバンを持つ。

「あっ!のっち傘ない!」
「ゆかちゃんが持っとるじゃろ」
「相合い傘!」
「ヨカッタネ」
「感情がこもってないよw」
「こめてないもん」
「ヒドっ」


ヒドいよ〜なんて嘆きながら上体を反らし、顔をベランダから出す。
視界一面の曇り空から、一粒落ちてきた。


「あっ、雨」
「嘘!もう降ってきたん!?」


「うん、早よせんと靴ビダビダになるよ!」
「あー!雨さん待って!のっち、じゃあね!」
勢い良く出て行ったあ〜ちゃんに、
「あっ!うん、気をつけてね〜!!」
私の声は届かなかったと思う。




—…ガラガラッ




教室に響いた私の声が消える頃。
顔を見せたのは、待ち人ではなくて…


「少しお話良いですか?」
見覚えのある、彼だった。





顔を見せたのは学際でゆかちゃんと看板作ってた子。



「あっ…えーっと」
「暇ですよね」

—…ザァー


…確かに、暇だ。
でも、その攻撃的に投げられた言葉に少なくともイラっとはした。


「なんですか?」
ベランダから教室に入り、自分の机に腰掛ける。


少し高くなった視界に、彼は容赦なく近づいてきて、


「樫野と付き合ってますよね」

私を見下ろした。


その目が何を考えているのか解らなくて、怖かった。
でも、それを悟られるのもまた怖くて、ギリギリに笑ってやった。



「はい、そうです」

「樫野から告白したんですか?」

「…私からです」

「そうですか」

「はい」

目の色一つ変えない彼が、フッと視線を窓に移した。



「お願いがあるんです」




—…ザァー




降り出した雨が勢いを増し、彼の声までも消えるんじゃないかと思った。


いや…




「樫野と別れてくれる?」





—…ザァー



出来る事なら、消してほしかった。







最終更新:2009年05月14日 03:21