「あの写真はあの人との思い出の写真、なんかじゃないんよ。。」
写真を撮るのが好きな人だった。
デジタルの一眼レフを持って、近場の公園や海岸へ写真を撮りに出かけるのがデートの定番だった。
「彩乃も撮ってみる?」
「んー、、見てる方がいいや」
楽しそうにファインダーを覗く彼の姿に彼女を重ね合わせて見ることが、わたしの密かな楽しみだった。
「いつも、そうやって、ゆかちゃんとあの人を重ねてた」
触れ合う度に違和感を感じながらも、目を背け続けて。
「気づいたら、ゆかちゃんとの共通点ばっかり探してて」
彼女じゃない、あの人と抱きしめ合いながら、
この手が彼女のだったら。
この腕が彼女のだったら。
この唇が彼女のだったら。
この舌が彼女のだったら。
なんて、想い描いて。
「ゆかちゃんにも、あの人にも、失礼なことしてた」
あの人を裏切りながら、密かに彼女を想い続けた。
幾度、彼女の恋の噂を耳にしたって、想いは募るばかりだった。
「きっと、、最初から、、ゆかちゃんじゃなきゃ、ダメだった。。」
誰よりも、
彼女を満たす存在になりたかった。
彼女の寂しさを埋める存在になりたかった。
風景を撮るのが好きな彼女とは違って、ポートレートなど人物を撮るのが好きな人だったから、当然のように何度かカメラを向けられた。
だけど、いつも何かしら理由をつけては撮られることを拒み続けていた。
唯一、不意に撮られたのが、あの一枚だった。
「一番大切な人のこと、思い出してみてよ」
カメラを向けられて嫌がるわたしに彼が言った一言。
思い出すまでもなく、頭に浮かんだのは、彼女の顔。
パシャッ
「あ!ちょっ、、なにしよん!?」
「俺以外の人を思い浮かべた罰でーす」
「え?」
からかうようなニヤケ顔から一変、
「すっげぇイイ顔してた。・・・キレイだったよ」
彼は少しだけ寂しそうに笑った。
「、、彩乃のあんな顔、初めて見たよ」
それ以来、彼がわたしにカメラを向けることはなかった。
現像されたその写真がこっそり本の間に挟まれていたのに気づいたのは、彼と別れる3日前のこと。
「のっちの心には、最初からゆかちゃんしかいなかったんよ」
いつだって、わたしが求めてたのは、彼女だけだった。
最終更新:2009年05月14日 03:31