サイドK
春になり、暖かい風が吹きはじめ私の二回目の大学生活は始まった。
休学にしたタイミングが悪くて、
また前期からだったけど
彼女と通えるのなら、それも楽しみにかわるんだ。
今日から授業が始まる。
私たちは午前中の授業もとって、夕方一緒に帰るようにと、だいたいの時間をあわせた。
『いこっか?』
そういって私の手をひくのっち。
いつもと変わらない優しい顔で、
“大丈夫だよ”
って、安心させる。
大学までの、あの坂道を、
半年前歩けなかった坂道を、
また私たちは歩きだした。
二人でなら、どこにだっていける気がした。
『じゃまたあとで。』
そう言うとのっちは、足早に教室に向かった。
わざわざ私の教室の近くまできてくれていたからだ。
『ふふっw』
さりげない優しさに笑いがこぼれた。
“離れていても平気だよ”
うん。本当だねのっち。
今なら本当に、そう思うよ。
午前中の授業が2つ。
少し長引いた授業がおわって教室を出ると、
壁にもたれて眠そうな顔をしてるのっちを見つけた。
それと・・・
そんなのっちを取り囲む女の子たち。
どうやら一年生みたい。
“やっぱり・・・”
心の中で妙に納得。
のっちに限って、なんもないほうがおかしいもん。
だけど・・・
だけどやっぱり淋しいな。
大丈夫。大丈夫。
ゆかたちはもう大丈夫なんだから。
心で念じる。
何度も念じる。
大丈夫・・・。
なんて思ってたら、
眠そうなのっちと目があった。
『あっ。』
途端に顔をくしゃってゆるませて、優しい顔になった。
まわりの女の子たちに
『ちょっと通して。』
なんて無愛想に言いながら駆け寄ってきた。
『おつかれ!どう?楽しかった?』
なんて無邪気な笑顔で話しかけてきた。
のっちの後ろから冷たい視線をいやってほど感じながら。
『べつに、、普通。』
やっぱりちょっと冷たくなっちゃったのはね?
ゆかの前でだけで見せてくれる優しい顔が嬉しいのに、
ちょっとだけ他の子に盗み見されちゃったのが悔しかったから。
素直になれないのはゆかの悪い癖かな?
『ん?』
ゆかの変化にすぐ気付いたのっちは、軽く後ろを振り返ってから、
『あぁ。』
納得したみたいに私の手を握った。
そして優しい顔を私だけに見せてくれた。
『待ってたよ?』
『うん。ごめん、ね?』
『ん?』
『待たせて・・・』
『勝手に待ってただけだから。』
『うん。ありがと。』
優しいのっちを前にして、
嬉しいのに素直じゃない私。
情けないよ、本当にもう。
だけど不安なの。
わかるでしょ?のっち?
『ゆか?』
『・・・』
『のっち授業ぜんっぜん頭入ってないや。』
『???』
『さぁ〜なんでだ?w』
『・・・お腹、減った?』
『ん〜それもあるw』
『???』
『気になって気になって。』
『・・・なに?が?』
『ゆか、が。』
あ、消えた?
あぁ、消えた。
私の不安。
『のっちー!!』
お昼休み。
食堂。
うちの大学に食堂は一つしかない。
嫌だと思っても会ってしまうのが現実。
声の主たちは後ろ姿じゃ私に気付かない。
バタバタバタ
だんだん近づく複数の足音。
バタバタバタ
だんだん近づく複数の足音。
『のっちー遅かったじゃ・・・えっ!?』
声色が変わる。
そりゃそうだ。
『な、んで?』
そりゃそうだ。
『えっ?え、えっ?』
そりゃそうだ。
はぁ、嫌だな。
嫌だと思っちゃいけないんだろうけど、嫌だ。
そっと目の前に座るのっちを見ると、
優しい優しい顔で笑ってくれた。
“大丈夫だよ”
って言ってるみたいな、その笑顔は私を落ち着かせる。
『ゆか迎えに行ってたんだよ。』
なんてことない顔して、
普段と変わらない無愛想なしゃべり方で話しだしたのっち。
『ちょっとー!!教えてとってよーw』
予想外だったあ〜ちゃんの声。
『また一緒にいられるね?ゆかちゃんw』
あ〜ちゃんはにっこり笑って優しく言ってくれた。
まわりの友達もみんな優しく笑っていて、
私だけが笑えてなかった。
そう。
私だけが意識していて、
変に構えちゃって、
臆病になって、
距離をつくって、
勝手に嫌われることを恐れていたんだ。
“だから大丈夫だよって言ったでしょ?”
目の前の愛しい人が、
まるでそう言ってるみたいにほほえんだ。
『言ってくれればよかったのに〜』
『また楽しくなるねぇw』
『本当久しぶりだよね?』
友達は口々に言って、
半年前と変わらない温度で接してくれた。
『あ〜ごめんごめん。のっちも最近知ったんだよね。』
笑いながらみんなに話す。
『えぇっ!ありえんわw』
すかさずあ〜ちゃんのつっこみがはいった。
あんなに無愛想だったのっちが、
こんなに人と話せるようになったなんて。
ちょっとだけ笑える。
笑いをこらえてると、
のっちの隣に座ったあ〜ちゃんと目があった。
途端に優しい顔をして、
“よかったね”
と、口の動きで伝えてくれた。
あ〜ちゃん。
ありがと。
あ〜ちゃん。
ごめんね?
ゆか、気付いとったよ?
だけど、どうしても譲れなかった。
あ〜ちゃん。
ありがと。
『ゆか?』
愛しい人の心配そうな声に我にかえる。
『どした?』
八の字眉が可愛い。
『“ゆか”だってぇ〜w』
隣であ〜ちゃんがちゃちゃをいれる。
『あ、いや。うん。まぁ・・・ね。』
あ、のっち照れとる。
『照れてるし〜w』
あははってみんなは笑って、
からかわれてるのっちが可愛い。
だから私も、
『ん、なんもないよ?てか今更照れるとか、なんなんよw』
だけど心配そうに何度も私を見つめる目は真剣で、
彼女の優しさに包まれてるみたいだ。
『はぁ、かなわん。』
困ったように、みんなと私を交互に見て笑うのっち。
うん。大丈夫。
大丈夫だったよ、のっち。
それも全部、
こんな優しい舞台を用意してくれたのはのっちなんでしょ?
ありがとう、のっち。
久しぶりの大学は居心地がよかった。
多分、のっちと、
多分、あ〜ちゃんのおかげ。
多分、二人ともゆかがいない間に考えてくれたんでしょ?ゆかのこと。
自分勝手に飛び出したのに、また受け入れてくれたみんなに素直に甘えた。
大学生活は思っていたより楽しくなった。
今日からバイトもはじまる。
授業がおわるとまた、
“当たり前”
みたいな顔をして、のっちが待っててくれた。
『かえろ。』
そう言って差し出してきた手を握って、
坂道を二人で歩いた。
こんな些細なことでも幸せを感じる。
のっちがいなかった半年間は、まるで生きた心地がしなかったから。
『うわ〜緊張すんな。』
急に繋いでた手をブンブンふりながら困った顔をする彼女。
『なにが??』
『バイト。』
『あぁwのっちって意外とびびりだよねw』
『いやいやw』
『ふふっw』
『あ、ばれてる?w』
『うん。ばれてるw』
『最初ってびびんない?』
『ん〜、楽しくない?』
『か、か、かなわん。』
『ふふっw』
『ゆかは?』
『ん?』
『今日何時まで?』
『多分9時』
『んじゃ迎えいく。』
『へっ?いいよいいよ!遠回りじゃん!』
『先おわるから。』
『いいって!』
『行きたいだけだから。』
『!!・・・あ、ありがと//』
『うん。』
離れたくないなぁ。
のっちは何でこんなにゆかの扱い方がうまいんだろう?
彼女との同棲生活も、もう半年近くたつ。
いつだって私は彼女に夢中で、
彼女の存在に霧中だ。
でも、それも、
悪くないんよ。
だって、
こんなにも愛しいから。
最終更新:2009年05月14日 03:34